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鬼の手の神官は総溺愛に気付かない  作者: 瀬那つくてん(加賀谷イコ)


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第2章 異能【2】

 部屋の前で待っていたエイカーと合流し、イテルはデラの案内を受けてダイニングへ向かう。イテルの足元に、ミィもゆったりと付いて来た。

 朝の神殿は、より輝いて見える。窓から射し込む陽の光が眩しく、壁の装飾や花台に飾られた花が美しい。外に面した廊下に出ると、朝日に照らされた庭園は光を放っているようだった。

 ダイニングでは、すでにレイシーがテーブルに着いている。イテルに気付くと、レイシーは穏やかな微笑みを浮かべた。

「おはよう、イテル。よく眠れたかな」

 イテルは小さく頷く。生まれて初めて熟睡できたような気がしていた。

「今日は能力値鑑定をする。イテルの異能について詳細を調べるんだ」

 イテルは幼い頃に街の鑑定士のもとで異能の鑑定を受けた。その結果、両親はイテルを家の奥に閉じ込めたのだ。その不安が顔に表れていたのか、レイシーはまた優しく微笑む。

「怖いことは何もないよ。イテルには神官の素質がある。きっと神に仕えるために必要な能力を持っているはずだよ」

 イテルにはいまだ、神官の素質というものに実感が湧かなかった。確かに猫のミィの声が聞こえるのは不思議だが、家族はイテルの手のことを恐れていた。そんな自分が神に通ずる何かを持ち合わせているとは思えなかった。

「家族になんと言われたかはわからないけど、きっと神はイテルを見守ってくれているはずだよ」

 イテルは曖昧に頷いた。レイシーは確信を持っているようだが、それがなんなのかはイテルにはわからない。ただ不安だけがイテルの心を占めていた。



   *  *  *



 朝食を終えると、レイシーはイテルを聖堂に案内した。その奥の小部屋に促されると、ミィが足元に付いて来る。デラとエイカーは小部屋に入らないようだった。

 レイシーはイテルを小さな机の前の椅子に促した。レイシーは机を挟んだ向かいに腰を下ろし、穏やかに微笑む。

「私たち神官は、人の能力を鑑定することができるんだ。街の鑑定士より正確にね」

 イテルの能力を視た街の鑑定士は、イテルの左手を「鬼の手」と判断した。レイシーには、それ以上のものが視えるのだ。

「まずは右手を見せてもらえるかい」

 イテルは緊張したまま右手を差し出す。手袋越しにレイシーの手の温もりが伝わってくる。それは優しくイテルを包み込むように広がり、一瞬にして消えていった。手を離したレイシーは、ふむ、と小さく頷く。

「やはり右手は“鬼の手”のようだね」

 イテルはミィに視線を遣った。その実、イテルは自分の能力のことをよく知らない。ミィはレイシーにイテルの問いを伝えた。

「“鬼の手”は、触れた者の生命力を奪う異能だ。きみが着けていた手袋は、魔力を遮断するもの。触れても生命力を奪わないようにしていたんだよ」

 イテルは幼い頃から、手袋を取ることを許されなかった。家族は、イテルの右手に触れることで生命力を奪われることを恐れていたのだ。手袋はイテルが成長するたびに新調された。両親は徹底してイテルの右手に触れないようにしていたのだ。

「でも、鬼の手は特段、珍しい異能というわけではないよ。何代かにひとりは生まれる。能力を使わなければ、普通に暮らす分には問題ないよ」

 イテルは安堵に息をつく。触れた者の生命力を奪う異能。そんな能力が右手に宿っていると考えると恐ろしい。この手袋を取れば、それはいとも簡単なこと。だから、両親はイテルを家の奥に閉じ込めたのだ。

「次は左手を貸してくれるかい」

 イテルは恐る恐る左手を差し出す。鬼の手たる痣があるのは右手だけだが、きっと左手にも何かあるだろうと思っていた。それがいま、発覚するのだ。ふむ、と呟いて手を離したレイシーは、イテルを安心させるように優しく微笑んだ。

「やはり……きみの両親は、このためにきみを幽閉していたんだ」

 確信を持つレイシーに、イテルは首を傾げた。

「きみの左手は“癒しの手”だ」

 イテルは心の中で繰り返す。いままでそんなことを聞いたことはなかった。ただ右手に鬼の手を宿していると、そう言われただけだ。

「家の奥の部屋に閉じ込められているあいだ、家族が度々訪れることはなかったかい?」

 イテルは小さく頷く。嫌な顔をしながら家族がイテルのもとに来ることが何度かあった。そのときイテルは、手袋を外して左手で触れるよう命じられた。それがなんなのかはわからなかったが、イテルは言う通りにしなければならなかった。

「きみの家族は“癒しの手”を利用していた。その利用価値の高さから、宮廷への申告を怠ったんだ」

『イテルは同時に鬼の手を宿している。諸刃の剣と言えるだろうな』

「だから家の奥に閉じ込めていたんだよ。万がいちにも鬼の手に触れないためにね」

 イテルにとってこの答え合わせは胸の奥が重くなるような気分だった。家族はイテルの能力を把握し、利用していた。イテルをただの道具のように思っていた。その事実が、イテルの心を痛め付けるようだった。

「一方は生命力を奪う手……。一方は生命力を与える手……。これは少々、特殊だと言わざるをえないね」

 難しい表情で呟くレイシーの表情に不安になり、イテルはミィに視線を遣った。

(僕はこれからどうしたらいい?)

 ミィがそれをレイシーに伝える。レイシーはまたイテルを安心させるように微笑んだ。

「特にどうということはないよ。きみはこの神殿で暮らす。その手袋を着けていれば、意に反して能力を使ってしまうこともない。何より、癒しの力は神官に向いているんだ。これから神に通ずる力も手に入るはずだよ」

 イテルは曖昧に頷いた。これから自分がどうなっていくかわからず、胸中を占めるのはただ不安だけ。この神殿で暮らすことで何が変わるかよくわからなかった。

「私はきみが健やかに成長することを願っている。ここでは好きなように暮らしていいんだ。これからは能力を悪用されることなく暮らしていけるんだよ」

 本来なら、イテルにとって喜ばしいことだろう。イテルもそれはわかっているのだが、この異能がイテルを不安にさせる。どこにいても何も変わらないのではないか、と。

「能力鑑定はこれで終わりだ。まずはイテルに完璧に合う手袋を作ろう」

 そう言うと、レイシーは宙に手をかざした。手のひらから溢れた光が、糸のように広がって何かの形を形成する。それは鳥だった。鳥はレイシーの手を離れると、窓から外に飛び立って行った。

「マダム・グランドを呼ぶんだ。それまでは自由に過ごしてもらって構わないよ」

『疲れたろう。庭園に行ってのんびりしようじゃないか』

 ぴょんと机から降りたミィが、扉の前に移動して小さく鳴く。部屋の外で待っていたデラとエイカーは、特に鑑定結果を訊くことはなかった。ミィが先導して庭園に向かう。そのあいだ、イテルはなんとも言えない感情を胸に秘めていた。




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