Episode:05
このシリーズは既に完結まで執筆しております。
3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。
塔郷南部――かつてレジスタンスの本拠地として栄えた街は、今では完全に死の街となっていた。
軍の掃討作戦によって抵抗勢力は壊滅し、街は見せしめのまま放置されている。瓦礫の山の上には、やせ細った老人や子供が座り込み、自らの指を齧って飢えをしのいでいた。
その瞳は――死んだ魚のように虚ろで、生気というものをまったく失っている。
空はどんよりと曇っていたが、スラム街に足を踏み入れた途端、雨がポツリ、ポツリと降り始めた。
冷たい雨粒がジャックの肩やオレンジ色の頭部を濡らす。街の陰鬱な空気と相まって、この場所の悲壮感をさらに濃く、鮮明にしていた。
――脳内マップに赤く表示されたポイントは、雨の中でもひときわ目立つ。
音がした。金属のぶつかる音、悲鳴、叫び声――。
ジャックは無言でその方向へ歩を進める。水たまりに反射する自分の姿が揺れる。
やがて視界に入ったのは、戦場だった。
ベオルが、複数のシスターたちに囲まれていた。
すでに深手を負い、血にまみれた体は痛々しい。背後にはアリスが怯え、震えている。
シスターたちは修道服から露出している手足の一部が機械化され、中には頭部まで機械になっている者もいる。
一目で――全員が改造者だと分かった。
「……これは……厄介ですね」
雨の音にかき消されるほど低く、ジャックは呟く。
ジャックはゆっくりと息を整え、前へ出た。
そして、ベオルの前に立ち、ハンカチを差し出した。
「な……なんで、お前がここに?」
「あのケガのまま放っておくわけにはいきませんから。後を追ってみれば、この状況ですよ」
ベオルの目が驚きと安堵の色で揺れる。アリスの手も少しだけ緩んだ。
ジャックの視線が戦場を支配するようにシスターたちに向かうと――その瞬間、異様な静けさの中で全員が唖然とした。
「何かしら……あのハロウィンのカボチャは?」
「カトレア姉さま、ボスが言っていた相談所の人間ですわ」
カトレアと呼ばれた金髪のシスターは光悦な笑みを浮かべ、機械化された右腕を撫でる。
「あら、ここにいると言うことは作戦がバレたようですね。オルカさんにも困ったものです」
「と、言うことは……」
他のシスターたちも不気味な笑みを浮かべ、ジャックを見据える。
「えぇ、そこのワンちゃんと一緒に駆除して良いわ。それから、アリスお嬢様を回収しましょう」
――カトレアの合図と共に、シスターたちが一斉に襲い掛かってきた。
シスターたちの攻撃は速く、正確だった。右腕を振るえば金属の刃が雨を切り、左脚で蹴りを放てばコンクリートの壁が砕ける。
ジャックは金属の右手で受け止める。火花が散り、雨粒に光が反射する。
ベオルは荒い呼吸のまま前に飛び出し、爪を振るう。しかし体力は限界に近く、動きは鈍い。
シスターたちはまるで統率の取れた猟犬のように、雨に濡れた路面を蹴散らしながら次々と襲い掛かってくる。
「エリザを中心に、先にワンちゃんの方を始末しなさい」
カトレアの冷たい声が戦場に響いた。命令を受けたシスターたちは、ベオルに狙いを定め、一斉に突進してくる。
中でもエリザと呼ばれた、赤髪のシスターは、右足に内蔵されたチェーンソーのような刃を高速で回転させて蹴りを放った。
その刃の回転音が、雨音をかき消すほど耳に突き刺さる。
「くっ……!」
ベオルは腕で蹴りを受け止めようとする。しかし、回転する刃が腕を捕らえ、鋭い音を立てて肉を削り取る。血が飛び散り、冷たい雨粒に混じって路面に赤く染み込んでいく。
「痛……っ!」
ベオルの叫びは雨音にかき消されそうになりながらも、必死に踏みとどまる。背後で震えるアリスの存在が、さらに心臓を締め付ける。
「貴方の相手は私ですわ、カボチャ頭さん」
カトレアの声は低く、だがどこか楽しげに響いた。
「レディからのお誘いは断らないのが私の流儀ですが……ここは行かせていただきます」
ジャックは軽く笑った。その余裕は、心の奥に潜む戦慄を隠すための仮面にすぎない。
カトレアが右腕を上げる――
金属の関節が軋み、機械音が湿った空気にこだました。
腕の外装が滑るように変形し、指先から鎖状の金属球が出現する。
雨粒が跳ねるたびに金属球が光を反射し、まるで小さな雷のように煌めいた。
「――まるでモーニングスターのようですね。美しいレディには似つかわしいかと」
「ふふ、私は気に入っているんですよ? 特に肉が潰れ、骨が砕ける音が……」
カトレアの瞳が冷たく輝く。
その先端は重厚な金属の球が鎖で繋がれ、振り回されるたびに空気を切り裂く音が響いた。
ジャックは一歩前に出る。
雨音と金属音、そして遠くで鳴る雷鳴が混ざり合い、戦場の空気は一層張り詰めていた。
雨に濡れた瓦礫の上、ジャックとカトレアの間に一瞬の静寂が落ちる。
その沈黙を破ったのは、鎖状の金属球が宙を切る鋭い音だった。
「行きますわよ、カボチャ頭さん!」
カトレアが腕を振り下ろす――モーニングスターが空気を切り裂き、ジャックの肩をかすめる。
一瞬の火花が雨粒に反射して小さな閃光となる。
「くっ……!」
ジャックは咄嗟に左手を上げ、鋭い振動を感じながら身をかわす。まともに受けていたら、間違いなく致命傷だ。
――ならば、距離を取る意味はない。
ジャックはそう悟り、一気にカトレアへ距離を詰める。
「あら? ダンスのお誘いかしら?」
「えぇ、一緒に一曲、いかがですか?」
ジャックが右手を握り、掌底を放つ――しかしカトレアは微笑むように、すかさず右足を振り上げ、ジャックの頭部へ蹴り上げてくる。
ジャックは体をひねり、ぎりぎりで蹴りを避けた。
だが――代わりに放った掌底は空を切り、不発に終わる。
「ふふ、狙いは外すものよね」
カトレアは微笑みながら、その隙を逃さず右腕の鎖を巻き付け、ジャックの右腕を拘束した。
鋼鉄の鎖が軋み、雨音に混ざる金属音が戦場に鋭く響く。
だが――ジャックは微動だにせず、鎖を握りしめると、その力を一気に解放。
拘束したまま、カトレアごと宙に放り投げた。
――空中で体が浮くカトレア。
だが彼女は焦らない。巧みに鎖を操り、先端の鉄球を壁に打ち込み、落下の勢いを巧妙に殺すと、軽やかに着地した。
「意外と力はあるのね? 力強い男性は好きよ」
ジャックは一瞬だけ微笑み返す。
「それは光栄ですね」
雨と金属音に包まれた戦場で、二人の間に一瞬の静寂が走った。
まるで次の動きが、戦場のすべてを左右するかのように。
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