Episode:31
このシリーズは既に完結まで執筆しております。
3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。
「……これが、貴女の選択ですか。シスター・オルカ」
低く、静かな声が通路に響いた。
振り返ると、エヴァンの後を追ってきたジャックが立っていた。
オルカは一瞬だけ目を伏せ――
次の瞬間、すっと片膝をつき、頭を垂れた。
「――我が主よ」
「…………主?」
予想外の呼び方に、ジャックは明らかに戸惑った。
「先ほどは……見苦しい姿をお見せしてしまい、申し訳ございませんでした」
「い、いえ……それは構いませんが……その呼び方は……?」
問いかけに対し、オルカは顔を上げる。
その表情には、恐怖も迷いもない。
あるのは、確信と敬虔さだけだった。
「死神は、私にとって崇拝する存在です」
オルカは迷いなく言い切った。
「その死神から――『生きろ』と、命じられました」
胸に手を当て、祈るように、しかし確かな声で続ける。
「ですから、これからは……貴方のために生きます。罪を背負い、償いながら――それでも、生き続けます」
それは忠誠ではない。
命じられたから従うのでもない。
救われた者が、自ら選び取った“生き方”だった。
その言葉を受け、ジャックは言葉を失った。
困惑は深まるばかりだったが――
確かに、自分は彼女に「生きろ」と告げた。
今さら、その覚悟を否定する資格など、自分にはない。
「…………分かりました」
長い沈黙の末、ジャックはそう答えた。
「私は……人の生き方に口を出せるほど、立派な人間ではありません」
そう前置きしてから、静かに問いかける。
「ですが……それでも、聞かせてください。なぜ、エヴァン神父を殺めたのですか?」
オルカは膝をついたまま、顔を伏せて答えた。
「……これは、シスター・オルカである私の、最後の役目です」
淡々とした声。
だが、その奥に、重い決意が滲んでいた。
「同じ外道だからこそ、分かります。あの者は――罪を償わず、必ず同じ過ちを繰り返す」
ゆっくりと顔を上げ、まっすぐにジャックを見る。
「新たな犠牲者が生まれる前に、私の手で止めました」
一拍、置いて。
「……もちろん、この罪も背負って生きていくつもりです」
逃げも、言い訳もない。
それは裁きではなく、覚悟の告白だった。
「覚悟があるのでしたら……私は止めません」
ジャックはそう告げると、オルカの前に片膝をついた。
それは命令でも裁きでもない――同じ目線に立つための仕草だった。
そして、ゆっくりと手を差し出す。
「その罪……私も共に背負っていきましょう」
処刑人の言葉ではない。
救済者の言葉でもない。
ただ、同行者としての宣言だった。
オルカは一瞬だけ目を見開き――やがて、柔らかく微笑んだ。
「……ありがとうございます。死神さん」
そっと、その手を握る。
冷たいはずの金属の指先は、不思議と温かかった。
それは契約でも誓約でもない。
ただ、
生き続けると決めた者同士が交わした、静かな約束だった。
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