Episode:29
このシリーズは既に完結まで執筆しております。
3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです
「な、なぜだ……!」
エヴァンの声が裏返る。
「腹部を貫いたはずだ……! 致命傷のはずだぞ! なぜ、あそこまで動ける……!?」
本能で戦うベオルの姿を、理屈でしか世界を見られないエヴァンは理解できない。
――そのときだった。
「……げほっ……」
制御の中心に立っていたアリスが、突然血を吐き、崩れるように膝をついた。
「アリス!?」
ベオルの叫びに、エヴァンの顔色が一変する。
「くっ……これ以上はアリス君が持たない……!」
舌打ち一つ。
「仕方ありません。――アリス君、命令です」
狂気を孕んだ声で、彼は言い放つ。
「シスターたちを自爆させなさい。この施設ごと、彼らを破壊するのです!」
その瞬間、ベオルが弾かれたように駆け出した。
「させるかよッ!!」
だが――
ベオルの進路を塞ぐように、残ったシスターたちが一斉に飛びかかる。
数人が同時に腕や脚に絡みつき、さらに背後から抱きつく。
「ぐっ……!」
重量がのしかかり、動きが止まる。
「くそっ……離しやがれ!!」
引き剥がそうと力を込めるが、機械化された身体は想像以上に重く、しつこい。
「さぁ、爆ぜなさい!」
エヴァンが叫んだ――その瞬間。
乾いた銃声が、実験場に響き渡った。
――パンッ。
全員の視線が、一斉にそちらへ向く。
床に座り込んでいたはずのジャックが、いつの間にか指先をアリスへ向けていた。
そして放たれた一発は、正確に――アリスの右胸部を撃ち抜いていた。
「なっ……!?」
「アリス!? ジャック! てめぇ、何を――!」
ベオルの怒声を遮るように、ジャックは静かに口を開く。
「安心してください」
撃ち出した指を、そっと自分の唇へ添え。
「――発芽せよ」
次の瞬間。
アリスの体内に埋め込まれた弾丸から、淡い緑の光が滲み出した。
光は蔦となり、枝となり、やさしく、しかし確実にアリスの身体を包み込んでいく。
締めつけるのではない。
守るように、抱きしめるように。
「Mr.ベオルが活路を切り拓いてくれたおかげです」
ジャックは微笑む。
「Miss.アリスを――救えます」
蔦が伸びるにつれ、シスターたちの動きが目に見えて鈍っていく。
抱きついていた腕の力が抜け、拘束が解けていく。
「な、何が起きている!?」
エヴァンが狼狽える。
「《Seed Bullet》は、周囲のエネルギーを吸収して成長します」
ジャックは淡々と説明した。
「そして成長の過程で――対象の制御系、演算系、命令系をジャミングする副作用がありまして」
視線を、エヴァンへ向ける。
「――貴方の“天使たち”は、もう動けませんよ」
それは声を荒げるでもなく、感情を露わにするでもない。
ただ事実を告げる、静かな宣告だった。
「ば、馬鹿な……!」
エヴァンの喉から、掠れた叫びが漏れる。
「エリーニュスは完璧なのだ……! 私の芸術だぞ! それが……弾丸一発で破壊されるなど……!」
「芸術、ですか」
ジャックはゆっくりと立ち上がった。
先ほどまで膝をついていたとは思えぬほど、その動きは静かで、確かな力を取り戻している。
「子供の誘拐」
一歩。
「非合法な改造手術」
また一歩。
「非人道的な人身売買」
淡々と、だが確実に距離を詰めながら言葉を積み重ねる。
「それらを芸術と呼ぶなら――貴方は芸術家でも、開発者でもありません」
機械仕掛けのカボチャの頭。
本来、表情など存在しないはずのその顔が――
確かに“冷たく、鋭く睨み据えている”と、誰もが感じた。
「貴方はただの犯罪者です」
断罪の言葉が、実験場に落ちる。
「己の罪と向き合い、償いなさい」
「は、犯罪者……?」
エヴァンの口元が引き攣る。
「稀代の発明家である私を……犯罪者呼ばわりだと……?」
後退る足取りはおぼつかず、床に転びそうになりながらも距離を取る。
「ふざけるな……!」
叫ぶと同時に、エヴァンは踵を返した。
転がるように、惨めな姿で実験場の出口へと逃げ出す。
「お、おい!」
ベオルが思わず声を上げるが――
「Mr.ベオル」
ジャックがそれを制した。
「私が追います。貴方は――」
ちらりと、蔦に守られたアリスへ視線を向ける。
「Miss.アリスの傍にいてあげてください。それが、今の貴方の役目です」
「……わかった」
短く、しかし力強く頷くベオル。
ジャックはコートの襟を正し、乱れた服装を整えると、逃走する男の背中を見据えた。
その歩みは、急がない。
だが、逃がさない。
「――さて」
紳士は静かに呟く。
「罪には、きちんと終止符を打ちましょう」
そして、死神は闇の奥へと消えていった。
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