Episode:02
このシリーズは既に完結まで執筆しております。
3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。
塔郷の地下繁華街。
地上の光が届かないその場所は、無数のネオンと電子広告が痛いほど瞬いていた。
香水とオゾンと、血と油の匂いが入り混じる——それがこの街の空気だ。
ジャックとレベッカは、薄暗い螺旋階段を下りていた。
階下では、喧騒と笑い声が渦巻き、人間、改造者、亜人が肩を並べて歩いている。
機械の義肢、光るタトゥー、電子義眼——この街では、誰もがどこか“壊れて”いた。
「ここは……?」
レベッカが怯えたようにジャックを見上げる。
「Miss.レベッカ。あなたの新しい住まいですよ」
ジャックは立ち止まった。
ショッキングピンクのライトが強烈に照らす店の看板には、
《エンジェル・パープル》と煌々と書かれている。
「す、住まい……?」
「えぇ、私の知人が経営しているお店です。身寄りのない者たちを雇っている、ちょっと変わった店でしてね」
ジャックは扉を押し開けた。
中から音楽と笑い声、そして甘ったるい煙草の匂いがあふれ出す。
「お化けカボチャさーん! ひっさしぶりぃ~!」
派手な衣装の女性が駆け寄ってくる。
頭には小さな角、背中には黒い羽——サキュバスだ。
「やぁ、Miss.ストロベリー。お元気そうで何よりです」
「今日もご飯? ……それとも、やっとアタシを抱く気になったぁ?」
「残念ながら、貴女のような美しい方は私には勿体ないです。Miss.パープルはいらっしゃいますか?」
「ちぇ~! ママ呼んでくるから、逃げないでね~!」
サキュバスが駆けていくと、レベッカはぽかんと口を開けた。
「こ、ここって……」
「彼女たちも、私が以前保護した方々ですよ」
「保護……?」
「えぇ、ここのママさんの希望で身寄りの無い亜人などを住み込みで雇っている所なんですよ。先程の方も、ここで暮らしながら働いているサキュバスのMiss.ストロベリーです。ママさんもとてもいい人なので安心してください」
その時、奥の扉が開いた。
紫のドレスを纏い、杖をつく豊満な女性が現れる。右足を引きずりながら杖を突いていた。 女性は近くのテーブルに手を付きながら椅子に座り、杖を置いた。
「まったく、相変わらず口が上手いねぇ、カボチャ頭」
「おや、Miss.パープル。いつもお美しい」
「……で、その子が新入りかい?」
「えぇ。事情があって行く当てが無いそうです」
「働きたいのかい?」
「は、はい……でも、私なんかが……」
「構わないよ。うちはね、“居場所がない子”が集まる場所だから」
その言葉に、レベッカの瞳から大粒の涙がこぼれた。
「……ありがとうございます……本当に……」
「お気になさらず。レディに涙は似合いませんから」
ジャックは軽く帽子のつばを下げ、一礼する。
「Miss.パープル、後はお任せします」
「はいよ」
ジャックは帰る際、ほとんどの店員に挨拶しながら店から出ていった。
ジャックが去ると、店の中は少し静かになった。
パープルはグラスにウイスキーを注ぎ、一口飲む。
「パープルさん」
「ママって呼びな」
「ママさん……あの人はいつもこんなことを?」
「そうだねぇ……ここにいる連中は皆、あのカボチャ頭が連れてきたんだよ」
「え?」
レベッカはパープルの言葉に驚いた。
ざっと見ただけでもここにいる店員は20人もいたからだ。
「全員、元娼婦や犯罪者さ。どこで会ったんだが知らないけど……いつも、あの男が連れてくるんだよ…………まぁ、私もこの足で働けなかったから丁度良かったけどね」
パープルはスカートを少し捲り、引きずっていた足をレベッカに見せた。
パープルの足は機械化されていた。
「ママも改造者なんですか」
「これはただの義足さ」
「す、すみません!」
「いつもの事さ。気にしなくて良いよ」
パープルはテーブルに置いてあったウィスキーをグラスに注ぎ、一口飲む。
「あの人、いったい何者なんですか?」
「ふふ、知らずに助けを求めたのかい?」
「“ランタン相談所”が何でも解決してくれるって聞いて……」
「そう。ヤツはこの都市で唯一、公式に認められた魔改造者さ」
「唯一の……?」
パープルはグラスの中のウィスキーを飲み干し、テーブルに置いた。
「ささ、お喋りはここまでだ。レベッカ、今日からバリバリ働きなよ」
「は、はい! よろしくお願いします!」
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