Episode:25
このシリーズは既に完結まで執筆しております。
3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。
「はぁ……はぁ……さすがですね、“死神”」
「触れたものをすべて殺す。感情も、躊躇もない。完全なる破壊の象徴――私が崇拝してきた存在よ」
ジャックは静かにその言葉を聞き、ゆっくりと視線を落とす。
凍てつくような無表情の奥で、深い痛みが揺れていた。
「理想、ですか」
「そうよ」
「あなたは選ばれし殺戮者。戦場で、何千もの命を淡々と奪い、血霧の中を歩く姿――あれこそが“死神”。私が目指すべき頂点」
オルカは狂気に濡れた笑みを浮かべ、震えながら叫んだ。
「だから私は努力した! 弱者を踏み潰し、悲鳴すら快楽に変えて、強さだけを信じてきた……! なのに!! どうしてあなたに追いつけないの!? 何が違うのよ!!」
ジャックは黙って血に濡れた手を見る。
その手は幾度も命を奪ってきた重さを知っている。
「……私は“死神”などではありません」
「――は?」
オルカの瞳に走る大きな亀裂。
「私はただ、命令に従い、人を殺しました。望んで行ったわけではありません。戦場に立てば、必ず誰かが死ぬ。私がしたのは、それだけのことです」
「嘘……」
「そんな、つまらない言葉で私を貶めるつもり?」
「誇りではありません。むしろ、後悔しております。“死神”と呼ばれるたびに」
声は驚くほど静かで、痛みを含んでいた。
「私は英雄でも悪魔でもない。ただ、救えなかった声が、今も耳に残る――その重さに押し潰されそうな、ただの人間です」
オルカの表情から血の気が失われていく。
「じゃあ……私は何のために血を流してきたの……?」
「“死神”になれば誰にも踏みにじられずに済むと思った!」
「それだけが、私の生きる意味だったのに……!」
叫びは涙と共に崩れ落ちた。
「返して……私の“死神”を返してよ……“死神”が後悔でできているなんて……そんなの、耐えられるはずがない……っ」
足元の蔦が力を失い、粒子になって崩れる。
誇りも、信仰も、狂気も――すべてが崩壊し、瓦礫のように散った。
オルカは床に崩れ落ち、震える手をジャックへと伸ばす。
「お願い……もう一度だけ見せて……あの完璧な“死神”の姿を……そうじゃなきゃ、私……何のために生きてきたの……?」
ジャックは目を伏せ、小さく呟く。
「……私は、もう誰にも死を見せたくありません」
その言葉は、オルカの心を完全に砕き去った。
戦意は失われ、彼女はその場に座り込み、虚ろな瞳で床を見つめる。
決着はついた――そう、ジャックは確信した。深くため息を漏らし、ナイフを片付けようとしたその瞬間。
――ビリリ、とオルカに電流が走った。
初めは、吸収していた電力の余波かと思った。だが、どうやら様子が違う。
もう戦えるはずもないオルカが、ゆっくりと立ち上がっていたのだ。
本人ですら、何が起きているのか理解できずにいる。
「な……なぜ……」
体が言うことをきかない。
足取りは覚束ない。
それでも、オルカは前へ進んだ。
「……エヴァン……ッ。アリス様の力を経由して、私を操るつもり……?」
必死に抵抗しようとするが、身体は無慈悲にも命令に従う。
布が裂け、露わになった肢体――だが、そこに人間らしさはほとんど残っていなかった。
ジャックは視線を逸らす。
いや、逸らす必要すらなかった。
オルカの身体は、ほぼ完全に機械化されていた。
胸部――心臓の位置に埋め込まれた、赤く妖しく輝く核。
それは生命ではなく、“制御装置”だった。
「まさか……私を、暴走させるつもり……ふざけるな……ッ!」
勝手に動く右手が、胸の核を掴む。
次の瞬間、身体の奥から不快な駆動音が鳴り響いた。
――握り潰される。
赤い光に亀裂が走り、
そして。
「私は……ただ……死神になりたかっただけなのに……!」
核が砕けた瞬間、
オルカの身体が“変形”を始めた。
無数の管が蠢き、肉体を包み込み、膨張していく。
光が弾け、鉄と肉が融合し――
人の形は、完全に失われた。
「――――――」
ジャックは言葉を失う。
「キュイイィィィィイイイッ!」
それは叫びか、金属音か。
判別不能な悲鳴が実験場を揺らした。
柱を薙ぎ、天井を砕く無数の触手。
粉塵が舞い、建造物が悲鳴を上げる。
「……やるしかありませんか」
ジャックはナイフを強く握り直す。
次の瞬間、
機械の怪物が敵を認識し、触手を一斉に放った。
ジャックは地を蹴る。
宙を舞い、触手の隙間を縫う。
閃光。
ナイフが走り、触手が裂け、金属音が連鎖する。
「――まるで地獄のオーケストラですね」
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