Episode:23
このシリーズは既に完結まで執筆しております。
3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。
ジャックは、異様な光景を前に立ち止まった。
そこには、数体の死体を引き連れたオルカが立っていた。
いや――立っているだけではない。
死体たちは糸で吊られた操り人形のように、ぬるりと、不自然な軌跡を描いて動いていた。
オルカの背後で、崩れた肉体がぎこちなくも精密に隊列を組む。
それを操っているのは、彼女の身に宿るエリーニュスの力。
「ふふ……さぁ、死神の力を味わいなさい」
指先が弾けるように鳴らされた瞬間――
死体たちが一斉に銃を構えた。
引き金が連続で引かれ、銃声が室内を埋め尽くす。
次の瞬間、銃弾の雨がジャックの身体めがけて放たれた。
ジャックの足が地を蹴る。
弾道を読むかのように、鋭くジグザグへと疾走する。
掠める弾丸が頬を通り過ぎ、床に火花が散る。
右手の人差し指が死体へ向けて伸びた。
指先から高速の弾丸が放たれ、死体の胸を正確に穿つ。
だが――
死体は微動だにしない。
血も吹き出さず、痛みを感じる素振りすらない。
それどころか、身体を傾けながらも普通に銃口をジャックへ向け直した。
「……キリがありませんね」
ジャックは小さく息をついた。
冷静だが、その瞳にはわずかな苛立ちが走る。
対するオルカは楽しげに口元を緩めた。
「さぁ、どうしますか? 死んでいる彼らを――もう一度殺すつもりですか? ジャック・オ・ランタン」
オルカの嘲笑と同時に、彼女の腰から伸びた触手が床を裂く勢いでジャックへと迫る。
ジャックが操られた死体への対処に意識を割いた、その一瞬の隙を狙った攻撃だった。
銃撃の雨が休むことなく降り注ぎ、
その合間を縫うように、鋭い触手が蛇のような軌跡を描いて飛び込んでくる。
ジャックは地を滑るように身をかわし、迫る触手を腕で弾く。
だが、次の瞬間には別方向から銃弾が飛来する。
攻撃が止まらない。
死体の銃撃と触手の連撃――二つの軸が、ジャックの行動を完全に縛り上げていた。
「…………」
無言のまま、ジャックの瞳が細められる。
攻撃を回避しながら、その胸中では激しい葛藤が渦を巻いていた。
――倒す手段はある。
目の前の“死神”を名乗る彼女を止める方法は、もう見えている。
けれど、それを使えば、オルカの信じる“死の価値観”を容認する形になってしまう。
その選択をしてしまえば、自分は同じ過ちを繰り返すことになる。
触手が床を抉り、銃弾が壁を粉砕し、無表情の死体たちが密度の高い包囲網をつくる。
その中心に追い詰められながらも、ジャックはなお胸の奥で揺れる決断を押し殺していた。
「逃げているだけでは、どうすることもできませんよ」
オルカが軽く手を掲げた瞬間、すべての死体がぴたりと動きを止める。
不気味な静寂が訪れる。
「そうですね……このままでは興ざめなので、特別に“良いもの”をお見せしましょう」
指が鳴る音が室内に響いた。
同時に、壁面のスクリーンが一斉に光を放ち、映像が映し出される。
ジャックの視線がそちらに吸い寄せられた。
――手術台。
そこに縛りつけられた、小さな子供。
「この映像は……」
「えぇ、エリーニュスの“実験映像”ですよ」
映像の奥には、白い衣をまとった数人のシスター。そして、エヴァン。
泣き叫ぶ子供に、彼らは一瞥すらくれない。淡々と準備を整えるだけ。
注射器を手にしたエヴァンが近づくと、子供の泣き声は急速に弱まり――
ついには、完全に途絶えた。
静寂が訪れた瞬間、手術が始まる。
「…………」
ジャックは拳を握りしめたまま、動かなかった。
だが、映像が切り替わった瞬間――その瞳が大きく見開かれる。
「っ!」
スクリーンに映るのは、アリス。
オルカはその反応を見逃さず、歪んだ笑みを深くした。
「そして、こちらが数時間前に行われたアリス様の“改造手術”です」
青白い光に照らされ、アリスは無数の管と電極につながれていた。
エヴァンがスイッチを押すと、強烈な電流が彼女の体を走る。
アリスは意識を取り戻し、状況が理解できずに泣き叫ぶ。
だが、数秒後には再び気絶。
そのたびにエヴァンは機械を操作し、管を通って何かが流し込まれる。
しばらくして――アリスの機械化された部位が眩く光を放ち始めた。
ゆっくりと瞼が開かれる。
その瞳に、もう“アリス”らしさはなかった。
生命の揺らぎも、意思も、感情もない。
ただ、造られた機械の光だけが宿っていた。
そこで映像は途切れ、スクリーンは沈黙する。
「アリス様の改造手術は成功し……エリーニュスは、晴れて完成したようです」
「…………」
「私は死神のような力を手に入れるため、エヴァンさんの策略に進んで協力しました」
沈黙したまま微動だにしないジャックを見て、オルカは愉悦を隠しもせず語り続ける。
「最初はエリーニュスなんて興味もなかったんですが……子供が泣き叫ぶ声って、何度聞いても背筋が震えるほど素晴らしいですねぇ……」
その瞬間――
ジャックの内側で、何かが“ぷつり”と切れた。
「…………そうですか」
押し殺されていた声が、低く、しかし刃のように鋭く漏れた。
ゆっくりと顔を上げたジャックの機械の瞳が、深い底光りを放つ。
オルカの視界にその眼が映った──その瞬間。
背筋に、氷柱をねじ込まれたような悪寒が走った。
理解より先に、身体が反応した。
産毛が総立ちになり、心臓が縮むような感覚が胸を貫く。
――殺気。
圧倒的で、理屈を超えた“殺すためだけの意志”が、容赦なくオルカを呑み込んだ。
呼吸が浅くなる。
指先が勝手に震える。
頬を伝う冷たい汗が、妙に生々しい。
たった一言、声を発しただけで。
目の前の男の輪郭が、死そのものに変わって見えた。
「な……なんですか……これは……?」
「三十年前に起きた亜人戦争……そこで一人の男は、ある少女と出会いました」
ジャックは淡々と、氷のような声で語りながら、一歩、また一歩とオルカへ歩を進める。
「何を……言って……」
「男は戦争の中で多くを殺し、恐れられました。出会った少女にも恐れられ……その目の前で、敵を五人、殺したのです」
「……っ」
オルカの胸に、言いようのない戦慄が生まれた。
幼いころに見た、あの“死神”との邂逅。
自分が崇拝してきたあの存在。その描写に、あまりにも似ている。
「ま、待って……何の話を……」
声が震える。
心の奥で、何かが本能的に叫んでいた。
──やめろ。
──言うな。
──知りたくない。
「その軽率な行いで……少女は、人の道を踏み外してしまった」
ジャックはゆっくり右腕の袖をまくり、その機械の外装を外す。
内部から現れたのは、金属光沢のキーボード。
左手がその上に伸び──
一瞬だけ、躊躇が宿った。
だがすぐに、機械的な正確さで指が踊り出す。
コマンドが次々に入力され、ジャックの脳内に警告音が鳴り響いた。
視界に、禍々しい赤黒いウィンドウが浮かび上がる。
『Grim Reaper System』
死神の名を冠した警告画面が、ジャックの視界に赤黒い光をゆらめかせる。
まるで“戻れない境界線”を示すかのように。
「…………起動」
その一言は、何かを断ち切るように静かだった。
直後、ジャックの橙色の瞳がじわりと滲み、赤黒い光へと変貌していく。
血のように濃く、闇のように深く──感情の色が完全に消え失せた瞳。
ジャックは右眼の縁にそっと指を添えた。
カシャン。
乾いた金属音とともに、右眼が“シャッター”のように分割して開く。
その奥には、眼球ではなく精巧なホルダーが隠されていた。
ジャックはその内部に指を差し込み──静かに、何かを引き抜いた。
右手に握られていたのは、小さな一本のナイフ。
漆黒。
しかしただ黒いだけではない。
刀身は闇を吸い込み、その縁からは妖しい紫の光がゆらめくように滲んでいる。
禍々しく、だが神秘的な輝き。
“これは殺すためだけに存在する”と直感で理解できる形。
オルカの喉から、意図せず息が漏れた。
「貴女が死神を名乗るというのなら――」
ゆらりと、赤黒い瞳がオルカを射抜く。
「死神と呼ばれたこの私が、貴女に引導を渡しましょう」
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