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Episode:22

このシリーズは既に完結まで執筆しております。

3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。

 ベオルは薄暗い廊下を、一人息を切らしながら駆け抜けた。

 冷たい壁の影が、まるで彼を押し潰そうと迫ってくるようだった。


 奥の部屋へ滑り込んだ瞬間――異様な静けさが肌を刺す。


 そこには、ブリュンヒルデ教会の神父――エヴァン・ヘリオがいた。


 ソファに腰掛けたエヴァンは、戦場の只中とは思えぬほど優雅にワインを傾けていた。

 微笑は穏やか。だが、その奥に潜む何かが、ひどく“狂って”いる。


 その隣にはアリスが立っていた。


 だが――目の光がない。

 生気も温度も感じない。

 まるで魂の抜けた人形のように、ただ静かに立ち尽くしていた。


 ベオルの心臓が痛いほど跳ね上がる。

 理解してしまった。

 ここにいるアリスは、もう“人としてのアリス”ではない、と。


「アリス!」


 叫びは虚しく空気を震わせただけだった。

 アリスは微動だにしない。


「おや? 誰かと思ったらベオルではないか。てっきり、例の便利屋の方が来ると思っていたのだが」


 ワインを置き、エヴァンはゆっくり立ち上がる。

 その所作一つ一つが、優雅で――そしておぞましい。


「てめぇ……アリスに何しやがった!」


 ベオルの怒号にも、アリスは反応しない。


 胸の奥の焦りが、じりじりと肉を焼くように広がっていく。


「君も知っているだろう? アリス君は“天使”となったのだ」


「……天使だぁ?」


 獣の如き唸り声が漏れる。爪が怒りで震えた。


「そうだ。我々はついに、エリーニュスを完全な形へと昇華させた。――すべてはアリス君のおかげでね」


 エヴァンは無邪気な笑みのまま、アリスの頭を撫でた。


 その手が、ベオルの怒りの地雷を踏み抜く。


「汚ぇ手でアリスに触るんじゃねぇ!」


 臨界点を超えたベオルが飛び込む――

 だが、その進撃は影から現れた複数のシスターによって即座に封じられた。


 成人女性数人など、獣人のベオルにとって恐るるに足らないはずだった。

 だが、爪が空を裂くたび、シスター達は鉄壁のように動かず押し返してくる。


「な、なんだこいつら……普通じゃねぇ!」


「えぇ、彼女たちは全員エリーニュスを使用しているのだよ」


「なっ……だが、暴走してねぇ!」


 エヴァンは楽しげに指を鳴らした。


「アリス君のおかげだ。彼女が使用者たちの意識を統合・統一し、完全に制御している。暴走も精神負荷もなくなった。そして――彼女を“核”としたことで、今では命令一つで動く兵器だ」

 

 その言葉と同時に、ベオルを抑えていたシスター達が一斉に動きを止めた。

 そして、機械じみた同期した動作でエヴァンの前へ整列する。


 そこにいるのは人間ではない。

 精巧な殺戮人形だ。


「エリーニュス――これで最高の兵器が完成したのだよ」


 空気が一瞬で凍りつく。

 ベオルの胸の奥で、怒りと恐怖が火花を散らした。


「ふざけんな! アリス! 聞こえてるだろ! 返事してくれよ!」


「無駄ですよ」


 エヴァンは軽い調子で告げた。


「彼女はもう“エリーニュスの核”だ。個としての意識は存在しない」


「この外道がぁッ!」


 ベオルは吠えるように飛びかかったが、シスター達が寸分違わぬ動きで立ちはだかる。


「邪魔だッ!」


 爪の一閃――

 だが、その攻撃は完璧に受け止められ、逆に空いた腹部へ鋭い蹴りが叩き込まれた。


「ぐっ……!」

 

 崩れ落ちたベオルへ、シスター達は容赦なく追撃を浴びせる。

 無機質な瞳のまま後頭部へ蹴りが落ちる。

 彼女たちに“情け”や“躊躇”という概念はない。


「舐めるなよォ!」


 ベオルは吠えながら、目前のシスターの足首を掴んだ。

 そのまま巨腕がしなり――振り回されたシスターの身体が戦槌のように他のシスター達を薙ぎ払った。


 一瞬だけ、道が開いた。


 ベオルは全身をねじ込み、アリスへと駆け込む。


「アリス!」


 手を伸ばす。

 届く――そう思った瞬間。


 四条の光線が、背中から胸へと串刺しにした。


「……がっ!」


 灼ける痛みが神経を焼く。

 視界がぐらりと揺れ、膝から力が抜け落ちる。


 何が撃った――?


 振り返ると、掌ほどの球体が四つ。

 無機質なセンサーがベオルを静かに捉え、アリスの周囲を守るように漂っていた。


「な……んだ、こいつら……」


 エヴァンの笑い声が、瀕死のベオルの耳にねっとりと絡みつく。


「くくっ……詰めが甘いですね、ベオル」


 彼は球体を指し示し、陶酔したように目を細めた。


「核である彼女を無防備にするわけがないでしょう。アリス君には“防衛プログラム”が組み込まれています。敵と認識した対象へ最適解のレーザーを放つ――完璧なシステムです」


 崩れ落ちたベオルのすぐ横に立ち、エヴァンは声を潜める。


「どうです? これがエリーニュスの力ですよ。素晴らしいと思いませんか?」


「ア……アリスは……てめぇの玩具じゃねぇ……」


 ベオルは血を吐きながらも前へ進もうと、腕を伸ばした。


 エヴァンはその手を、容赦なく踏みつける。


「無駄ですよ。彼女はもう人間ではない。エリーニュスそのものだ」


「……アリス……」


 痛みと絶望だけが、ベオルの声を掠れさせて消えていった。



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この話を読んでいただきありがとうございます。


「面白いかも! 続きが楽しみ!」

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