Episode:20
このシリーズは既に完結まで執筆しております。
3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。
少女は、弱い七歳に過ぎなかった。だが手には銃が握られている。
孤児だった彼女は、戦場に駆り出され、戦争難民のふりをしながら、敵を次々と撃ち倒していった。
――殺さなければ、殺される。
毎日、恐怖に押し潰されながらも、少女は震える指で引き金を引いた。
ある日、いつも通り“難民”のふりをして、敵の姿が現れるのを息を潜めて待っていた。
だが、戦況は一変した。少女がいたその場所は、あっという間に激戦区に変わったのだ。
弾丸が空を裂き、砲弾が地面を爆ぜさせる。
つい先ほどまで隣に座っていた少年――笑っていたはずの友――その上半身が、閃光とともに吹き飛んだ。
――逃げなければ。
頭の中はその言葉でいっぱいになった。逃げろ、逃げろ、逃げろ……。
夢中で走り続けた少女は、突然、何かに足を取られ、地面に転んだ。
――足元は……
目を見開くと、そこにあったのは死体だった。ひしゃげ、血に染まった、無言の死者。
心臓が一瞬、凍りつく。少女は必死に周囲を見渡す。
――死体の山。
そこには無数の人々が積まれていた。戦争の残酷さが、まざまざと目の前に広がる。
そして、その頂上に、男が立っていた。
灰色の髪は血で濡れ、瞳には生気はなかった。だが、彼の存在感は――圧倒的だった。
少女は、声も出せず、ただその光景を見つめるしかなかった。
灰髪の男と視線が合う。男はゆっくりと、死体の山から下りてきた。
少女の手は震え、銃を必死に握り締める。
――撃たなければ、殺される。
けれども、男の前では体がまるで鉛のように重く、動かなかった。
少女はその場に座り込み、体を丸め、命乞いをするしかなかった。
灰髪の男は、静かに少女の目の前で立ち止まる。
そして――そっと、少女の頭に手を置き、撫でた。
少女の目は、大きく見開かれる。
頭を撫でられる感触に、思考が追いつかず、体は硬直したまま。
「――え……?」
その瞬間、背後から怒声が響いた。
「いたぞ!」
少女が振り返ると、兵士たちが銃を構えていた。
獣人の姿をした兵士――亜人軍の敵だった。
その銃口は、灰髪の男――“死神”に向けられている。
「死神め! よくも仲間を!」
怒号とともに、銃声が飛びそうな緊張が走る。
だが、灰髪の男は無表情のまま、兵士たちを静かに見据えるだけだった。
「ここで、死ね――!」
兵士たちが一斉に引き金に指を掛ける。
その瞬間――男の姿は、風のように一瞬で消えた。
「は……?」
驚愕に凍りつく兵士たちの視界の中、突如、首筋から鮮血が噴き出し、ひとりが崩れ落ちる。
その背後に、灰髪の男が立っていた。ナイフを握りしめ、無表情で兵士を見下ろす。
少女の心臓は、恐怖と戦慄で跳ね上がる。
その圧倒的な存在感――死神と呼ばれる所以を、少女は直感で理解した。
「ひ、怯むな! 数は……こっちの方が有利だ!」
兵士たちは必死に銃を構え、弾丸の雨を降らせる。
少女は思わず身を屈め、飛び交う弾丸をかいくぐる。心臓は激しく打ち、鼓膜が裂けそうな轟音が頭を支配する。
そのとき――灰髪の男は、転がっていた死体を片手で拾い上げた。
盾として銃弾を受け止めるその姿は、まるで人間離れした戦士そのものだった。
そして、死体が装備していたサブマシンガンを片手で構える。
もう片方の手で死体を立てたまま、男は冷徹に引き金を引いた。
放たれた弾丸は、兵士のひとりを瞬時に蜂の巣にした。
その光景に、他の兵士たちの手が一瞬止まる。
灰髪の男はその隙を逃さず、盾にしていた死体を放り投げ、兵士たちに向かって突進する。
「ひっ、く、来るな……っ!」
至近距離で銃を撃つ兵士がいた。
だが、灰髪の男は指先一つでその銃を掴む。
そして、銃口を別の兵士に向け――引き金を押させるかのように静かに操った。
銃口を向けられた兵士の頭部が吹き飛び、血と脳が飛び散る。
残った兵士は恐怖で硬直する間もなく、男は素早く近づき、持っていたナイフで襲いかかる。
喉元を一閃され、兵士は口から血を噴き出し、仰向けに倒れた。
戦場の喧騒の中でも、その動きの一連はまるで時間が止まったかのように、少女の瞳に焼き付く。
灰髪の男の洗練された所作は、血の舞台を背景にした一つの劇にも見えた。
少女の体は震え、思わず息を呑む。
「きれい……」
小さな声だった。だがそれは、驚きや恐怖よりも、どこか陶酔にも似ていた。
次々と灰髪の男の前で倒れていく兵士たち。その命は儚く、まるで花びらのように散る。少女の目には、戦場の残酷さの中にひっそりとした美が見えた。
やがて、戦いは終わった。兵士たちは全滅し、死体の山だけが静かに増えていく。
灰髪の男は満足したのか、それとも興味を失ったのか。再び、死体の山に腰を下ろし、少女を見もせず視線を遠くに向けた。
少女はその姿を、息を詰めながらただ見つめるしかなかった。
胸の奥では、恐怖と畏怖、そして説明できない憧れが静かに渦巻いていた。
「あ、あの……」
小さな声だった。少女は震える手をぎゅっと握り、勇気を振り絞る。
灰髪の男に声をかけるなんて、自分でも信じられない行動だった。
「……何?」
思わず息を呑む。無視されるか、あるいは殺されるか。そんな想像が頭をよぎった。
しかし意外にも、男は静かに反応した。
「助けていただき、ありがとうございます」
「別に……殺すのが仕事だから」
その答えは、淡々としていた。冷たく、感情の欠片すら混じらない。
だが、それが逆に少女の心を落ち着かせる奇妙な安心感になった。
「あの……お名前をお伺いしても……?」
少女の声はかすかに震えていた。
「死神……」
「え?」
男は興味なさげに曇天の空を見上げるだけで、名前の意味や感情の説明は一切しない。
ただ静かに、淡々と――。
「死神って呼ばれてる」
それだけだった。
少女はその言葉を、頭の中で繰り返した。
死神――。戦場で伝説となった男の名。恐ろしく、冷たく、それでいてどこか魅力的な響き。
それが、少女と死神の最初で最後の出会いだった。
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