表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/33

Episode:19

このシリーズは既に完結まで執筆しております。

3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。

「なぜ――それほどの力を持ちながら、“殺すこと”をためらうのですか」


 オルカの声は怒りとも、悲しみともつかない震えを帯びていた。

 彼女の問いに、ジャックはほんの一瞬だけ沈黙する。

 やがて、表情を変えぬまま静かに答えた。


「――それが、“人”である証拠ですよ」

「人……ですか」


 ジャックの声は静かだった。だがその静けさには重みがあり、部屋の埃すら切り裂くように響いた。

 橙色の瞳が薄暗い室内で光を反射し、胸の駆動音がかすかに震える。彼の言葉はただの理屈ではない。かつて“死神”と呼ばれた過去への、静かな否定――自分自身への戒めだった。


「えぇ……」

 ジャックはゆっくり息を吸う。短い言葉のひとつひとつが、磨き抜かれた刃のように理路整然と並ぶ。


「人は、罪を犯す。でも――罪を犯すとき、必ず躊躇が生まれる。刃を振るう前に、何かが引っかかる。後悔か、恐れか、責任か、あるいはただのためらいか――。躊躇うのは、そこに『理性』と『心』がある証拠です。躊躇いが消えた瞬間、人は人でなくなる。獣と変わらない」


 声は遠い戦場の記憶をすくい上げるように深い。血まみれの夜、引き金を引くたびに少しずつ薄れていったもの――その名も恐ろしい「死神」は、胸の奥に刺さったままだった。

 だが今は違う。ジャックはもう、その名に甘んじることを許さない。


「なるほど……獣ですか」


 オルカの声が、どこか軽やかに響く。床に落ちた血まみれの髪が、白い修道服の裾で赤い水滴を作る。

 だがその白は純粋ではない。金属の光が混じり、冷たく錆びた光沢を帯びていた。


「では……人を何人殺しても、獣なのでしょうか?」

 首を傾げるオルカ。瞳の奥には、狂信めいた熱が燃えていた。


「何を言っている」

 ジャックは思わず声を強める。だが、オルカは滑らかに続けた。


「一人を殺せば、犯罪者と呼ばれる。だが百万人を殺せば……?」

 問いではない。宣言だ。

「戦争になれば、数の多さが評価を決める。勝者は英雄となり、無数の死は『功績』として祭られる。数が暴力を神聖化する――だから私は思うのです。殺すことを躊躇わない者は、神をも超えうるのではないか、と」


 冷徹な論理が、歴史の残酷さを切り取る。数字と物語が交わるその地点で、正義の輪郭は歪む。

 オルカは教会と狂信の言説を武器に、この理屈を何度も磨いてきたのだろう。


「違います」

 ジャックの声は低く、揺るがない。血の匂いを深く吸い込むと、胸の機械が微かに震えた。


「数が多いからといって、行為の本質が変わるわけではない。戦争の惨禍の中であろうと、命は消える。数の魔法で死が正当化されることはない。英雄の名が血を覆い隠しても、失われた笑顔や声は戻らない――それが、私が『人を殺さない』理由です」


 言葉の奥に、過去の影が走る。戦場の叫び、守れなかった幼い顔、手術台の冷たさ――。

 それらを背負い、ジャックは誓った。命を奪わずにしか、償えない何かが、自分の中にあると。


「ふふ……」

 オルカは笑った。感情の名は付かない。狂信に似た熱を帯び、指先で机の縁を叩くたび、機械の触手が微かに震えた。


「ジャック・オ・ランタン……私は、あの方を憧れている。いや、崇拝しているのです。あの方に、なりたい――」


 空気が張り詰める。ジャックの表情が一瞬硬直する。

 胸の奥に、昔日の影が蘇る。


「――あの方?」

 問いかけた声に、過去への戒めと恐れが混ざる。


「私は彼のようになりたいのです」

 オルカの瞳は揺れるが、それは決して弱さではない。強い意思の揺らぎだ。


「人を裁き、戦況を変え、畏怖される存在――死神のように、冷たく正確に行動する。人は選択し、神は選別する。私は選び、実行したい」


【※読者の皆様へ。重要なお知らせ】


この話を読んでいただきありがとうございます。


「面白いかも! 続きが楽しみ!」

「陰ながら応援してるよ!」

「引き続き頑張ってください!」


と思ってくださった方は、この下にあるポイント評価欄を【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】にして、『ポイント評価』をお願いします。

是非とも宜しくお願いいたします。


今後も更新を続けていく為の大きな励みになりますので、どうか何卒よろしくお願いいたします。


↓広告の下あたりに【☆☆☆☆☆】欄があります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ