Episode:19
このシリーズは既に完結まで執筆しております。
3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。
「なぜ――それほどの力を持ちながら、“殺すこと”をためらうのですか」
オルカの声は怒りとも、悲しみともつかない震えを帯びていた。
彼女の問いに、ジャックはほんの一瞬だけ沈黙する。
やがて、表情を変えぬまま静かに答えた。
「――それが、“人”である証拠ですよ」
「人……ですか」
ジャックの声は静かだった。だがその静けさには重みがあり、部屋の埃すら切り裂くように響いた。
橙色の瞳が薄暗い室内で光を反射し、胸の駆動音がかすかに震える。彼の言葉はただの理屈ではない。かつて“死神”と呼ばれた過去への、静かな否定――自分自身への戒めだった。
「えぇ……」
ジャックはゆっくり息を吸う。短い言葉のひとつひとつが、磨き抜かれた刃のように理路整然と並ぶ。
「人は、罪を犯す。でも――罪を犯すとき、必ず躊躇が生まれる。刃を振るう前に、何かが引っかかる。後悔か、恐れか、責任か、あるいはただのためらいか――。躊躇うのは、そこに『理性』と『心』がある証拠です。躊躇いが消えた瞬間、人は人でなくなる。獣と変わらない」
声は遠い戦場の記憶をすくい上げるように深い。血まみれの夜、引き金を引くたびに少しずつ薄れていったもの――その名も恐ろしい「死神」は、胸の奥に刺さったままだった。
だが今は違う。ジャックはもう、その名に甘んじることを許さない。
「なるほど……獣ですか」
オルカの声が、どこか軽やかに響く。床に落ちた血まみれの髪が、白い修道服の裾で赤い水滴を作る。
だがその白は純粋ではない。金属の光が混じり、冷たく錆びた光沢を帯びていた。
「では……人を何人殺しても、獣なのでしょうか?」
首を傾げるオルカ。瞳の奥には、狂信めいた熱が燃えていた。
「何を言っている」
ジャックは思わず声を強める。だが、オルカは滑らかに続けた。
「一人を殺せば、犯罪者と呼ばれる。だが百万人を殺せば……?」
問いではない。宣言だ。
「戦争になれば、数の多さが評価を決める。勝者は英雄となり、無数の死は『功績』として祭られる。数が暴力を神聖化する――だから私は思うのです。殺すことを躊躇わない者は、神をも超えうるのではないか、と」
冷徹な論理が、歴史の残酷さを切り取る。数字と物語が交わるその地点で、正義の輪郭は歪む。
オルカは教会と狂信の言説を武器に、この理屈を何度も磨いてきたのだろう。
「違います」
ジャックの声は低く、揺るがない。血の匂いを深く吸い込むと、胸の機械が微かに震えた。
「数が多いからといって、行為の本質が変わるわけではない。戦争の惨禍の中であろうと、命は消える。数の魔法で死が正当化されることはない。英雄の名が血を覆い隠しても、失われた笑顔や声は戻らない――それが、私が『人を殺さない』理由です」
言葉の奥に、過去の影が走る。戦場の叫び、守れなかった幼い顔、手術台の冷たさ――。
それらを背負い、ジャックは誓った。命を奪わずにしか、償えない何かが、自分の中にあると。
「ふふ……」
オルカは笑った。感情の名は付かない。狂信に似た熱を帯び、指先で机の縁を叩くたび、機械の触手が微かに震えた。
「ジャック・オ・ランタン……私は、あの方を憧れている。いや、崇拝しているのです。あの方に、なりたい――」
空気が張り詰める。ジャックの表情が一瞬硬直する。
胸の奥に、昔日の影が蘇る。
「――あの方?」
問いかけた声に、過去への戒めと恐れが混ざる。
「私は彼のようになりたいのです」
オルカの瞳は揺れるが、それは決して弱さではない。強い意思の揺らぎだ。
「人を裁き、戦況を変え、畏怖される存在――死神のように、冷たく正確に行動する。人は選択し、神は選別する。私は選び、実行したい」
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