Episode:18
このシリーズは既に完結まで執筆しております。
3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。
「踊れ」
オルカが低く呟く。
直後、背後の触手が一斉に解き放たれた。
まるで巨大な槍が何十本も射出されたような鋭さ。
その動きに一切の迷いも、隙もない。
まるで一つの生き物が、標的を貫くためだけに存在しているかのようだった。
「ッ……!」
ジャックは靴底で床を蹴り、横へと滑り込む。
触手が壁に突き刺さり、鋼とコンクリートが弾け飛ぶ。
火花が散り、視界が一瞬、白く染まる。
ジャックはその一瞬の閃光を利用し、壁を蹴って宙を舞う。
反動で身体をひねり、次の触手を紙一重で回避。
まるで舞踏のような、死と隣り合わせの動き。
ジャックの橙の瞳が、静かにオルカを射抜く。
「動きが単調ですね、シスター・オルカ」
「…………」
オルカの唇がわずかに歪んだ。
次の瞬間、彼女は静かに右手の人差し指を立て、天へと向ける。
――カチリ。
乾いた金属音が鳴った瞬間、壁が膨れ上がった。
その内側から、無数の機械触手が破裂するように飛び出す。
「っ……!」
触手は蛇のように蠢きながら、ジャックの足元の地面を貫通し、再び壁から突き出して襲いかかる。
まるで施設全体が、彼女の神経と化したようだった。
「……なるほど、こう来ますか」
ジャックは冷静に息を整えると、右手の人差し指を前へ突き出した。
――バチンッ。
乾いた衝撃音。
その指先から、閃光と共に弾丸が放たれる。
一発。二発。三発。
飛び出してくる触手を、まるで未来予知でもしているかのように正確に撃ち抜いていく。
金属の破片と油が霧のように宙に舞い、着弾のたびに火花が散った。
「その程度では、私には届きません」
オルカが再び指を鳴らす。
触手は勢いを増して、再び殺到してくる。
だが――ジャックは一歩も退かない。
「単調なのは……どちらでしょうね」
オルカが静かに呟いた。
その声を合図に、ジャックの視界が歪む。
――ギィン。
金属の微かな共鳴音。気づけば、目の前の空間に極細のワイヤーが蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。
照明の反射で、無数の線が淡く光る。少しでも動けば、即座に細切れにされる死の檻。
「本当は絞め殺したいところですが……今日は特別に、切り刻んで差し上げます」
オルカが微笑む。その瞬間、ワイヤーが風を裂いて襲いかかった。
――だが、ジャックの動きは一瞬早かった。
彼は銃口を真上に向け、天井へ一発。
轟音と共に、コンクリートが砕け散る。
頭上から瓦礫が雪崩のように降り注ぐ。
ジャックは迫る刃の群れを正面から見据え、落ちてくる瓦礫の一つを蹴り上げた。
「ッ!」
瓦礫が弾丸のように跳ね上がり、ワイヤーを弾き飛ばす。
その隙を突いて、彼は軽やかに床へと着地した。
だが――。
「まだ終わりませんよ」
オルカの声とともに、空気が再び蠢く。
壁から伸びた無数の触手が、瓦礫をすり抜けるように軌道を変え、ジャックに殺到する。
生き物のように曲線を描き、床を叩き割りながら迫ってくる。
ジャックは片目を細め、指先を構えた。
右手を持ち上げ、左手でしっかりと支える。
指先が微かに震えた――いや、狙いを極限まで絞り込むための演算動作だ。
「この弾丸は――必中です」
低く、淡々と呟く声。
次の瞬間、閃光が指先から奔った。
放たれた一発の弾丸は、まるで意志を持つかのように空間を駆け抜ける。
だが、その軌道は真っ直ぐではなかった。
カンッ! ギィン! ガンッ!
弾丸は瓦礫に当たり、跳ね返り、壁を掠め、迫りくる触手の金属部を次々と弾く。
火花が連鎖的に散り、銃声が反響し、計算された音がまるで一つの旋律のように響いた。
そして――跳弾が導く最終地点。
ジャックの瞳が一瞬だけ橙に光る。
「そこです」
最後の角度で弾丸が鋭く曲がり、オルカの左肩を正確に撃ち抜いた。
「っ……!」
鈍い破裂音と共に、オルカの身体がよろめく。
金属質の触手が暴れるように床を叩き、ジャックの真横を掠めて壁に穴を開ける。
「やはり――触手の制御、驚異的ですね。正確すぎる。相当な演算処理と集中力を要するはずです」
ジャックが冷静に分析するように言うと、オルカは鼻で笑った。
「知ったような口を」
「無駄ですよ。今の弾丸は麻痺弾。神経伝達を――」
その言葉が終わるよりも早く、音が消えた。
次の瞬間、オルカの触手の一本が蛇のようにうねり、
ジャックの腹部を――貫いた。
「ッ……ぐっ!」
鉄の爪が肉を抉る鈍い音が響き、黒いコートの下から鮮血が滲む。
ジャックはよろめきながら数歩後退し、右腹を押さえた。
対するオルカは一歩も動かず、淡々と告げる。
「――私に麻痺弾は効きません。シスター・カトレアとの戦闘データは既に記録済み。貴方の切り札も、もう通じない」
その声音には、神への信仰に似た“確信”が滲んでいた。
ジャックは苦痛に顔を歪めながらも、すぐに口元を歪めて笑った。
「……それは、困りましたね」
ジャックは一瞬、口元を歪めた。
次の瞬間――床を蹴った。
爆ぜるような勢いで前へ。
空気が裂け、ジャケットの裾が後ろにたなびく。
「……無謀ですね」
オルカの声と同時に、背中から無数の触手が迸る。
それは螺旋を描きながら襲いかかる黒い嵐。
回避の余地など、どこにもなかった。
だが――ジャックは止まらない。
右手の人差し指と中指を前に突き出す。
「――弾丸よ。踊りなさい」
二発の弾丸が、まるで双子の竜のように螺旋を描いて飛翔した。
そして触手に命中した瞬間――
爆ぜた。
轟音と衝撃が空間を塗り潰す。
爆炎が一瞬で視界を奪い、オルカの触手が焼け焦げながら吹き飛ぶ。
「っ……!?」
衝撃波に揺れる視界の中、オルカが一瞬だけ硬直する。
理解よりも早く、炎の中から影が飛び出した。
――ジャックだ。
焦げたコートを翻しながら突進し、オルカの胸ぐらを掴み上げる。
「お返しします」
低く呟き、背負い投げ。
オルカの身体が空中で半回転し、床へ――叩きつけられた。
鈍い音が部屋全体に響き、
肺に詰まっていた空気が強制的に押し出される。
「……ぐっ、あ……!」
床に倒れたオルカの指先が小刻みに震えた。
その隙を逃さず、ジャックは静かに腕を上げ、指先を彼女の額へ向ける。
――だが、その瞬間。
オルカの背中から伸びた触手が蛇のようにうねり、ジャックの右腕を絡め取った。
「っ……!」
反射的に身体を引こうとした刹那、オルカが低く笑う。
「――甘いですよ」
触手が一気に収縮し、ジャックの身体を壁へ叩きつけた。
鈍い衝撃音とともに、壁がひび割れる。
しかし、ジャックは空中で身体をひねり、床に軽やかに着地した。
その動作には痛みよりも、計算された冷静さがあった。
「……なるほど。手品は、まだ隠していたようですね」
軽くジャケットの埃を払うと、ジャックは不敵に笑う。
「えぇ、楽しんでいただけましたか? ――シスター・オルカ」
その声音はあくまで紳士的。だが、その奥底には冷たい刃が潜んでいた。
オルカは目を細め、唇を震わせる。
その瞳の奥に、理解できない感情が揺れていた。
「……なぜ、ですか」
「?」
「なぜ――それほどの力を持ちながら、“殺すこと”をためらうのですか」
【※読者の皆様へ。重要なお知らせ】
この話を読んでいただきありがとうございます。
「面白いかも! 続きが楽しみ!」
「陰ながら応援してるよ!」
「引き続き頑張ってください!」
と思ってくださった方は、この下にあるポイント評価欄を【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】にして、『ポイント評価』をお願いします。
是非とも宜しくお願いいたします。
今後も更新を続けていく為の大きな励みになりますので、どうか何卒よろしくお願いいたします。
↓広告の下あたりに【☆☆☆☆☆】欄があります。




