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Episode:14

このシリーズは既に完結まで執筆しております。

3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。

「さて――芽吹いてもらいましょうか」


 低く呟くと、彼はケースから弾丸を一つ取り上げる。

 光を受けて煌めく白銀の種を、右手の甲へとそっと装填した。

 カチリ、と小さな音が響いた瞬間、機械仕掛けの手がわずかに振動する。


 弾丸が、心臓の鼓動に合わせて脈を打った。


 隠れ場としていた柱が、爆ぜるように崩れ落ちた。

 瓦礫の破片が舞うその瞬間――ジャックは影から飛び出した。


「来ると思っていたわ!」


 カトレアが咆哮する。

 その声と同時に、光の棘が一転集中でジャックを狙い撃つ。

 無数の光線が螺旋を描きながら襲いかかる。


 だが、ジャックは姿勢を低くして疾走した。

 滑るように床を駆け、足を伸ばしてスライディング――。

 飛び交う光の棘を紙一重で掻い潜りながら、一直線に距離を詰めていく。


 カトレアの瞳が、わずかに見開かれた。

 射程圏内――。


 ジャックは滑走の勢いを殺さぬまま、右手を前へ突き出す。

 指先がわずかに開き、内部機構が回転。橙色のラインが一瞬、脈動した。


 そして――指先から白銀の弾丸が閃光のように放たれる。

 音すら置き去りにして、弾丸は一直線にカトレアへと走った。


「そう易々とやられるわけないでしょ!」


 カトレアは咄嗟に三本の尾を交差させ、盾のように構える。

 白銀の弾丸が金属音を立てて突き刺さり、そのまま尾の装甲に埋まった。


「あら? 一撃必中じゃなかったの、カボチャ頭さん?」

 挑発的な笑みを浮かべるカトレア。


 しかし、ジャックは穏やかに微笑んだ。

 まるでダンスの終わりにレディへ手を差し出すような、静かな仕草で。


「えぇ、一撃必中です。――この勝負、私の勝ちですよ。レディ。」


「……何を――?」


 ジャックは、弾丸を放った人差し指をそっと唇に添えた。

 静かに、囁くように。


「――発芽せよ(Sprout)


 次の瞬間、カトレアの尾に埋まった弾丸が淡い緑の光を放ち始めた。

 そして、その光から“蔦”が芽吹いた。

 銀と翠が絡み合うように、蔦は彼女の尾を這い上がり、絡みつき、締め上げていく。


「なっ……!? これは――!」


 光の棘が、一つ、また一つと音もなく消えていく。

 暴走していた青白い輝きが静まり、代わりに柔らかな緑の光がカトレアの身体を包み込んだ。


 彼女はなおも抵抗するように尾を振り、絡みつく蔦を引きちぎろうとする。

 だが――それは無駄だった。


 蔦は引き裂かれても即座に再生し、さらに勢いを増して彼女の四肢を絡め取っていく。

 もがけばもがくほど、その成長は早まり、まるで彼女の暴力そのものを糧にしているかのようだった。


 やがて光の尾はみるみる縮み、輝きがしおれていく。

 最後には、その眩い光もすっかり消え、カトレアは膝をついた。

 力が抜け、崩れるように床に倒れ込む。


「こ、これは……一体……」


 かすれた声で問うカトレアに、ジャックはゆっくりと歩み寄る。

 右手の機構を閉じながら、いつもの穏やかな声音で答えた。


「私の――とっておきですよ。相手のエネルギーを吸収し、成長を続ける《Seed Bullet》の蔦。力が強ければ強いほど、己を縛る鎖にもなる。……皮肉なものです。」


 橙の瞳が、微かに笑った。

  勝敗は――すでに決していた。


 敗北を悟ったカトレアは、どこか憑き物が落ちたようにふっと微笑む。

 戦場の緊張が解け、彼女の声には静かな温度が宿っていた。


「ねぇ……カボチャ頭さん」


「何でしょうか?」


「どうして……そこまでして、私を殺したくないの?」


 その問いに、ジャックは短く息を飲み、しばし沈黙した。

 やがて、低く、穏やかに言葉を紡ぐ。


「…………人は、罪を犯す生き物です。けれど――その罪を償いながら、生き続ける権利がある。私は、その権利を奪うような真似はしたくないのですよ。」


 静寂。

 カトレアは目を細め、かすかに笑った。


「ふふっ……優しいのね。それとも、あなた自身が――償いながら生きているのかしら?」


 ジャックはその挑発を、ただ柔らかく受け流すように微笑んだ。


「さぁ……どうでしょうね、レディ。」


 その声には、どこか寂しげな響きがあった。

 戦場の静寂の中、わずかに灯る緑の光が二人の輪郭を照らす。


「レディ……答えてください。なぜ、貴女は《エリーニュス》を? あれは亜人戦争で使用され、その危険性から生産も使用も禁じられたはずです。どうして貴女が……いや――《ブリュンヒルデ教会》が、それを手にしているのですか?」


「それは……」


 カトレアが口を開きかけた、その瞬間。


「――おしゃべりは、そこまでです。シスター・カトレア」


 冷たく研がれた刃のような声が、静寂を断ち切った。

 次の瞬間、カトレアの首元に銀色の線が閃く。


「っ――!?」


 ワイヤーが肌に食い込み、カトレアの息が詰まる。喉を押さえ、必死にもがく彼女の瞳に恐怖が宿った。

 その先――闇の中から、一人のシスターが姿を現す。


 修道服を纏い、無表情のまま立つ女。

 その瞳はまるで氷でできたように冷たく、感情の欠片もなかった。


「……シスター・オルカ」


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この話を読んでいただきありがとうございます。


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