Episode:10
このシリーズは既に完結まで執筆しております。
3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。
再び、レトロ車の中。
車内には微かなオゾン臭と機械油の香りが漂う。
「……アイドロンってのは何だ?」
「アイドロンシステムズ。死者の人格をデジタル上に再現する研究を行っていた企業です。しかし――本来なら倫理的にも不可能なはずです。資金を流してまで再開している……教会の目的は何でしょうね」
「魂の“コピー”か……皮肉だな。神の名を騙って、魂を複製するとは」
ベオルは腕を組み、窓の外を見やる。
ジャックは静かにハンドルを握り、アクセルを踏み込む。
エンジンの低い咆哮と共に、車が夜の路地を滑り出した。
「行き先は?」
「――“アイドロン”の本社に直接潜入します」
「……潜入か。派手にやる気か?」
「派手にやると死にます。なので、今回は静かに――けれど、致命的に。」
その声には、微笑と冷酷が同居していた。
外のネオンがフロントガラスに滲み、車内を赤と青の光が交互に照らす。
まるで警告灯のように――これから起こる“何か”を暗示していた。
その警告は、避けられぬ必然だった。
ジャックが視線を前に戻すと、道路の真ん中に一人のシスターが立っていた。
赤髪――見覚えのあるその姿。ブリュンヒルデ教会のシスター、エリザだ。
エリザは機械化された右足から鋭い刃を展開し、高速で回転させながら威圧的に掲げた。
刹那、ジャックはハンドルを切り、回避しようとしたが――間に合わない。
「Mr.ベオル!」
「っ!!」
エリザは回転刃をさらに回転させ、踵落としの勢いで車体を狙って振り下ろした。
金属が空気を切る音が耳を貫く。
「っ!!」
ジャックは反射的にハンドルを切る。車体はギリギリのところでエリザを避け、衝突は回避された。
だが、右側のサイドミラーが軋む音と共に、エリザの蹴りでえぐり取られてしまった。
走行中の車にも関わらず、ベオルはドアを力強く開け、躊躇なく屋根へと移動した。
車体の揺れと風圧に抗いながら、彼の巨体が屋根の上で安定する。
その姿を確認したエリザは、満面の笑みを浮かべた。
「また会ったな! ハチ公!」
「俺は会いたくなかったが!」
ベオルの声は怒気に満ち、夜の路地に低く響いた。
「Mr.ベオル! なるべく私の愛車を傷つけないように!」
「そんなこと言ってる場合か! お前は運転に集中しやがれ!」
ジャックは車のギアを切り替え、さらに加速させ、エリザから逃げ切ろうと試みる。
「おいおい、せっかく会ったのにもう逃げちまうのかよ」
エリザは右足を変形させると、丸鋸が飛び出した。
まるでタイヤのように回転する鋸刃を路面に滑らせ、尋常でない速度で車を追いかけてくる。
「ちっ……なんで、アイツがここにいるんだ!」
ベオルの歯ぎしり混じりの声が、夜の路地に響く。
「監視されていたのです。我々の目的も、すでにバレていたのでしょう」
ジャックは冷静に答えつつも、眉間にわずかな影を寄せる。
「しかし――アイドロンに向かおうとした矢先の強襲。やはり、アイドロンは……黒ですね」
ジャックの声が低く沈む。
「それで、この状況をどう切り抜けるんだ!」
ベオルの怒声が夜の路地に響く。屋根の上で彼の巨体が揺れ、追いかけてくるエリザの丸鋸が赤と青のネオンに反射して光った。
「機動力は向こうのほうが上です……どうにかして振り切らないと」
ジャックは静かに答え、アクセルを一段深く踏み込む。車体が振動し、エンジンの咆哮が夜の闇に食い込む。
「それなら――」
ベオルは屋根の上で深く息を吸い込み、鋭い助走をつけて飛び降りた。
――そして、追跡してきたエリザに向かって、全力のドロップキックを叩き込む。
エリザは一瞬の隙を突かれ、反応が遅れた。鋭い蹴撃はまともにヒットし、二人は地面に叩きつけられた。
「Mr.ベオル!?」
「ここは俺に任せろ! お前は先に行け!」
ベオルの声が、泥と鉄の匂いを巻き上げながら響く。
「……くっ……わかりました!」
ジャックは力強く頷き、ハンドルを握りしめた。車はアクセル全開、アイドロンに向かってまっすぐに突き進む。
ベオルの攻撃を受けたエリザは、不機嫌そうな表情を浮かべつつ立ち上がる。
「やりやがったな、野良犬風情が」
「さぁ、この前のリベンジだ、似非シスター」
「へっ、こっちは正真正銘のシスターさ」
エリザは鋭い視線をベオルに向け、右足を変形させて高速回転させた刃で回し蹴りを放つ。
ベオルは咄嗟に地面に埋め込まれたマンホールを掴み、盾代わりにして蹴撃を受け止めた。
高速回転する刃とマンホールが激しくぶつかり合い、火花が夜の路地を赤く染める。
金属の擦れる音が耳をつんざき、空気が焦げるような熱を帯びていた。
「……これで終わると思うなよ!」
エリザは蹴撃の反動を利用し、マンホールを勢いよく押し返す。金属の衝突音が響き、ベオルは数メートル吹き飛ばされて壁際で体勢を立て直した。
「……やるじゃねぇか、似非シスター!」
泥と埃にまみれた顔を歪め、ベオルは怒りを隠さず拳を握り直す。
エリザは鋭い笑みを浮かべ、距離があるにもかかわらずその場で回し蹴りを放つ。展開された刃が、まるで手裏剣のようにベオルを狙って飛ぶ。
ベオルは壁の排水管を掴み、勢いよく駆け上がる。そのままバク転で身を翻し、飛来する刃をかわすと、鋭い爪で弾き飛ばした。
火花と金属音が路地にこだまし、緊張が張り詰める。着地と同時に、ベオルはその巨体を弾丸のように突進させた。
「覚悟しろよ!」
渾身の拳が空気を裂き、一直線に迫る。
だが、エリザは軽やかに横へ跳び、回転刃で迎撃。空気を切り裂く音が響き、ベオルの拳は寸前で弾かれた。
拳から鮮血が飛び散り、夜気の中に赤い光を散らす。
「ハハッ! 自慢の爪を切ってやるよ!」
「それはありがてぇ! ちょうど手入れの時期だったんだ!」
ベオルは低く身を沈め、エリザの軸足を蹴り払う。バランスを崩した彼女に一瞬の隙が生まれる。
その隙を見逃さず、ベオルは巨体を揺らして一気に距離を詰めた。踏みしめるたびに地面が震え、砂利が跳ねる音が路地に響く。
「ここで決める……!」
ベオルは拳を握り直し、全身の力をそこに集中させた。
エリザは即座に体勢を立て直し構えを取るが、迫る圧力に額を冷や汗が伝う。
――ゴォッ!
衝撃と共に拳と回転刃が激突。火花が視界を真紅に染め、金属の悲鳴が何度も耳を打つ。
それでもエリザはただの防御では終わらない。刃を駆使して拳を巧みに弾き、間合いを瞬時に調整する。
ぶつかるたびに、ベオルの拳から血が飛び散った。
だが圧倒的なパワーが、徐々にエリザを押し込んでいく。
高速回転する刃にはヒビが入り、欠け始めた。防御を止めれば即死――それを理解していながらも、エリザは右足で必死に拳をさばき続ける。
限界は、唐突に訪れた。
ベオルの拳を受け止めた瞬間、回転刃が粉砕され、飛び散った破片がベオルの頬をかすめる。
「この馬鹿力が……ッ!」
「ふっ……まだまだだな!」
ベオルの拳がついにエリザを捉える。炸裂する衝撃と共に、彼女は壁に背中から叩きつけられ、地面へと崩れ落ちた。
エリザが倒れた瞬間、路地には静寂が訪れた。
火花と金属の焦げる匂いが、まだ空気を焦がしている。
ベオルは胸で荒い息をつき、近くのドラム缶に腰を下ろした。
「当分の間、チェーンソーは見たくねぇな……」
【※読者の皆様へ。重要なお知らせ】
この話を読んでいただきありがとうございます。
「面白いかも! 続きが楽しみ!」
「陰ながら応援してるよ!」
「引き続き頑張ってください!」
と思ってくださった方は、この下にあるポイント評価欄を【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】にして、『ポイント評価』をお願いします。
是非とも宜しくお願いいたします。
今後も更新を続けていく為の大きな励みになりますので、どうか何卒よろしくお願いいたします。
↓広告の下あたりに【☆☆☆☆☆】欄があります。




