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93 闇を見据えて

 会議室を出た俺は、慎重に暗い階層内を進む。

 マキノさんや李岳さんは見逃してくれると言っていたが、監視カメラや獄卒獣に見つかれば一発アウトだ。

 毎日通っている場所だから、なんとなくだが死角になる場所も分かる。

 何だか泥棒みたいな気分だが、規則違反している事には変わりない。

 見逃してくれた二人のためにも、早いうちに寮に戻らなければ——そう思った矢先だった。

 視界の端で濃い影がヌッと現れて——、


「規則違反だ」


 ビクーンと心臓が跳ね上がる。

 この声はもしかしなくても⋯⋯!?


「は、橋雪さん⋯⋯!」


 振り向くと、そこには橋雪さんがいた。


「ど、どどどうしてここに?」


 駄目だ、動揺が隠せない。

 会議が終わっててっきり寮に戻っていたと思っていたが、まさかずっとここで待っていたのだろうか。

 ってことは、俺が寮を抜け出してあそこで隠れていた事を知っていた?

 知っていたなら何で止めなかったんだ?

 いくら考えても橋雪さんの思考は微塵も読めない。

 相変わらずのポーカーフェイス⋯⋯というより、規則違反者を見る冷たい目つきで俺を睨んでいる。

 この状況に居たたまれなくなった俺はスッと視線を逸らす。


「気づかないはずがないだろう。お前の短絡的思考を読むのは容易い」


 言い方⋯⋯!

 でも、そうか、全部お見通しだったわけか。

 俺は諦めたようにため息を吐いた。


「そこまで分かってるなら、どうして橋雪さんは俺を止めなかったんですか? 一階層でマキノさんがフィリエスさんの事を教えてくれた時みたいに」


 機密情報だったフィリエスさんの死亡を俺に伝えようとした時、橋雪さんはマキノさんを止めた。

 今回だって、俺はただの職員が触れてはならない一線を越えようとしたのだから、いつもの橋雪さんなら、俺が真実を知る前に止めようとしてもおかしくはない。


 しかし、橋雪さんはその質問には答えなかった。

 代わりに、険しい表情を一層深めて——、


「お前は自分が踏み込もうとしている問題の重大性を理解しているのか?」


 そこでようやく気付いた。

 橋雪さんは橋雪さんなりに、部下である俺の事を心配してくれているのだろう、と。

 だからこそ、迷惑をかけてしまった事を申し訳なく思う。


「⋯⋯正直に言うと、あまり分かっていないのかもしれません。剣と魔法の世界に飛び込んだのだって本当に最近の事で、いきなり神だとか権使だとか、わけが分からなくて。⋯⋯でも、それでも、自分が関わっている事なら、本当の事を知りたいと思ったんです」


 これは、他人事じゃない。

 フィリエスさんは何故俺を殺そうとしたのか、ヘカテーは何故俺を守ろうとしたのか。

 一体誰が仕組んだ事なのか、どうして俺だったのか。


「ただの思い違いだったのならそれでもいいんです。その時は橋雪さんの指示に従います。でも、勘違いなんかじゃなくて、全部本当だったのなら、その時は橋雪さんが知っている事を教えて下さい。俺が何故二つの件に関わっているのかを」


 橋雪さんの表情は変わらない。

 不動のまま、ただ俺の目を見ている。

 そして、逸らされた。


「この件は、たかだか入って数カ月の新人が関わっていい問題ではないという事を肝に銘じておけ。万が一の時は死を覚悟する事もだ。その覚悟があるのならば、俺から言うべき事は何もない」


 橋雪さんは俺の横を通り過ぎる。

 認めることはしないが、止めることもしない。

 橋雪さんなりの譲歩だと思った。


「橋雪さん!」


 俺は橋雪さんを呼び止める。


「トリア⋯⋯三体目のヘカテー・クレネシアの分身体と戦っていたのは橋雪さんじゃないんですか?」


 俺の発言に橋雪さんの歩みが一瞬止まる。

 そして、そのまま振り返る事なく沈黙のまま真っすぐに歩いて行ってしまった。


「ありがとうございます、橋雪さん」


 もう聞こえないであろう感謝の言葉を橋雪さんの背中に向けて伝える。

 ディオスガルグでは皆が戦っている。

 俺も、室町さんも、マキノさんも、李岳さんも、フィンセントさんも、キッドだって。

 誰一人として立ち止まる事なく、前を向いて監獄のために働いている。

 でも、その中でも橋雪さんは特別なように感じた。


 孤独の内に大きな秘密を抱えて、そして一人で歩もうとしている。

 だから、橋雪さんの背中はいつも何かと戦っているように見えるのかもしれない。

 

 その僅か一片でも、他人が共有する事を、橋雪さんはきっと拒むのだろう。 

 肩を貸す⋯⋯なんて、そんな大層な事は言えないが、それでも、俺が何か少しでも背負う事を許されるのなら、橋雪さんの力になりたいと思う。

 言葉ではああやって言いつつも、なんだかんだで俺を許し、助けてくれた尊敬する上司。

 そんな橋雪さんがいつか心を開き、頼ってもいいとそう思わせられるように。

 俺も立ち向かっていかなければならない。

 目の前に広がる深い闇から目を逸らさずに、ちゃんと、向き合っていかなければならない。



                     第二部 終

第二部が完結しました!

第一部の反省を活かし、一話の文字数を減らして分けたせいか、一部よりかなり話数が多めです。

そして、第二部は物語の根幹となる部分にも突っ込み始めております。

またまた期間は空きますが、また続きも読んでいただけると幸いです。

 

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