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67 ゴブリンの巣窟(2)

「あー、それは、呪印ですね」

「呪印?」


 俺が立ち止まっていることに気づいたアリアさんが教えてくれる。

 

「ゴブリンの群れにはシャーマン⋯⋯呪術師みたいな個体がいて、そのシャーマンが群れの繁栄を祈ってまじないをかけるんです。だから、このマークはまじないをかけた印みたいなものですね。このマークが付いたものは長持ちするってことで、この巣のゴブリンたちはあらゆるものにこのマークを付けてるんですよ。面白いですよねー」


 そこで、俺は記憶にあるドクロを被り、マントを羽織った怪しげなゴブリンの呪術師のビジュアルを想像した。

 なるほど、あんな感じ⋯⋯だろうか。


「群れによってマークが違っていて、ディオスガルグにいるもう一つの群れの印は三角の形をしているんですよ。まじないを掛けられるシャーマンのゴブリンは群れの中でもリーダー的立ち位置なので、基本巣から出ません。きっと、奥に行けば会えると思いますよ」

「確かに面白いですけど、別に会いたいわけじゃないですよ。なんか呪われそうですし」


 会いたがっていると思われては困るので、ここはハッキリと否定しておく。


「えー残念ですね~。三区の群れのシャーマンは気のいいおじいさんゴブリンなんですけどねー」


 ゴブリンに気のいいおじいさんって⋯⋯。

 突っ込みたい気持ちを抑え、無難に返事を返しておく。

 ここで興味があると思われてシャーマンのところに連れていかれでもしたら大変だからな。


 皆のところへ戻り、またしばらく進んでいると、最奥と思われる場所までやって来た。


「奥まで来ましたが、今のところ、特に気になったものはありませんね」


 市追さんが周囲を見渡しながら言う。

 洞窟の最奥は、広々としていた。

 ゴブリンたちに集会があるのだとすれば、おそらくこの空間を使っているのだろう。

 二区で死んでいたのは四十体ほど。 

 残りのゴブリンは俺たちが通ってきたのとは別のルートの方にいるのかもしれないな。


「祭壇だ⋯⋯」


 果物や動物の骨などが積まれた祭壇のようなものが正面にあった。

 しかし、気になったのはそこに飾られていた鏡だ。

 少し錆びて曇っている。

 鏡の中で、鏡を覗く俺の顔が伸びていた。

 シャーマンがいるのだから、この祭壇や鏡は呪具ってことになるだろう。

 おい、ちょっと待て⋯⋯もしかしてこれ、見たら呪われるとかそんなんじゃないよな!?


「あのー」


 慌てて鏡から視線を外したのと同時だった。

 誰かが自分の真後ろに立っていたことに気づく。


「おわっ!?」


 び、びっくりした⋯⋯!


「驚かせてしまったようですみません。そろそろ点検の時間なので、退出をお願いできますか?」


 広場の方々に散らばっていた捜査班のメンバーが、声に気づいて集まってくる。

 その職員は翼と植物のレリーフが施された記章を付けていた。

 キッドも同じものを付けていたから、つまりこの職員は警備部の所属だ。

 この洞窟の警備を担当している職員なのだろう。

 目元にクマがあって少し顔色が悪い。

 大丈夫だろうか?


「点検時間じゃー仕方ないですね~」

「ひとまず出ましょうか。すみません点検前に、お騒がせしました」




 それから、別れ道の手前で既に待機していた仁賀木さんたちと合流すると、すぐに洞窟を出て二区へと戻って来た。


「洞窟内は異常なーし。結局何も分かりませんでしたねー」


 俺が気になっていたあの鏡だが、やはりシャーマンゴブリンがまじないをかける際に使う呪具だったようだ。

 しかし、あの呪具自体にまじないがかけられているわけじゃなく、使う時以外は特に魔法のかかっていないただの道具らしい。

 監獄内の安全を考慮し、形だけでもそれらしく見せようと用意し、ゴブリンに与えたただけのようだ。

 つまり、あの鏡はゴブリンたちに呪いをかけた魔道具ではないということだ。

 まあ、そんなうまい話しはないよな。

 仕方ない、と諦めつつも、やはり少し残念な気持ちが勝っていた。

 ここまで調べて何も出てこないなんてな。

 もはや本当に魔道具が存在するのかすら怪しく思えてきた。


「そう簡単に見つからないから難事件なんだろ。ま、犯人さんがさっさと自首でもしてくれりゃー楽なんだがなー」

「自首するならもっと早い段階でするでしょ。それこそ、ゴブリンの死体が見つかった時とか」

「馬鹿、冗談に決まってるだろ。自首してくるような奴がこんな事件起こすかっての」


 木古瀬さんがため息をつく。

 仁賀木さんも、フリックさんも、アリアさんや市追さんも、皆この事件の迷宮入りを予感しているようだった。

 魔道具、呪い——理由は分かっているのだ。

 何か、手がかりが一つでも見つかりさえすれば、きっと全て解決する。

 なのに、あともう少し、そのパズルの一ピースが埋まらない。


「西条くん、協力してくれてありがとう。引き続き、明日も頼みたい」


 近くにいた仁賀木さんが俺に言った。

 

「こちらこそありがとうございました。明日もよろしくお願いします」


 そこで、ひとまず今日の捜査は終了することになった。

 仁賀木さんとフリックさんは、今日の調査結果をまとめるということで特殊対策部の本部へ戻って行った。

 残りは解散となり、俺はアリアさんたちにお礼を言ってから三階層へ帰ることにした。

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