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63 事情聴取(1)

 範囲を絞ったとはいえ、広い一階層では一区自体の広さも相当なものだ。

 俺を含む捜査班六名は、二人ずつ別れて聞き込みを担当する区を分けることにした。

 俺とペアになったのは、フリック・トンプソンさんだ。

 フリックさんはアメリカ人の元警視だそうで、柔和で感じの良い雰囲気だから、こういう聞き込みは得意そうな印象だ。 

 

「まさか聞き込みなんてする日がくるとは思ってもみませんでした」


 刑事ドラマでは度々見ていたが、それはドラマの中だけの世界だった。

 ディオスガルグに来てから初めて経験することばかりで、同時にそのどれもが、下手すれば世界平和に関わる重大な事ばかりだから冷や冷やするのだが⋯⋯。


「君の場合は補佐官だからね。新鮮さを感じている暇はないかもしれないけど、あまり肩肘張らず、自然体で挑むのが上手くいくコツだよ。聞き込みに限らず、何事もね」


 人間界でもディオスガルグでも、現場で経験を積んできた人の言葉は重みが違う。


「フリックさんは長い間ここにいるんですか?」

「もう二十年くらいになるかな。長い⋯⋯そうだね、人間感覚でいえば長いに入るのかもしれない。ずっとここにいると感覚が他の種族と混ざってしまうから麻痺してしまうけれど」


 冗談混じりにそう笑うフリックさん。

 フリックさんの言う通り、ここでは人間界では信じられないような事ばかりが起こる。

 人間界での非日常が日常みたいな世界だ。


「最初は抵抗感もあったけれどね。段々と慣れてきて、いつの間にか自然になった。今でも驚かされる事は山ほどあるけれど、それもまた、いつかは慣れるのかもしれない」


 慣れるのは悪い事じゃない。

 この先どれだけの間、ディオスガルグで働き続けるのか分からないが、それでも、何を見てもワクワクして、輝いて見えたあの時の感覚を忘れたくないと思った。

 雑誌の切り取りやアニメ、漫画の世界が現実として目の前に現れたあの時の感覚。

 初心忘れるべからず⋯⋯なんて大層な事じゃないが、異世界への憧れはいつも俺の原動力だった。

 頭では半分諦めていたが、心の底ではずっと信じていた世界。

 それを慣れで消し去ってしまうのは、惜しいような気がした。


「ディオスガルグには変な職員や物が多いのできっと慣れる暇もないですよ。次々にびっくりするような事が起こって、落ち着く事も出来ない。今回みたいな事件はホントやめて欲しいですけどね」

「それもそうだね」


 思えば、こうしてフリックさんと普通に会話出来ているのも凄い事なんだよな。

 フリックさんはアメリカ人だ。 

 俺は教科書レベルの超基礎的な事くらいしか英語は分からないのに、自然に意思疎通が出来ている。

 これも自動翻訳してくれる魔道具のリングのおかげなんだよな。

 異世界デビューに加え、外国人との国際交流まで叶っていた事にふと驚く。


「さ、ここが三区の雑居房だよ。失礼、捜査のため入場許可をお願いできますか?」


 フリックさんは自らの職員証明書を提示し、特殊対策部の捜査班であることを監視係に示す。

 窓口の中にいた職員は注意深く証明書とフリックさんを交互に見ると、次に隣にいる俺へ目線を向ける。


「彼は捜査班で臨時で加わる事になった職員です。マキノ長官、アイロア長官双方から捜査権を与えられています」


 念のためにという事で、俺も証明書を取り出し見せると、監視係の職員は快く通してくれた。

 一階層三区雑居房。

 収容される囚人は人間から下級悪魔が多く、DとCランクの囚人が収監されている。

 一階層はディオスガルグ全七階層で最も収監される囚人が多い。

 その分、房の数も規模も三階層とは比べ物にならないほど大きかった。

 三階層のあの雑居房だって、かなりの広さだったというのに、一階層の雑居房は一つの房に五十人くらいは簡単に入れそうな程広々としている。

 それがいくつも直線上に並んでいた。

 房の向いには監視塔があるようだ。

 中では二十名程の職員が監視カメラを眺めたり、目の前の房を見張ったりと、それぞれの仕事をしているのが見えた。

 第一発見者となった職員はその監視塔の中にいた。 

 水筒で何か薬を飲んでいたようだ。

 デスクの上には医療部処方の錠剤があった。

 

「こんにちは、ユーティウスさん。体調の方はどうかな?」


 彼が薬を飲み切るのを少し待ってから、フリックさんが声をかけると、職員は振り向き、あぁっと声を上げた。

 どうやら二人は顔見知りの様だった。


「フリックさん。はい、薬のおかげで大分良くなってきた気がします」


 第一発見者のユーティウス・レイルさんは看守課に所属している看守——つまり李岳さんの部下だ。

 良くなってきたとは言っても、まだ本調子ではないらしい。

 目元にはクマが浮かんでどことなく眠たそうだ。


「捜査の方はどうですか? 何か進展とかは」

「残念だけれど、呪いの正体はまだつかめていなくてね、効果的な対処法も見つかっていない状態だよ。我々の力不足で申しわけない」

「そんなっ、頭を上げてください! 我々職員は捜査班の皆さんが全力で犯人逮捕に向けて動いて下さっているのを知っています。誰も皆さんを責めたりしませんよ」


 頭を下げ謝罪するフリックさんにユーティウスさんが慌てた様子で頭を上げさせる。

 

「今も捜査のためにここへいらっしゃったんですよね? 俺に話せることならなんだってお話しますよ。といっても、俺に答えられることはほんの少しだけですけど」


 そして、ユーティウスさんは自らが知っている情報——ゴブリンを発見した時の事を話してくれた。

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