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3.女心と秋夜空

 教室の中に美咲の高い声が響く。すぐ隣というこんな一等地で彼女の美声が聞けるなんて役得もいいところだ。


「それでは今年のクラス屋台は大学芋、教室展示は和風喫茶に決まりました。それじゃ次にそれぞれの責任者と実習室での調理担当を選んで行きたいと思いまーす」


 投票の結果、屋外の屋台では焼き芋が選ばれたが、調理効率や置き場を考えて大学芋へと変更になった。それに伴って、教室でやるはずだった喫茶店は和風を頭に付け加えられることになっていた。


 これは僕が提案した中で唯一褒められたアイデアだ。両方が同コンセプトになったことで、衣装を変えずに当番の遣い回しが楽になると言う我ながらいい案だと思う。ちなみに最初焼き芋に決まったのはどう考えても組織票っぽくて、ほぼ全員が立案の段階で挙げたのが焼き芋だった。


 出展内容が決まると、生徒会への申請や予算の振り分けでかなり忙しくなった。学校近くの商店街へ仕入れの相談へ行ったり、手芸屋へ和柄の端切れを探しに行ったり、サンプル調査と称して甘味屋へ二人で入ったりと、ほぼ毎日二人きりで何かをして本当に楽しい毎日を送っていた。


 その時間が僕に自信をもたらしてくれ、学園祭最後のキャンプファイヤーで絶対に告白するんだと気合を入れていた。なんでこんなに決意を固められたのかと言えば、なんと言っても学園祭あるあるを聞いてしまったからに違いない。


 それはこんな話らしい、打ち上げへ一緒に参加して告白すると結ばれるなんていう夢みたいな話――


『ねえねえ、今年は何組くらい成立すると思う?』

『んー、四、いや五組くらいじゃないかな、島田君は告白するって息巻いているみたい。誰かが打ち上げの告白伝説を教えたらしいからね』


 廊下を歩いていた僕の耳に、聞き逃せない会話が飛び込んできたのは学園祭直前の前々日だった。告白だなんて僕に無縁なことだから、そんな伝説があるだなんて全く知らなかったし興味もなかった。普段は占いやオカルト的なことは子供騙しだとバカにする僕だけど、自分に関わるなら話は別である。この機会を逃す手はないだろう。



 そんな決意を誰にも明かさず、もちろん美咲にも知られないようにしながらやってきた学園祭当日、僕たち実行委員は目が回るほど忙しかった。二人で一緒にいられたのは準備期間だけで、当日はただの雑用係として表の屋台と教室、それと調理実習室をぐるぐると駆け回り、あっという間に時間がどんどん過ぎて行く。


 しかも僕と美咲以外は昼休憩と称して一人一時間半の自由時間がある。それを振り分けたのは僕たちだから文句は言えないが、全員が学園祭を楽しめるようにと頭を振り絞った結果、自分たちは教室で出す物をスキマ時間に適当に摘まんで済ませることしかできなくなってしまったのだ。


 それでもみんな楽しそうだし売り上げも上々、たくさん用意したサツマイモもほぼすべてが出尽くしていた。思ったよりも順調なので、実行委員としては万々歳である。


「今日はお疲れさまでした、ホント疲れたね。少しは休憩できた? 他のクラスの出し物とか全然見られてないけど、去年の実行委員もこんなだったと思うとありがたみを感じるなあ」


「うん、意外とこう言うのは苦手じゃないみたいだな。小野さんも相当疲れたでしょ? 明日もまだあるから無理しないで今日は早めに帰っていいからさ。残りは僕が見て行くよ」


 残りは集計と食材の後片付け、それに火の始末を見回る程度。僕は全部引き受けて美咲を先に帰そうと気を利かせたつもりだった。でもそれは彼女にとって不服だったらしく、どうしても最後まで残ると言って聞かない。


「小浦君は私が最後まできちんとやり切れないって思ってるの? それはちょっと心外だなー、責任もってやり遂げるよ? だから一緒にがんばろう?」


「でもまだ明日もあるんだよ? 本当に大丈夫? 顔に疲れの色が出てるようにも思うんだけど…… 気のせいならいいけどさ」


「そんなに私に帰って欲しい!? 本当に大丈夫だってば! それに小浦君も疲れてるはずなんだから私ばっかに気を使うんじゃなくて自分のことも考えなきゃだよ? でも…… ありがとね」


 一瞬で機嫌が悪くなったり笑ったり、ただ眺めていた時よりもずっと表情が豊かな美咲を見て、僕はこんなにかわいいのに本当に彼氏も好きなやつもいないんだろうかと余計な疑念を持ってしまった。


 なんでここで『もしかしたら僕のことが好きなのかも』って思えないんだ。まったく情け無くなってくるが、今まで誰とも付き合ったことがないし、告白すらしたことがないんだから仕方がない。それだけに初めての告白を成功させたいと強く願っていた。


 明日への期待もハードルも、不安も何もかもがますます増えて行く中、学園祭一日目は終わりを告げ、僕らは夜空の下を並んで歩いた。


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