崩壊
それでは今回もお楽しみください
…当たり前が壊れるのは、いつだって突然だ。
師匠との会話から3日間、俺はいつ魔物の襲撃があっても対応出来るように気を張り、進入禁止になった森のそばまで行き様子を見て帰って来るという日々を過ごしていた。
そして、4日目。
予定では明日には救援要請で呼び出しているパーティーが到着する。
…油断していたとは思わない。
それでも、それは突然だった。
俺はいつもより少し早い時間にギルドに居た。
サラの顔を見てから今日も森の様子を見に行こうと思っていると、奥から装備を整えた師匠が出てきた。
「師匠!その格好は…」
「クロウか。森の様子を見ていた職員から異常の報告があったから、少し様子を見に行くだけだ。」
…それにしては装備が整っている。
「…装備は念の為だ。何もなければそれでよし、何かあっても対応出来るように村の周りには複数のパーティーを配置済みだ。」
「俺はどうすれば?」
「ここにいてくれ。何かあればこの発煙筒で知らせることになっている。その時は村の門を閉めて籠城するんだ。」
「俺も師匠と一緒に行ったほうが…」
「お前には依頼をしただろ?それに明日には救援が到着するんだ。安心しろって。」
そう言うと師匠は森へ向かった。
ゴーン、ゴーン
気がつけば昼の鐘が鳴った。
発煙筒の知らせも無く、いつも通りの日常だった。
少し安心した、その時だった。
森の方向から発煙筒の煙が上がった。
それと同時に、森から大きな爆発音が聞えた。
「サラっ!俺は村の入口へ様子を見に行ってくる!サラはここから離れるんじゃないぞ!」
ギルドの受付で仕事をしていたサラへそう叫ぶと俺は村の入口へ走った。
村の入口では、冒険者達が村の門を閉める作業をしている所だった。
「ギルドマスターは!?」
そう呼びかけると、冒険者の中でも師匠がよく依頼を出しているベテランの冒険者が近くへ走ってきた。
「ギルドマスターは、まだ帰ってきていない。今はいつでも門を閉められるようにして待っている状況だ。」
そう話していると門の近くで作業していた冒険者が声を上げる。
「ギルドマスターです!すぐに治療を!」
声の下へ急ぐとそこには装備がほとんど無く、全身が血だらけの師匠が座り込んでいた。
「師匠!今すぐギルドへ運びます!」
「…なんで…お前が…ここに…」
「爆発音が聞こえたので気になって。サラはギルドにいますから、すぐにギルドで治療を!」
「そ…それより、村の門を…」
そう言うと師匠は気を失った。
「皆さん!ギルドマスターは俺がギルドへ運びます!すぐに門の閉鎖を!」
そう言うと、村の門が少しずつ閉まっていく。
「師匠!門は大丈夫ですので運びます!」
聞こえていないと思いながらも、師匠へ声を掛ける。
「俺も手伝おう。」
ベテランの冒険者の力を借り、急いで師匠をギルドへ運ぶのだった。
ギルドへ入口を蹴破るように入った俺と冒険者は、師匠を受付近くの床へ横たえる。
奥から慌ただしい雰囲気に気づいた職員とサラがこちらへ向かってきた。
「サラ!師匠の治療を!」
「分かったわ!」
サラがスキルを使って治療を始める。
「俺は門の様子を見てこよう。何かあれば発煙筒か冒険者をこちらへ寄せる。ギルドマスターは任せた。」
ベテランの冒険者はそう言うと村の入口へ向かった。
俺と職員でサラの治療の邪魔にならないように辛うじて残っていた師匠の装備を取り、傷の手当をする。
「こんなになるなんて、どんな魔物が…」
「私のスキルでもすぐには治らないわ。深い傷を重点的に治すから、細かな傷は普通の手当で応急処置をして。」
「分かった。師匠、もう大丈夫ですから。」
気を失っていても、師匠へ声をかけることは辞められなかった。
「…っ」
「「師匠(お父さん)!」」
治療を進め、ある程度手当が済むと師匠が目を覚ました。
サラは思わず師匠へ抱き着いた。
「…サラか。ならここは…」
「ここはギルドです。村の門は閉鎖して冒険者の皆さんが警戒してくださってます。」
そう報告すると、師匠の表情が少し和らぐ。
「なんとか間に合ったか…」
「師匠がこんなに傷を負うなんて、どんな魔物だったんですか?」
師匠はサラを抱きながら体を起こした。
「まだ寝てないと!」
「大丈夫だ。むしろ少し起きている方が体が楽だ。」
壁へ背中を預けサラを撫でながら師匠から魔物の情報を教えてもらう。
「あれは魔物ではなかった。」
「魔物ではない?」
「…魔族だ。」
ー魔族ー
姿形は人間と似ているが、人間には使えない魔法や魔物を操る存在。
「魔族って、かなり昔に滅んだはずじゃ…」
はるか昔に人間と魔族の間で戦争があり、その際に魔族は絶滅したということになっている。
「そのはずなんだがな…」
「見た目は人間と同じ、だが俺達とは明らかに違う雰囲気を纏い魔法を自在に使う。これを魔族じゃないとは言い切れん…」
ギルドの中を重い空気が支配する。
「で、でも!お父さんが帰ってこれたってことは倒したんでしょ!ならいいじゃない!」
そんな中、サラが声を上げた。
「倒した訳じゃない。隙をついてスキルをぶち当ててなんとか撒いただけだ。追ってきていないところを見るに傷を癒やしているんだろ。」
「そんな…」
「…この村の位置は既に把握されてるだろうな。」
「なんとか、明日まで耐えれば救援の人たちが…」
「魔物ならなんとかなっただろうな…」
手詰まりだった。
相手は村で一番強い師匠ですら、逃げるのがやっとの存在。
「…とりあえず、今はこのままなにもない事を祈るしかないだろうな。」
そんな師匠の祈るような声は、重い空気へ溶けていった。
少しでもよかった!と思っていただけました、感想、いいね貰えましたら励みになります。