第3章96話:ドラゴンウルフ
このシーンはバズり、同接数はついに65万を越えた。
ルミの同接最高記録の達成である。
「あ、あなた……滅茶苦茶するわね!!?」
さすがに来花もツッコミを入れずにはいられなかった。
「すみません……でもこれで、吊り天井の脅威はなくなりましたし、ゆっくり謎解きできるんじゃないですか?」
「まあそうだけど。でもね、あたし、たったいま重大なことに気づいたわ」
来花は一拍置いて、言った。
「あなた、瞬間移動でバリアの向こうにいけたりしない?」
「……あ」
完全に失念していた。
そうだ。瞬間移動を使えばバリアを突破できるのではないか?
わざわざ吊り天井を破壊するまでもなかったかもしれない。
「やってみましょう」
ルミが来花の服をつかんでから、バリアの向こうへとワープする。
……成功だ。
「突破できたわね。バリアの罠なら、瞬間移動もちゃんと作動するみたいね」
「そうですね。これは大きな発見です」
「まあ……自分で提案しておいてなんだけど、こういう裏技みたいな攻略は、予期せぬトラブルを起こしかねないから、多用するものではないと思うけどね」
なるほど、一理ある。
できるだけ正攻法での攻略を心がけたほうがいい、と肝に銘じておこう。
さて、通路を歩く。
やはり一本道だ。
進む。
進む。
進む。
1分ほど歩き続ける。
やがて一つの扉の前に辿り着いた。
2.5メートルぐらいのやや丈の高い扉である。
「扉……ボス部屋かしら?」
「どうでしょう? 台座などはありませんが」
ボス部屋の扉には、扉を開けるための台座が存在するのが通例だ。
そういったものは見当たらない。
来花が扉を点検してみるが、どうやら鍵がかかっているようである。
他に通路はなく、この扉の先に進むしか道はないようだ。
「どこかに扉を開ける方法があるはずだけど……」
「うーん。力づくで突破するほうが早いんじゃないですかね?」
「それは……まあ、一度ぐらいはやってみるのもアリかもしれないわね」
来花が賛成する。
ならば……と、ルミが構えを取った。
『お……壁パンチか!?』
『今度こそ壁パンチでこじ開けるか?』
『さっきは壁を開けられなかったからなぁ』
『これは壁じゃなくて扉だぞ!?wwwww』
リスナーたちがワイワイと盛り上がる。
ルミが、床を蹴って、前に跳んだ。
パンチのモーションではない。
全身でタックルをかます姿勢。
ぶちかましである。
ルミは平均的な体格をしているが、彼女のフィジカルを活かしたタックルは、当然、隔絶した威力を誇る。
そこらのダンジョンボスですら成す術もなく吹き飛ばされる突進である。
その威力のタックルで、扉へと突っ込む。
すると―――――
「っ!!」
見事、ルミは、扉を突き飛ばした。
頑丈そうな扉がバタンと倒れ、ダンジョンに震動を起こす。
そのままルミは、勢い余って、部屋の中へと入ってしまう。
部屋に広がっていた光景。
それは。
「……ドラゴンウルフ!!?」
来花が驚く声。
そこは大部屋であり、紅色の毛並みの狼――――ドラゴンウルフの大群が集結していた。
100匹以上はいるのではないかと思うほどだ。
ドラゴンウルフたちが、一斉にルミへと目を向ける。
大量のAランクモンスターに睨まれるなど、常人なら正気を失うような出来事だ。
が……
どこかで見たような光景でもある。
このとき。
コメント欄は静まり返っていたのだが……次の瞬間、過去最大級の盛り上がりを見せた。
『ドラゴンウルフwwwww』
『ドラwwwゴンwwwウルフwwwww』
『あ……これは……』
『ドラゴンウルフ爆死コースや!!!』
『オチが見えたな』
『あああああああああああああああああ!!!』
『逃げろドラゴンウルフwwww死ぬぞwwwww』
『ドラゴンウルフ逃げてえええええええええええwwww』
『ドラゴンウルフたちの死相が見える!!!』
『そいつとは戦うなドラゴンウルフ!!wwww』
『ルミを見かけたら逃げなさいwwwww』
『どうしてだろうな。絶望的な状況のはずなのに、敵に同情しちまうぜ……www』
『ドラゴンウルフウウウウウウウウウウううううううwwwwww』
『ドラゴンウルフが死んじまう!!!』
『また惨劇が始まってしまうのかwww』
『ドラゴンウルフ終わったなw』
『クソワロタ』
『ちょwwwwww』
爆速でコメントが流れていく。