第6章166話:他者視点
神埼「皆様! 優勝者であるルミ選手に、あたたかい拍手をお願いいたします!」
もともと拍手は喝采されていたが、実況者・神埼の一声で、さらに大きなものに変わる。
万雷の拍手が広がっていく。
ただ。
その中で、言葉を失う者もいた。
「―――――――……」
チサトン応援団である。
彼らは当然、チサトンが勝つものだと信じていた。
まさか負けるなんて、思ってもいなかった。
脱帽である。
ゆえに口をあんぐり開けて、まったく動けないでいた。
<来花視点>
来花の自邸。
モダンハウスの二階、自室にて。
来花はパソコンを開き、ネットで大阪大会の試合を観戦していた。
ついに決着。
なんと、ルミの勝利で終わったのだ。
「ルミさん、本当に勝っちゃったのね……」
チサトンとルミの戦い。
最初こそ拮抗していたものの、終わってみれば、ルミの圧倒的な勝利に終わった。
「同接数もおかしなことになっているじゃない」
現在、大阪大会・公式の生配信の同時接続数は、異常な数値を記録している。
なんと2000万人を突破しているのだ。
常軌を逸した盛り上がりであり、大阪大会において、過去最大であることは間違いなかった。
東京大会すらも越えているかもしれない。
もともと今年の大阪大会は、チサトン参戦の影響で、例年より高めの同接数で始まったが……
初日にルミがメイを破ってから、驚異的な伸びを見せ続け、決勝でさらにバズりまくり……
大会3日間をかけて、ついに同接2000万の大台に乗ったというわけだ。
「あたしも頑張らなきゃダメね」
自分が、ルミやチサトンのレベルに到達できるかはわからない。
でも、一歩ずつだ。
一歩ずつ、確実に、彼女たちの跡を追いかけていく。
それが来花の信念であり、配信道なのだから。
<リリミア視点>
ちょっとリッチなデザイナーズマンション。
その上階に住むリリミアは、街を眺められる大きな部屋で、大阪大会の試合を観戦していた。
たったいま、ルミの勝利をもって終幕した大阪大会。
「きゃああああああああああああ! ルミ様! ルミ様! ルミ様ぁぁああああああ!!!」
リリミアは狂乱する。
髪を振り乱して歓喜したあと、床のマットレスの上に寝転がり、ごろごろと転がりまくった。
「きひゃああああああああああああああ!! ほわあああああああああああああああっ!!!」
リリミアはルミのことになると、気が狂う性質がある。
ガチファン。
熱狂的な信者なのであった。
「こうしちゃいられませんわ!! ルミ様が勝利した、この素晴らしき公式配信を拡散しませんと!!」
立ち上がったリリミアは、さっそくパソコンに向かい、全力の推し活動を始めるのだった。