第6章164話:覚悟
チサトンが追いすがる。
猛攻である。
「ハァアアアッ!!!」
チサトンの斬撃がルミを捉える。
ルミはいったん距離を取る。
「おおー!!」
「チサトンすげー!」
「頑張れー!!」
「負けるなチサトン!!」
「チサトン、チサトン、チサトン!!」
観客の声援が喝采する。
(さすが年間ランカーのチサトンさんは凄いですね)
とルミは率直に思った。
自分にここまで迫ってくる人は初めてであると。
(だったら、もっと本気を解放しましょうか。全力の60%ぐらいで)
現在は全力の50%ぐらい。
さらに10%ほど引き上げることにしよう。
「――――――ッ!!」
ルミが加速する。
さっきよりも速い一撃。重い一撃を放つ。
チサトンはルミの加速に驚愕しつつも、なんとか防御を間に合わせる。
「く――――――はっ!?」
防御は間に合った。
しかし、本当に間に合っただけだ。
さばけたわけではない。
ルミの攻撃の圧力に、吹っ飛ばされる。
なんとか受身を取って、チサトンはつぶやいた。
「嘘やろ!? まだ強くなるんか!?」
チサトンに冷や汗が流れる。
ルミは明らかに強くなった。
さっきまででも本気ではなかったということだ。
まだルミには上がある。
やっとルミの背中を捉えたと思ったら、一気に突き放された気分。
いったいどこまで追いすがれば、ルミに勝つことができるのか?
絶望的な気分になる。
(アカンな……勝ち筋が見えんわ)
チサトンは思った。
自分はこのままでは負けると。
しかし降参など有り得ない。
(いちかばちか……覚悟を見せる必要があるな)
チサトンは、ちらりと観客席に視線をやる。
自分を応援に来てくれたファンのみなさんたち。
彼ら、彼女らの期待に応えたい。
ファンを喜ばせることこそ、プロの配信者であると信じているからである。
「ふう……」
チサトンは深呼吸をして、精神統一をする。
「強いな、ルミ? まさかここまでとは思ってなかったわ」
さらにチサトンは告げる。
「次の一剣に、ウチの全てを賭ける。受けてみろや」
チサトンには奥義と呼ぶべき必殺技がある。
――――【絶花】。
雷速かつ剛腕の一撃で、相手を打ち砕く最強の剣技だ。
しかし絶花は未完成の技であり、また、チサトン自身への負担や反動も大きい。
成功するかわからない。
だからこその『いちかばちか』である。
(今の集中力なら、いける)
【絶花】を成功させることは難しい。
しかし現在はルミに引きずられる形で、チサトンの集中力も高まっている。
この状態なら成功させられる――――いや。
絶対に成功させるのだと、チサトンは意気込む。