第6章163話:見切り
「チサトン頑張れー!!」
「負けるな!」
「さっきは圧倒してたじゃないか!」
「頑張って!!」
「チサトン、チサトン、チサトン!!」
観客が大声援を送る。
しかし、その声援にはどこか、切迫したものが含まれていた。
なぜなら、傍目にはどう見てもチサトンが押されているからだ。
劣勢……いや。
圧倒され始めていると言っていい。
「まだや!!」
だが、だからこそチサトンは心の中で吠える。
(落ち着け……対処できない攻撃やない)
チサトンは年間ランカーだが、その強さの根源には『見切り』の能力がある。
精神統一し、敵の攻撃を見切ること―――――
チサトンはソレを高いレベルで実現することができるのだ。
ルミの攻撃は異次元のパワーとスピードに達しているが、それでもチサトンは心を奮い立たせ、冷静に見切りのチャンスをうかがう。
―――――ルミの攻撃。
(ここや!)
剣の爆発ともいうべきルミの超攻撃に対し、チサトンが完璧なタイミングでカウンターを放つ。
ルミの攻撃をかいくぐり、チサトンの斬撃がルミに直撃する。
神埼『おおっと!! チサトン選手の反撃がクリーンヒット!! 年間ランカーの意地を見せるか!?』
実況と観客が盛り上がる。
しかしチサトンは冷静に分析する。
(良いヒットではあるけど、今のじゃアカン……! ルミを倒すなら、もっと精度が必要や)
並みの相手ならば、さきほどの見切りでも十分だ。
だがルミを相手にするなら、見切りの精度はどれだけあっても足りない。
次はより高い精度を実現させると意気込みながら、チサトンは集中力を高める。
――――ルミの攻撃。
(……ここ!!)
チサトンがカウンターの剣撃を振るう。
それがルミにふたたびクリーンヒットする。
さっきよりも強烈な一撃が決まり、さすがにルミもひるんだ。
(よし!! 今のはええで!!)
と自分に言い聞かせる。
この調子で見切りの精度を上げていけば、劣勢を跳ね返せる。
そんな展望が見えた。
だが。
ルミはさらにソレを突き放す。
なぜならルミは、まだ100%全力ではないからだ。
彼女の上がり続けるギアには、誰も追いつくことはできない。