第6章161話:反撃のスキルたち
ルミが空中で剣を振りかぶる。
「っ!!」
次の瞬間、おとずれるのは超エネルギーの爆発である。
振るわれる剣の威力は、規格外という言葉ですら生ぬるい。
まるで体重500キロ以上あるミノタウロスが、10トン以上あるバトルアックスを、フルスイングで叩きつけてきたかのような衝撃。
たとえ防御に成功しても、正気を失いかねないほどの圧力が全身を駆け抜ける。
防ぐだけで体力がごっそり奪われるのだ。
実際、チサトンは吹っ飛ばされ……
遅れて、とてつもない虚脱感に全身をさいなまれた。
「はぁ……はぁ……はぁ……っ……はぁ……」
息が荒れる。
「……っ」
チサトンは、嫌な空気を感じ取っていた。
戦いには"流れ"というものがある。
流れに乗っていれば、いつも以上のパフォーマンスだって出せる。
逆に、流れが悪い場合は、剣技は鈍るし、動きも落ちる。
そして。
現状、少しずつ少しずつ、ルミのほうに流れが傾いてきているのを感じていた。
ただの「空気」でしかない話だ。
しかし、チサトンはそれを甘く見ない。
(まだや。まだウチの流れや!)
形勢逆転された感はあるが……
ルミの爆発力に圧倒され、一時的に混乱に陥っただけだ。
と、チサトンは自分に言い聞かせる。
気持ちで負けてはいけない。
混乱や動揺は、思考を鈍らせるからだ。
(守ってばかりじゃアカン……攻めるで!)
チサトンは自分が磨いてきた剣技を振るうことに決めた。
「双陣剣ッ!!」
敵の正面に斬撃を放つと、敵の背後からも斬撃を放つことができる……
一度で二度斬る双撃の剣――――双陣剣が、ルミに炸裂する。
だが。
「……」
ルミは楽々と回避する。
チサトンは顔をしかめ、次なる剣技を放つ。
「ステルスソード!!」
刀身を透明化させることのできるスキル――――ステルスソード。
チサトンの刀が透明状態になる。
その状態で振るわれる剣を、回避することは至難の業だ。
日本最強ともいえる、チサトンの剣術や体術もあわさっているのだから尚のこと。
神埼「チサトン選手! 防御から一転、見事な剣術スキルで反撃を開始します!」
新田(あくまで攻めの姿勢を忘れない、か。さすがは年間ランカーだな)
人間は本能的に、苦しいときほど守りに入りたくなるものだ。
しかし、戦いでは、きついときこそ攻めの姿勢を忘れてはいけない。
チサトンはよくわかっている。
だが。
それでも。
ルミには届かない。
「くっ!!」
チサトンは歯噛みする。
ルミはチサトンの刀のリーチを完璧に把握していた。
ゆえに、ステルス状態の剣で斬りかかっても、紙一重で回避される。
不可視の剣を、ルミはかわし続ける。
「まだや……!!」
チサトンはさらなる追撃をおこなう。
さきほど沖田チサトンと謳われた最強剣技―――桜刃撃だ。
「ハァアアッ!!」
実は、ステルスソードは別のスキルと組み合わせて使うことができない代物だ。
ところが、桜刃撃だけは例外である。
桜刃撃は、ステルス化した状態で放つことができるのだ。
つまり、見えない三段突きの攻撃が、ここに具現する。
チサトンが放つ、不可視の三段突き。
「……!」
けれど、ルミは。
軽々と距離を取って、桜刃撃の射程範囲から外れる。
この程度の攻撃では、もはやルミには通用しないのだ。