第6章158話:反撃のターン
観客たちが「沖田」というワードをしきりに使って盛り上がる。
実況の新田は、その様子に、首をかしげた。
新田『おい……なんで"沖田"なんだ?』
神埼『ああ、それはですね。沖田総司のことですよ』
新田『沖田総司? 新撰組の?』
神埼『はい。沖田総司は三段突きを得意としたとされていますからね』
神埼『一度の突きを放つ時間で、三度の突きを放つ、神速の三段突き』
神埼『沖田が好んで使ったその剣技は、実は、桜刃撃というスキルによるものだったのではないか、という説があります』
新田『ほう』
神埼『で……その沖田が使ったとされるスキルと、同じスキルを、チサトンは所持しているということですね』
新田『それを試合中に使ってくるか。配信者らしいな』
桜刃撃は決して、使い勝手の良いスキルではない。
それでも、あえて使ってきたのは、観客を盛り上げるためであろう。
実際、それが決まったことで、観客の熱気はうなぎのぼりだ。
「ふふ」
ルミの仮面の下から笑みがこぼれた。
ゆっくりと起き上がる。
「……!」
ゆらりと起き上がるルミに、チサトンが異変を察知する。
(なんや……? 空気が変わったか?)
新田(……!!)
新田(ルミの空気が変わった……?)
ルミの垂れ流すオーラ。
それは歓喜。
好敵手を見つけたときに発する、武者震いのようなもの。
決して負の気配ではないのだが、対峙している相手からすると、強烈な気迫となって襲い掛かる。
(な、なんや……この悪寒)
チサトンに戦慄が駆け巡る。
まるで、勝ち目が薄いダンジョンボスと対峙したときの感覚に近い。
自然と、身体が震えてくる。
肌が粟立つ。
ルミが剣を構えた。
チサトンは身構える。
(来る……!)
次の瞬間、ルミが地を蹴る。
神速というべき初動――――
そのスピードは、チサトンの目で追えるものではなかった。
あまりの速さ。
瞬間移動を使ったのかと思うほどの超加速。
ルミの瞬間移動は封印されているので使えないのだが、使ったのではないかと疑いたくなるほどの超スピードだった。
一瞬にして眼前まで接近されたチサトンは、刀で防御の構えを取る。
しかし。
「……!!?」
ルミが剣を振りかぶった直後。
チサトンの刀に、爆発するような衝撃が走った。
「があっ!!?」
防御ごとチサトンは吹っ飛ばされる。
会場が唖然として静まり返る。