第4章119話:トレーニング場所
その後、ルミとコトリは、夜9時ごろまで家の中でくつろいだ。
コトリが帰ることになる。
「それじゃ、またね。ルミちゃん」
「はい、また」
玄関でコトリを見送る。
去っていくコトリが、ふいに振り返る。
「えっと、ルミちゃん。ルミちゃんがルミさんだってことには驚いたけど、その……これからも、よろしくね!」
「……はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
「うん。じゃあ!」
コトリが今度こそ去っていく。
こうして夜も終わっていった。
二日後。
水曜日。
晴れ。
朝。
この日は大学がない。
ルミは、朝食を食べたあと、とある目的で外出することにした。
それは……トレーニング場所を探すことだ。
(配信をしない間は、身体がなまりがちですからね)
道路を歩きながら、ルミは思う。
(思いきりトレーニングをしても目立たない場所を探さないと……)
単にトレーニング場所を見つければいいというものではない。
重要なことは「目立たない」トレーニング場所を探すことだ。
今のルミは、正体を隠して活動するグランチューバーである。
特に特徴的なスタイルである【舞剣】は、練習するにしても場所を選ばなくてはいけない。
なので、なるべくひとけのない場所を当たることにした。
とりあえずマンションから南に15分ほどいったところにある、河川敷にいってみた。
幅70メートルほどの川が流れており、遠くには鉄橋が架かっている。
鉄橋下であれば訓練ができるかと思い、近くまでいってみたが……。
「いや……ダメですね。ここで訓練して、うっかり鉄橋を破壊してしまったら大変です」
河原に立ち、鉄橋を見上げながら、ルミはそう結論づけた。
常人ならまず考える必要のない心配であるが、ルミならば実際にやりかねなかった。
なので、河川敷は却下する。
次にルミが向かったのは、マンションの北東10分ほどのところにある噴水公園である。
噴水の周囲にベンチが置かれる美しい景観の公園。
噴水公園ではランニングなどを行っている男女の姿があった。
確かにここはランニングの訓練ならば可能であろう。
しかし、たとえば剣術の訓練をするとなると……。
「踏み込みを行ったときに、足元の石畳を踏み砕いてしまうかもしれません」
いや、ほぼ間違いなく踏み砕くだろう。
技にもよるが、たいてい踏み込みのパワーは大きいので、石畳ぐらいなら陥没させてしまう。
ここを練習場所として使ったら、景観をめちゃくちゃに壊してしまうかもしれない。
だから却下した。
次にルミは、マンションの東にある鞘坂駅に向かった。