第3章110話:移動
その男の周りには、男女4名ほどが立っていた。
彼らは口々に言う。
「我らは特定班だ!」
「ルミの素性を特定するため、彼女からあらゆるデータを取らせてもらう!」
「どきなさい。特定の邪魔よ!」
しかし、ここにいる者たちの多くは、ルミの出待ちをしていた者である。
特定班の好きにさせるわけがない。
「何が特定だよ! お前らのほうが邪魔だろ!!」
「迷惑なんだよゴミども! 消えろ!」
「特定なんて犯罪なのよ!」
「そうですわ。とっとと失せないと、範囲魔法で吹き飛ばしますわよ!」
ルミファンたちが口々に言い返し、特定班といがみあいを始めた。
売り言葉に買い言葉。
場が混沌としてきた……。
ルミと来花は、どうしたものかと立ち尽くす。
――――そのとき。
突如、周囲に複数の光が出現した。
その光は、少しずつ像をなし、やがて人の姿となる。
彼らは、此間ダンジョンを攻略していた探索者である。
此間ダンジョンの下層ボスが倒されたことで、ダンジョンが消滅し……
ダンジョン内にいた探索者たちが、外へと弾き出されたのだ。
いきなりダンジョンから排出された探索者たちは、何が起こったのかわからず、困惑していた。
「うわ……なんだなんだ?」
「いきなり外に飛ばされたぞ」
「まさかボスが倒されたの?」
「いや、まじで? ここの下層って難易度ヤバイだろ? 誰が倒したんだよ」
「ルミだよルミ! 竜人王ぶっ倒したんだって! ほら!」
探索者の一人がルミに指をさしてくる。
こちらを一斉に見始めた探索者たちは、驚愕の目をした。
「え……まじ? ガチルミじゃん?」
「ええええええ!? 本物!?」
「うわ、うわーーーー! あたしファンなんだけど!?」
ぞろぞろとこちらにやってくる。
あー。
もう、なんか、めちゃくちゃだ。
てんわやんわとなり、ルミはどうすればいいかわからず、固まってしまう。
「ルミさん」
そのとき来花が、耳元でささやいてきた。
「瞬間移動で逃げましょ」
「……!」
そうか。
その手があったか!
ルミはうなずく。
来花の手を取り、スキルを発動した。
(瞬間移動!)
移動した先は、此間町の街路である。
ダンジョンから2分ほどの距離にある場所だ。




