第3章105話:竜人5
「瞬間移動……厄介なスキルを所持しているな。ならば我も出し惜しみはせぬ。―――――戦風刃!!」
斧を思いきり振る。
その一振りによって、三つの竜巻が宮殿内に出現し、吹き荒れる。
斬性をともなった竜巻であり、祭壇や支柱に裂傷を浴びせていく。
しかしその竜巻は竜人王を傷つけない。
彼が敵と認識した相手だけにダメージを与える斬風である。
「……っ」
ルミは仮面の下で、顔をしかめた。
竜巻と一定の間隔をあけて行動しなければならないので、移動範囲が大きく制限される。
それは竜人王に読まれやすい。
しかも。
「ふンッ!!!」
竜人王が竜巻の中から姿を現し、斬りかかってきた。
慌てて瞬間移動でその場を離れ、退避する。
竜人王は竜巻の中だろうと外だろうと、自由自在に動き回る。
ルミの行動範囲だけを減らす、厄介な技だ。
だが。
ルミはこういう展開のほうが、燃えるタチだ。
(面白い……!)
戦闘は、ある程度、力が拮抗しているから楽しいのだ。
楽勝で倒したってつまらない。
「――――波動刃!!」
ルミは宣言しながら、スキルを発動する。
剣を振り、竜巻の一つに向かって巨大な風の波動を放った。
その波動は竜巻とぶつかって、竜巻をかき消す。
「ふふふ。そうこなくてはな!」
竜人王がルミに斬りかかる。
ルミがそれに応じてカウンターの斬撃を放つ。
竜人王が回避しつつ【戦風刃】で竜巻をふたたび発生させた。
ルミがすぐさま【波動刃】で打ち消す。
スキルと武器が激しいつばぜり合いを起こす。
走る。
斬撃を放つ。
かわされる。
攻撃が飛んでくる。
転んで回避する――――と見せかけて、瞬間移動。
竜人王の背後にワープして斬りかかる。
それを振り払うような、竜人王の回転斬り。
同時に【戦風刃】が使用され、ふたたび竜巻が炸裂する。
ルミは笑みを浮かべた。
この疾走感。
汗がほとばしり、アドレナリンが燃焼する。
身を焦がすような戦場の熱が、ルミを高い昂奮へと導いた。
竜人王は笑って言った。
「仮面で顔は見えぬが……わかるぞ。貴様、いま笑っているだろう?」
「……」
「血風舞う戦場の中でしか、得られない愉悦がある。貴様はそれを、心から味わうことができる戦姫だ。いま、楽しくて仕方がないだろう?」
「……否定はしません」
命を賭けるスリル。
血湧き肉踊る戦い。
燃えるような血潮。
全てが、ルミの魂を爆発させていた。
そのたぎるような熱のままに、戦場を疾駆する。