第3章100話:ボス部屋3
「来花さんはここで待機していますか?」
一度ボス戦が始まったら、扉が閉まり、出られなくなる。
中にいると攻撃の余波が飛んでくるかもしれないが、そうなっても脱出はできない。
「……いえ」
来花は否定した。
「あたしも中に入るわ」
「……そうですか」
ルミは短く答え、歩き始めた。
ボス部屋の中へ。
そこに広がっていたのは、やはり宮殿のような場所。
しかし魔王城のように禍々しいものではなく、どちらかといえば、炎の宮殿ともいうべき、赤き謁見の間であった。
濃厚な魔力の中に足を踏み入れた感覚。
入り口から正面奥まで絨毯が続いている。
その絨毯の先にあるのは、祭壇。
祭壇の上に立つ、人型の竜。
竜人ともいうべき巨体の魔物であった。
右手には巨大な斧を持っている。
「よく来た、小さき者どもよ」
……!?
喋った!?
ルミと来花は驚く。
魔物が話すなどというのは、前例のないことであった。
「我が居城へと侵入し、最奥まで辿り着いた武勇……褒めてしんぜよう。だが、貴様たちの命運もここまでだ」
鋭い眼光が、二人を貫く。
「愚かなる侵入者よ。己が力を過信し、【竜人王】の居城へと土足で踏み入った罪……死をもってあがなえ」
次の瞬間、祭壇の手前に大量の魔法陣が出現した。
召喚魔法陣である。
その魔法陣から現れるのは、膨大な数の竜人。
それぞれに武器を持ち、鎧や盾を身につけていた。
「ちょ、ちょっと待って! 言葉が通じるなら、いろいろと聞きたいことがあるんだけど!」
来花がそう呼びかけた。
しかし、竜人王は厳かに告げる。
「話すことなど何もない。もし我に問いを投げかけたいと思うなら、まずは力を示し、我を下してみるがいい」
来花は歯噛みする。
人語を解する魔物などというのは、極めて貴重な存在だ。
できるだけ情報を引っ張り出したいのだが……この様子だと難しそうだ。
ルミは言う。
「竜人王と言いましたか。ではこの方たちは、王様の兵隊ということですね」
「そうだ。だが、一介の兵士というほど甘くはない。竜人は貴様ら人間どもに比べ、高い戦闘力を持つ。一人ひとりが歴戦の戦士だ。その強さを目に焼きつけ、存分に絶望するがいい」
「なるほど。では、とりあえず前の何人かを蹴散らしてみます」
ルミが駆ける。
あっという間に竜人兵の戦列まで迫った彼女は、手前にいた兵士を蹴り飛ばした。
「グガッ!!?」
続いて近くの兵をパンチでぶっ飛ばす。
そのとき背中から刃が迫った。
ルミをそれを軽々とかわし、カウンターのキックを腹へと叩き込んだ。
竜人兵がくずおれる。
しかし。
「つよい、ナ」
「ああ。だが耐えられなくはない攻撃ダ」
「数で押しつぶセ」
倒れた竜人兵が起き上がる。
ルミの攻撃も多大なダメージはあるはずだが、一撃で殺せるほどではない。
……なるほど。
そこらの雑魚ではないようだ。
「むっ」
正面にいた竜人兵の攻撃。
それを退いてかわすと、今度は背後の竜人兵から斬撃が、ルミの背中に繰り出された。
ルミはしゃがんでかわすモーションから、脚を振り回して背後の敵を蹴りつける。
竜人兵のアゴにクリーンヒットして昏倒させた。
しかしだんだん取り囲まれる。
あちこちから刃が飛んでくるようになり、ルミは包囲から逃れるために上へ跳んだ。
竜人兵の頭の上を踏み台にして、さらに高く跳び、戦列を離脱する。
倒せた敵は、ここまでで1体だけだ。
『こいつら硬ぇな』
『竜人ども、速いし強い』
『これはちょっと苦戦するんじゃね?』
『雲行きが怪しくなってきたか?』
『楽勝じゃ無さそう』
『死ぬなよ!!』
『負けるなルミ!!』
『頑張れ!!』
リスナーたちが応援する。