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童話

白い狼煙

作者: 青い時計

ある所に、裏手の城壁だけが綺麗なままの、打ち壊された城の残骸ざんがいがありました。

昔々の戦いで、城も住む者も跡形なく消し飛ばされたのですが、沢山のガーゴイルに手を焼いた攻め手が、一等強いガーゴイルを無視したことで、唯一残った部分となっていました。

ガーゴイルは決められた範囲以上には動けないので、誰も近づかなければそのうち壊れるだろうと放置されていたのです。



寒い寒い冬でした。

ガーゴイルはいつもの城壁の上でいつも通りの角度で空を見上げていました。


身体が動く予感がします。怖いもの見たさのヒトでしょうか。

ガーゴイルはゆっくりと目線を下げました。


視界には、真っ白いヒトの子が居ました。

崩れて誰も住まぬ城跡にたった一人で何の用があるのだろうかとガーゴイルは思いました。


ヒトの子は雪の中をまっすぐ進んできます。

ギギギとガーゴイルは首を動かしました。


「ねぇ、ガーゴイルさん。教えてくれる?」


城壁から飛びあがったガーゴイルを恐れもせず、小さなわらしは紅い唇を開きます。


「雪女と雪の女王。どちらが私に相応しいかしら?」


童を仕留めんとしたガーゴイルの鉤爪かぎづめは、小さな子供の指にはばまれていました。


触れる距離まで接近し、ようやくガーゴイルは理解しました。


「お待ちしておりました、我が王よ。流離(さすら)われるなら雪女に。根を張られるなら女王に」


童はクスクス笑いながらガーゴイルの爪先にキスをしました。

途端に雪は嵐のごとく吹きすさび、甲高い笛のような音をたてます。

真っ白に染まった視界の中で、魔王とガーゴイルの間に再び契約がされました。


「再会できたのはお前だけね」


歳に似合わぬ寂しげな笑みを浮かべ、童が呟きました。


こうして、凍てつくような寒い日に、ひっそりと城壁の上からガーゴイルが居なくなりました。




ここはかつての魔王城。

善なる者と魔物達が激しく戦った最後の場所です。


魔物を殺し、魔王を討ち取り、ついに最後のガーゴイルも朽ち果てたのだと、悪は滅びたとヒトは誰もが喜びました。



本当に? 本当に?

魔物は悪い奴でしたか?

ミナゴロシが、善き行いでしたか?


貴方々は清いヒトですか?



こうして小さな魔王とガーゴイルは吹雪と共に何処かへと去って行き、ヒトは長い平和と同族同士の争いを手に入れました。



海を隔てた遠い氷の島に魔物の国があるとヒトが気付くのは、ずっとずっと先のお話です。


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