金色の戦士
「な、なんだっ!子供たちが大きくなりやがった!」
金色の戦士の前で、土偶は目を見開いて息を飲んだ。
勾玉と私の力が合わさったら、とんでもないことになった。
あんなに可愛かった子達が、今じゃ力強く凛々しい戦士の姿になったのだから、誰だって驚くだろう。
可愛さはなくなったけれど、筋骨隆々でかっこよくなっちゃって、見惚れてしまったのは内緒にしていこう。
コマケンは錫杖を構えたかと思うと、「「ハッ!!」」と掛け声を合わせ、攻撃に転じた。
土偶は咄嗟に防御の体制に入るも、大人になった二人は勢いがまるで違う。
二人のパワーとスピードに押され、土偶は成すすべもなく叩きのめされた。
大地に突っ伏した土偶は、わずかに顔を上げコマケンの二人を睨みつけた。
「くぅ、なんて力だ。よりによってこの俺がやられるとは!や、よく見れば、お前達のその姿は仁王じゃないか!!通りで力が強いわけだ。しかし、なんでまたチビたちが仁王なんかになってんだ?」
土偶の質問に答える義理はないけれど、確実に私の力が影響を及ぼした。
コマケンは、狛犬から仁王にパワーアップしたってことなんだね。
仁王といえば、寺院の入口で守護している銅像が有名だったなと思い出した。
コマとケンは、無言で土偶に近寄り、とどめを刺すべく錫杖を振り上げた。
「待て待て待て待て!!話せば分かる。降参だ、降参」
土偶は泡をくって後ずさった。
土偶の態度が変わり、コマとケンは顔を見合わせた。
「俺が悪かった。この通り謝るから許してくれ」
平身低頭な土偶の態度はどうも怪しい。
訝しみながら様子を見ていた二人は、恐る恐る錫杖を引いた。
その途端、土偶は二人に向かってバッと土塊を投げつけて、空中へと浮き上がった。
「ちょっと、卑怯よ!」
私の叫びに土偶は目を細め「覚えてろよっ!」と捨て台詞を吐いて、その場からトンズラした。
なんなの、あれ。
唖然とした私の元にコマケンが駆け寄った。
近くで二人を見ると、キラキラして凛々しすぎて圧倒されてしまう。
だって、可愛かった頃とイメージが違いすぎるから。
ギャップがありすぎて対応に困ってしまう。
なんて声を掛けたらよいのやら。
二人は私の態度に首を傾げたものの、私の手首の縄を解き、目の前で跪いて微笑んだ。
その人懐っこい笑みを見たら、小さな二人の笑顔とダブり、ついつい頭を撫でてしまった。
「二人とも、助けてくれてありがとう」
すると二人は気持ちよさそうに目を細め、ポンと音を立てた。
そう。
二人は元の子供の姿に戻って、私に抱きついてきたのだ。
「「みつきちゃん。ぼくたちつかれたー」」
あらら。
どうも力を使い果たしたらしい。あれだけ頑張ってくれたのだから、無理もない。
二人は目がトロンとして眠そうだ。
もうこれ以上戦うことはできないだろう。
「「みつきちゃん、ぼくたちちょっとだけおやすみするね」」
「大丈夫なの?」
「「うん、だいじょうぶだよ。みつきちゃんにこれあげるー」」
二人は私の手のひらに勾玉を載せると、その中に吸い込まれていった。
だいぶ無理をさせてしまった。
私は勾玉を首にかけると立ち上がった。
これからユキちゃんを探さなければならない。
確か、こっちの方向に飛ばされたんだ。
私の向かうのは、切り立った岩場の多い場所だ。
足場は不安定だけど、妖気は感じられない。
少し風が強いので、気をつけて進もう。
私は一歩一歩、足場を確認しながら進んだ。
ピューっと風が通り過ぎる。
頬を撫でるような風に誘われ、私の歩みは早くなる。
まるで、風に背中を押されてるみたい。
暫く進むと、大きな岩が目の前に現れた。
これは簡単に登れる大きさじゃない。
迂回した方が良いのかも。
私が歩を進めようとした時、『ケーン』という甲高い声が聞こえた。
あっ!
これは聞いたことのある声だ。
その声は大きな岩の上から聞こえた気がするんだけど?!
見上げると、そこには四つ足の大きな獣の姿が見えた。
顔は龍のようで体には鱗が見える。額には一本の角が生え、鬣と尾は金色に近い黄色で大変美しく風にたなびいている。
全く恐怖は感じない。
とても優しげな表情の獣は、神聖な生き物のようで辺りの空気は澄み、光が溢れ出してくるようだ。
その獣と目が合った。
『ついてきて』
その目は私に訴えかけた。
私はコクリと頷くと、その獣の後を追った。
たくさんの岩場を抜けて、テーブルのように大きな岩盤の上まで導かれた。
ハァハァと息を整えながら見渡すと、眼前にいる獣の横にはユキちゃんがぐったりと横たわっていた。
「ユキちゃん!!」
慌ててユキちゃんの元へと駆け寄った。
ユキちゃんは体中を負傷していた。
彼の持つスキル鉄壁の防御でも防ぎきれなかったところを見ると、土偶は結構強いのかもしれない。
そっと抱き上げるけれど、ユキちゃんは今だに意識がない。
ユキちゃんの白くて柔らかい毛並みをそっと撫でながら、負担がかからないように抱きしめた。
ユキちゃんの痛みが私の中に入ってくる。
ずいぶん遠くまで飛ばされ、こんな怪我を負うなんて···。
でも、もう大丈夫だからね。
ユキちゃんの痛みは、私の中で光とともに解放されてゆく。
胸の中から溢れ出る眩い光は、ユキちゃんへと流れ込む。
それは優しい癒やしの力となって、ユキちゃんを包んだ。
すっかり傷は癒え、耳がピクっと動いている。
どうやら意識が戻ってきたようだ。
「うにゃ?」
ゆっくりまぶたを上げたユキちゃんは、目を輝かせて耳を擦り付けてきた。
ああ、いつものユキちゃんだ。
良かった。
ほっとして抱きしめる腕に力を入れた。
『君は優しいね』
「えっ?」
今、喋ったのはこの獣?
なんだか頭の中に声が響いてくるようだ。
私はまじまじと見つめると、獣はふっと笑ったような気がした。
『はじめまして。ボクは麒麟』
この獣の名は麒麟と言うの!
動物園にいるキリンとはだいぶ違うよね。
『君の名前を聞いてもいいかな?』
「私は雪村深月よ。ユキちゃんの元まで案内してくれてありがとう。探していたから、とても助かったよ」
麒麟は首を横に振った。
『傷付いた仲間を放って置くなんて、とてもできないからね。深月、こちらこそ礼を言うよ。白虎を癒やしてくれてありがとう。そんな心優しい君に折り行って頼みがあるんだ』
頼み?
それはなんだろう。
「私は何をすればいいの?」
『これを』
そう言って麒麟は私に近寄った。
口にくわえた何かを渡そうとしている。
私はユキちゃんを降ろし、麒麟から受け取ったものをよくよく見ると、それは瓢箪ほどの大きさのガラス瓶だった。
これが何だというのだろう?
首を傾げていると、麒麟は悲しげな目をして言った。
『中をよく見て』
ガラス瓶の中は透明な液体で満たされている。
よく見ると中に何かが浮いている。
これは、小さな青い物体だ。
細長くて、キラキラした鱗が見える。
えっ、これって!
私は飛び上がりそうなほど驚いた。
「まさか!青龍なの?」




