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転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜  作者: 万実


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異界の門

「まず、この大穴を封じてしまおう。この穴は異界と通じる門の役目をしている。いつまでも放置してはおけないからな」


悠也さんが大穴を封じる間、湧き出てくる鬼を頼むと言われ、私はひたすら月雅を振るって鬼を屠る。


悠也さんは方位磁石を取り出し、なにやら調べ目印をつけている。


そして手持ちの呪符の束から三枚の呪符を取り出した。


その中の一枚を穴の中心部へ向けて投げ入れた。


呪符は穴の中央で宙に浮き、バシュっと音を上げた。

呪符の周辺はプラズマが放射され、それは次第に穴全体へと広がってゆく。


「深月、呪符で異界の門を仮封じしている。鬼はこれ以上出てこないはずだ。ただしこの札の効果は持って三分。その間に本格的に封印する。時間がないからお前も手伝って」


「えっ?私にできるのかな?」


「大丈夫だ。俺のやり方を見て、同じようにやってくれればいいから。この穴の中心から見て、丑寅の鬼門と、未申の裏鬼門をこの呪符で封じ込める。俺が鬼門を封じるから、深月は裏鬼門を封じてくれ」


「了解!」


過去、祭雅だった頃の記憶を手繰り寄せる。

鬼門を封じるやり方は分かる。

時間差があるより、同時進行で封じたほうが、確実に効果があるはずだ。


悠也さんから呪符を受け取り、私は裏鬼門の前に立った。


悠也さんが鬼門に呪符を置き、私は裏鬼門に呪符を置く。


私達は異界の門に向かって右手を出した。


「「臨·兵·闘·者·皆·陣·列·在·前」」


悠也さんは手刀で九字を切った。

私も同時に九字を切ると、二人の呪符は浮かび上がり互いに光を発した。


パシュっと光が弾け、大穴を覆うように光のグリッドがドーム状に形成された。

悠也さんは目を見開き、大穴を回り込んでこちらまでやって来ると言った。


「驚いた!こんなにも完璧で強力な鬼門封じは見たことがない」


へえ、そういうものなのかな?

首を傾げつつ、恐る恐る大穴に手を入れてみる。

パッと光のグリッドが輝き、私の手を弾き返した。


確かに完璧な鬼門封じができている。

でも、このままじゃ爺と彩香の後を追う事ができない。


「こちら側からこの穴を通るには、どうすればいいのかな?」


悠也さんはまたもにやりと笑い、右手を出した。


「手首につけてる結界石のブレスレット、貸して」


ああ、これは本選用に貸与されたものだ。

だけど今は試合云々言っている場合じゃないからね。


一体このブレスレットをどうするのだろうか?


訝しみながら、私は手首のブレスレットを外して悠也さんに手渡した。


悠也さんは呪符の束の中から一枚を取り出し、その上に結界石のブレスレットを置いた。



「これからこの結界石に細工をする。これでお前と式神はこの穴を通れるようになる」


「細工ってどうするの?」


「呪符でこのブレスレットを鍵にする。これを持つものだけが異界の門を通れる仕組みにするんだ」


「えっ!そんな事ができるの?!」


「ああ、できる。そこで見ていて」


悠也さんは両手のひらに呪符とブレスレットを載せて、真言を呟いた。


『ノウマク·サマンダ·ボダナン·アビラウンケン』


呪符からホワっと柔らかい光が放たれ、ブレスレットを包み込んだ。


ブレスレットは一段階明るさが増したように輝いた。


「よし、完成だ。さあ、左手を貸して。装備して不具合がないか確かめるから」


私は言われるがままに左手を差し出した。

悠也さんはブレスレットを私の手首にあてがった。

その途端、ブレスレットは強い光を発して、私は余りの光の強さに目が眩んだ。


「うわっ!」


「へっ?なに、どうしたの?」


そう言ってはみたものの、目を開けることができずによろけてしまった私は、「きゃっ」と叫んで悠也さんの腕を掴み、前のめりになる。


「深月、待ったー」


「えっ?なになに」


何この感触は。

私の下に何かあるような気がする。

だけど、目を瞑っているから、何が起こっているのかさっぱりわからない。


しばらくして光が落ち着いたように感じ、そっと目を開けてみる。

驚くべきことに、私は悠也さんを下敷きにしていた。

というか、押し倒した、と言ったほうが正しかったりする。


そう。

つまり私は悠也さんに馬乗りになっており、いくら不可抗力だからと言っても、相当恥ずかしいことになっている。

そして見つめ合っているこの状態に、頭を抱えたくなった。


この体勢はいくらなんでもまずいでしょう!

顔面に熱が集中して、熱いなんでもんじゃ無い。

汗がたらりと額を伝う。


「ご、ごめんなさい」


どもりながらも慌てて謝り、退こうとしたんだけど、なぜか悠也さんは私の腕を掴んで離してくれない。


な、なんで?!


ドキドキと心臓が踊る。

悠也さんは私を引き寄せ耳元で囁く。


『深月、ヤバい』


えっ?ヤバいってなんのこと?


「あ、あの···」


ドギマギしながら、首を傾げ呟いたんだけど。

悠也さんの真意を測りかね、どう対応したらよいのか分からない。


『周り。静かに周りを見て』


ん?

静かに周りを見てって?


私は目線を動かし、周辺をちらっと窺った。


『げっ!』


私は蒼白になって目線を悠也さんに戻した。


『深月、急に動くな。バレたらまずいだろ?』


コクコクと頷きながら、両手で口を覆った。


なんと、薄暗い空間の中にたくさんの鬼たちがうごめいているではないか。

幸い、急に現れた私達の存在は、鬼たちにはバレていないようだ。


不思議に思いよくよく観察してみると、鬼たちと私達の間には、透明の壁でもあるかのように、鬼たちはこちらを見ても気づかない。


『呪符を貼って鬼たちにバレないようにしてるんだけど、これも時間の問題だからな。覚悟しておいたほうがいいぞ』


なるほど。

呪符の効果で、鬼たちに認識されないようにしているんだね。


私はそっと悠也さんから離れ、なぜこんな事になっているのか、こそっと聞いた。


『悠也さん、なんで周りは鬼だらけなの?それにここはどこなの?』


『ああ、ここは異界だ。さっきお前が俺の腕を掴んだまま、異界の門を通っただろ?それで、鬼だらけのこの場所に落ちてきたってわけだ』


『ええっ!!ここ異界なの!?』


目が眩んでる隙に、異界の門を通ってしまっていたなんて!!

通りで鬼がわんさかいるはずだ。

心構えがまるで出来ていないから、あたふたしてしまった。

あれ、でもそれじゃあ私が無理に悠也さんを異界に連れてきたことになるよね。


うわあ!

それは申し訳ないことをした。

悠也さんは法具師だ。

いくら呪符を投げて戦えるとはいえ、式神がいるわけではないし。

ここに連れてこられたのは彼の本意ではないはずだから。


『悠也さん、私の戦いに巻き込んでしまって、本当にごめんなさい』


『気にするな。異界に来るなんて、滅多に経験できないだろう』


なんていい人なの!

私に心配をかけないように、楽しそうに振る舞っている。

優しい言葉に感激してしまった。

ここは責任を持って、悠也さんを護らなければならないよね。


『深月、月雅を装備しておけ。そろそろ呪符の効果が切れる頃だ』


『はい!』


私はそう答えると、月雅を握りしめた。

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