本選
本選が始まる。
予選を勝ち抜いた八名が、しのぎを削り優勝を目指す。
Dブロック受付にて、今後の説明がなされた。
本選受付が開設されたので、まずはそこへ向い、くじを引くように言われたんだけど、なんのくじかな?
私は、式神のみんなと本選受付に向かった。
「よう、嬢ちゃん。やっぱり勝ち上がってきたな」
「あ、真田さん!」
本選受付にいたのは、陰陽師連盟総本部の総長、真田さんだ。
そして、隣りにいるのは副長の火室京香さん。
彼女は悠也さんのお姉さんだ。
「深月!あなた、凄かったわね!モニターで見てたわよ」
「京香さん」
うわぁ、あれ見られてたのか···。
なんというか、恥ずかしいな。
「あの、凄いのは式神のみんなですから」
「あら、何言ってるの?その式神を率いているのは誰なのかしら」
「そうだな。あの九尾の天狐には度肝を抜かれたぞ。おい、残りの式神の正体はなんだ、言ってみろ」
ひえぇ。
真田さんがぐいぐい迫って来るんですけど。
言わなきゃだめなのかな?
それを見た京香さんが真田さんの肩をバシッと叩き叫んだ。
「深月が困ってるじゃないの!何やってんの」
真田さんはムッとして京香さんに食ってかかった。
「お前なあ、前から言ってるが俺は上司なんだぞ。お前よりも数段上なの。それをバシバシと叩くんじゃねぇ」
京香さんは悪びれもせずにくすっと笑い、真田さんに詰めより言った。
「あら、まだ叩いてほしいのかしら。マゾっ気があるなんて知らなかったわ」
それを聞いた真田さんは、顔を引きつらせながら二、三歩後ずさった。
「んなわけねーだろ。あー、ったく。ホントお前さんには敵わねぇな」
やれやれと肩をすぼめた真田さんは、私に向き直った。
「嬢ちゃん、大会は初めてだったよな」
「はい。初めてです」
「おい京香、説明してやれや」
「いいわよ。それじゃあ深月、こっちに来なさい」
京香さんに案内されて、私は受付近くのテーブルに移動した。
「まずはくじを引いてもらうわね」
「なんのくじですか?」
京香さんは「ああ、そうよね!」と言って微笑んだ。
「決勝トーナメントで戦う順番を決めるくじよ。ここでは運の強さも大切だから。まあ、あなたなら誰に当たっても大丈夫だろうけど」
「はは···」
京香さんまでそんな事を言う。
なんだか買いかぶりすぎているような気がしてならない。
「はい、この箱の中から一つ取ってちょうだい」
差し出された箱には丸い穴が開いていて、そこに手を入れてみる。
ん?
ソフトボール位の大きさのボールがいくつか入ってる。
私は適当にがらがらとかき混ぜ、これと思うボールを取り出し、京香さんに手渡した。
「あら、一番ね」
そう言って、ボールに書かれた番号を私に見せてくれた。
そこには大きく一の文字。
決勝トーナメントは初戦に決定だ。
「対戦相手は決まっているんですか?」
「決まってるわよ。二番を引き当てたのは如月彩香さんだわ」
「如月彩香···」
彩香とは須弥山で会っている。
爺に引き続き彼女と対戦とは、なにか因縁めいたものを感じる。
「あと、本選で選手にはこれを装着してもらうわ」
そう言って手渡されたのは金色のブレスレット。
「これは?」
「これは結界石を組み込んだブレスレットよ。対戦相手から攻撃を受けても、体のまわりに結界が張り巡らされるからダメージは受けないの。一定の攻撃を受けてブレスレットが壊れた時点で負けが確定するの。まずは着けてみて」
手渡されたブレスレットを左手首に着けた途端に、体全体がふわっとしたベールに包まれた。
結界が張られ護られているようだ。
「うわぁ、このブレスレット凄いですね」
「でしょ。これを考案、製作したの、私よ」
こんな凄いのを作っちゃうんだ!
流石、一流の法具師はやることが違う。
ホント、火室家は優秀だ。
「それじゃあルールの説明をするわね」
「お願いします」
「舞台に入れるのは選手一名と式神一人。式神の交代は一度だけ認められているわ。あとは式神と共闘して、相手のブレスレットを破壊すれば勝ちよ」
「なるほど」
本選と予選では戦い方がだいぶ異なる。
それに、ブレスレットがあるから、攻撃されても怪我をしないから安心して戦える。
式神との信頼関係が鍵になるんだろうな。
「それとね。会場の舞台なんだけど、今までの舞台は全て撤去されて、会場の中央に大舞台が設置されるわよ。見てご覧なさい」
私は京香さんに促され見回すと、既に試合の終わった舞台は撤去されていた。
そして、新たな大舞台は会場の奈落からせり上がり、手早く設営がなされた。
「他の選手たちも、皆やってくるわね」
AエリアからHエリアまでの試合は全て終わり、各エリアの勝者が皆、本選受付へと移動してくる。
あっ!
伶さんに拓斗さん、真尋が手をあげてこちらにやって来る。
それに、悠也さんも一緒だ。
嬉しくなった私は、大きく手を振った。
うちの事務所の面々が揃い踏みだ。
「深月、今年の赤星事務所は粒揃いね。参加者全員が本選出場を決めるなんて驚きだわ」
「ホントに凄い!」
みんなが勝ち残ったことは驚きでもあるし、嬉しくもある。
「深月、早かったなって、お前もうくじ引いたのかよ」
拓斗さんが嬉々として話しかけてきた。
この人が一番喜んでいるように見える。
「うん、引いたよ。私は一番」
「お、初っ端かあ!よーし、俺もくじを引こう」
言うが早いか拓斗さんは早速くじを引いた。
そして、伶さんと真尋も続けてくじを引く。
「うわ、八番だよ」
「えっ!!俺は七番」
真尋が拓斗さんにボールを見せた。
あらー、拓斗さんと真尋が戦うことになっちゃった。
「手は抜かないからな」
「もちろんです。俺も全力で行きますから」
拓斗さんと真尋の間の空気が張り詰めた。
頭上から雷でも落ちてきそうな雰囲気である。
「深月、応援してくれよ」
真尋が真剣な眼差しで、私の右手を取って言った。
「う、うん」
「あっ!ずるいぞ。深月、俺の応援もしてくれるんだよなぁ!」
「ええっ?!」
拓斗さんにガシっと左手を掴まれた。
何なのこれ?!
こ、困ったー。
こういう時、どっちを応援すればいいのか?
どちらにも勝ってほしいんだけど、それは無理だしね。
でもね。
応援頼むと言ったって、うちの事務所には他にも伶さんや悠也さんだっているんだよね!そっちに頼んでも良さそうなものなのに。
どうして私ばかりに言うのだろう?
「おいおい、深月が困っているだろう」
伶さんが見かねて助け舟を出してくれたけど、拓斗さんは鋭い目つきで返した。
「伶さんは黙ってて下さい」
うわ!
伶さんにそんな態度を取って大丈夫なの?
「そうですよ。まさか伶さんも深月狙い?」
狙いってなんだ?真尋が訳わかんないこと言ってる。
「お前たち···」
伶さんはうんざりしながらも、私を支えてくれている。
だけど伶さんが入ったことで、話がややこしくなったような気がする。
「うるさいわね、なんの騒ぎよ」
甲高い声が響き振り向いてみれば、そこには見覚えのあるポニーテール姿の女性が佇んでいた。
「あ、如月彩香!」
彩香は私達をまじまじと見て言った。
「あなたは深月!ちょっとなにこれ?!まさかこれが噂の逆ハーレム?!しかも伶様まで···うわぁぁ!羨ましい」
「はあ?」
何いってんのー!
そんなことより誰でもいいから助けてよ···。




