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青白い炎と空の影

「ああ、泉が見えてきた」


真尋の目線の先を追うと、大きな泉が見えた。


泉の水際まで歩き、ゆっくりと真尋を座らせる。


「真尋、少し待ってて」


頷く真尋を待たせて、私はハンカチを取り出し、泉の水に浸した。


真尋の足の患部は紫色に腫れ上がり、下手したら骨が折れてるんじゃないだろうか。


そこへ緩めに絞ったハンカチをあてがった。


すると、見る間に足の腫れは引き、完治しているように見える。


「うそ!治った?!」


真尋は恐る恐る立ち上がって、足の様子を見るけど、やはりすっかり良くなっているようで、その顔に笑みを浮かべた。


「深月、ありがとう」


「何がどうなってるの?この泉の水、凄くない?」


「深月はこの泉のこと、知らないんだね。この泉の水は傷をまたたく間に癒やし、飲めば体力、霊力が回復する霊水なんだ」


へぇ!凄い。


私は目をまんまるにして泉を眺めていると、先程までとても大人しくしていたユキちゃんが、スッと私の隣に来た。


私の顔を見上げたユキちゃんは、何かもの言いたげな視線をよこすと、なんと泉に入って行くではないか。


「ユキちゃん!?」


うわ!何やってるのユキちゃん!!


猫って水嫌いなんじゃなかったっけ?!


慌てた私はユキちゃんを掴もうと必死に手を伸ばすけど、ユキちゃんは水底へと潜ってしまった。


「真尋、私追いかける」


「えっ?!おい、深月待って······」


私は真尋の言葉を最後まで聞かずに、泉にザブンと飛び込んだ。


ユキちゃんを追って私も水に潜るけど、この泉の水って不思議と冷たくないし苦しくもない。逆に心地よく感じる。


どんどん泳いで行ってしまうユキちゃんを捕まえるには、もっとスピードを上げないと追いつかない。


必死で泳ぎ、あと少しという所で泉の水底が見えた。


ん?あれ、なにかある。


水底に細長い物体が横たわっており、ユキちゃんはそれを目指してきたみたいに私をそれへと誘う。


ようやくユキちゃんを捕まえ脇に抱えると、私はその物体を恐る恐る掴んだ。


それは扇のようだ。


なんで水底にこんなものがあるの?


でも、妙に手にしっくりとくるな。


そんなことを思っていると、急に周りが泡立ち始めその泡に私は包み込まれる。


なんなのか訳が分からず私は急浮上するけど、泡とともに周りが虹色に輝いてきて、余りの明るさに私は思わず目を閉じた。


暫くしてから、私はゆっくりと目を開く。


そこは先程までいた泉の水の中ではなく、なんと事務所の元いた空間だった。


そして私は濡れてもいない。


不思議だ。


そういえば、陰陽師の試練を受けないと戻れないって聞いていたけど、それは終わったのだろうか?


なんだかよくわからないうちに戻ってきたんだけど。


でも、真尋に挨拶もできずに戻ってきてしまったのが心残りだなあなんて思っていると、腕の中で何かがうごめいた。


うわあっ!


ユキちゃんをこちらの世界へ連れてきてしまった。


どうしよう。


「んにゃ」


別に気にしないよとでも言うように、目を細めたユキちゃんは私に耳を擦りつけてきた。


いいのかな?


そして、手の中には先程泉の水底で見つけた扇もあるし。


うーん、これは一体なんなのか?


それをよくよく見る。木でできた扇は黒銀色に光り、ずっしりと重みがあり年代を感じさせる。


扇にはいくつもの石がはめ込まれている。

それは角度によって色彩が変化する特殊な石で、美しいんだけど、ただの石ではない感じがする。


そして扇には房飾り付いており、丸い水晶が数珠つなぎになっている。


この扇を開いてみようとしたけれど、どうしたことか開く事が出来ない。


首を傾げた私の腕からユキちゃんが飛び降り、姿勢を低くしてあたりを警戒している。


それで思い出したんだけど、事務所の外に何か怖いやつがいるんだった。


相変わらず辺りにはギシギシと結界がきしむ音が響き、その音にユキちゃんは背中の毛を逆立て、尻尾がピンと上を向く。


ユキちゃんは私の前に出て、私を守ってくれているように見える。小さいのに勇敢だ。


大きくなるばかりのそのきしむ音と共に、事務所もギシギシと音を立てて、まるで地震でも起こっているかのようだ。


周りの棚からはファイルや書籍がバラバラと落ちてきて、これが体にでも当たればとても危険だ。


放って置くと事務所まで壊されてしまう。このままここにいても外へ出ても同じならば、いっそ外へと出よう。


そう決意した私は、手の中の扇を握りしめて歩きだした。


事務所の玄関の扉から出て、ビルの階段を駆け下りる。そして建物から一歩踏み出した私の横に、スッとユキちゃんが並ぶ。


辺りはもちろん真っ暗闇なんだけど、それよりもどんよりとした空気が満ちている。


妖気が漂っているって表現が相応しいのかもしれない。


嫌な予感しかしない。


ギシギシと軋む音はなぜか鳴り止み、生暖かい嫌な風が吹き付けてくる。


やだ、何あれ!


ぱっ、ぱっ、といくつもの青白い炎が空宙に浮かんで、私のいる方へと漂ってくるのが見えた。


背中に悪寒が走る。


固唾を呑んで見つめていると、いくつもの青白い炎はその中央に集まりだした。


ぼんやりと空宙に影が見えだしたと思ったら、急速に人影らしきものが形造られてゆく。


うわっ!

炎が人になっちゃったよ。でもあれは絶対に普通じゃない。

だって、宙に浮いたままなのもおかしいし、綺麗すぎるのも怪しい。


そう。とても美しい男性なんだ。

スタイル抜群で普通のデニムのパンツとTシャツのラフな装いなのにモデルのようだ。


その男性は、ふうっと一つ息を吐き、ゆっくりと目を開いた。


銀色の髪に少しつり上がった赤い瞳の男性は、宙に浮いたまま、腕を組みこちらを見下ろしている。


そして、その男性は口を開いた。


「やっと見つけた」


その男性は口の端を少し上げて、両手を前に突き出した。


パリッ、パリッと亀裂が入る音がしたかと思うと、パーンと大きくて派手な音が響いた。


この音はもしや、結界が破られたんじゃなかろうか。


私の額に汗が流れる。


恐怖で後ずさる私の前に、銀髪の男性がゆっくりと降りてきた。


スタッと目の前に着地し、腕を組んて微笑んだ。


「何年、お前を探し求めたと思う?」


何この人?私のことを探してたの?

っていうか、なんで?

いや多分人ではないだろうけど、この人のことなんて知らないし。


私が首を傾げていると、その男性はクスッと笑った。



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