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転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜  作者: 万実


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大会8

霜月さんは舞台の傍へ来ると、一枚のカードを取り出しシュッと投げ叫んだ。


「式神、招杜羅(しょうとら)


そこには、鎧に身を包み、太刀を持った武将の姿の式神が現れた。

この式神は初めて見る。

霜月さんは月守の氏族だから、この式神は十二神将の一人なのだろう。


「雪村深月!勝負だ」


霜月さんはそう言うと、サングラスを外した。


私は腕に抱いていたコマケンを床にそっと置き、大きく呼吸をし、言った。


「負けないからね!」


ユキちゃんの待つ舞台へと招杜羅が上がって行き、レフリーが開始の合図をし、第三戦が始まった。


「招杜羅、太刀で攻撃」


霜月さんが招杜羅に指示を出す。

招杜羅が動き出す前に、私も指示を飛ばす。


「ユキちゃん、反撃」


招杜羅は太刀を上段で構え、そのまま突っ込んできた。

太刀筋は鋭く、今まで戦ったどの十二神将よりも素早い。

今までの戦いは何だったのか、というほど、今日の霜月さんはやる気が漲っているようだ。


ユキちゃんはその攻撃を、さっと避け足払いをかける。

招杜羅はそれを見極めて、軽妙にジャンプをし、ユキちゃんの背後に回り込むと太刀を切り上げた。


ユキちゃんは上体だけを反らして剣を躱すと、招杜羅の隙を突いて懐に踏み込み、拳を繰り出した。


その拳は重く、招杜羅は舞台ギリギリまでふっ飛んだ。


「くそ!やっぱり強い。招杜羅、袈裟斬り」


あっ!

何か技を繰り出してくる。

招杜羅は起き上がり、加速して駆け寄り、太刀を袈裟懸けに斬り込んできた。


「ユキちゃん、防御」


そう私は叫んだけれど、ユキちゃんは腕を組み立ったまま動く気配がない。


どうして避けないの?!



「ユキちゃん!!」


ガキン、と音が響き、ユキちゃんの肩から斜めに招杜羅の太刀が入ったのが見えた。


嘘でしょ、ユキちゃんが斬られた!!


ひゅっと、息を飲み込みむ。


ユキちゃんがヤトとの戦いで踏み潰された場面が私の中に甦り、恐怖に慄く。


彼が私の前からいなくなる。


そう思った瞬間、眼の前が真っ暗になり、激しい動悸と目眩を感じて、ふらりと立ちくらんだ。


「ミツキ!」「祭雅!」


ハヤトくんとヤトが私の両脇に立ち支えてくれる。

そして、コマとケンも足元で心配そうに「クーン」と小さく鳴いた。


ユキちゃんが傷つく所なんか見たくない。

なぜこんなにも動揺するのかわからない。

苦しすぎてぎゅっと目を瞑る。


···だめ、落ち着け。


「ミツキ、白虎はやられてない」


「えっ?!」


ハヤトくんの言葉に、少し冷静さを取り戻した私は、呼吸を整える。

私がユキちゃんの戦いから目を背けて、良い訳がない

よく見なくちゃ。


ゆっくりと目を開き、舞台上を見る。


そこには、何事もなかったかのように、ユキちゃんが腕を組んで立っていた。


そして、少し離れた所に招杜羅が剣を構えていた。


私は目を擦ってよくよく見るけれど、ユキちゃんはどう見ても無傷だ。


ああ、ユキちゃんは無事だ。

斬られたのではなかった。


安堵の吐息を吐き胸を撫で下ろす。

私が平常心を取り戻したのを確認したハヤトくんとヤトは、頷いて再び後ろへ控えた。


それにしても、これは一体どういう事なんだろう?


招杜羅の攻撃は尚も続いており、何度も何度も太刀を浴びせる。

相変わらずユキちゃんは避けもせず、立ったままだ。


確かに招杜羅の太刀は当たっている。 

しかし、ユキちゃんの身体は不思議な膜にでも包まれているように太刀の攻撃を受けつけない。

それらは全て跳ね返される。

どこも切れていないし、ダメージを受けているようには見えない。


招杜羅はユキちゃんと距離を取り、攻めあぐねている。


「お前の攻撃は効かない。これ以上攻撃しても意味のないことだ」


「くっ!招杜羅、力の限り攻め続けろ!多段斬り」


また、技を出す気だ。

防御はもう十分。


いくらダメージを受けてないとはいえ、これ以上攻め続けられる必要もない。


「ユキちゃん、勝って終わりにしよう」


私の言葉にユキちゃんは「任せろ」と、不敵な笑みを浮かべた。


招杜羅の攻撃はその速さを増し、力強く踏み込んだ。


太刀を振り下ろした瞬間、ユキちゃんは右手でその太刀を掴み、招杜羅から奪い取って投げ捨てた。


「なっ!?」


霜月さんに指示を出す間も与えず、ユキちゃんは招杜羅に迫る。

手刀で頚椎に渾身の一撃を加えた。

招杜羅は即座に崩れ落ち、そこにはバラバラのカードが舞い散った。


「勝者、雪村選手」


レフリーはホイッスルを鳴らし、右手を上げた。


私は舞台際に駆け寄って、ユキちゃんが降壇するのを掴まえた。


「ユキちゃん、どこも何ともないの?」


「ああ、大丈夫だ」


大丈夫とは言うけれど···。


あれだけ攻撃を受けたのだ。

いくら平気そうに見えても、隠れた怪我があるのかもしれない。


私は、ユキちゃんの顔やら身体のあちこちを確認する。

ユキちゃんは首を傾げながら、されるがままだ。


「深月、どうした?」


優しく微笑むユキちゃんを見たら、急に安心してぽろりと涙が溢れた。


「あれ?ごめん、どうしたのかな?」


なんだか、涙を流したのが恥ずかしくて。

それを見られるのが嫌で、頬をごしごしと擦った。



「そんなに心配たったのか?」


ああ。

バレてるよね、やっぱり。


「うん。ユキちゃんが斬られたと思ったら、びっくりしてしまって···」


「そうか」


ユキちゃんはそう言うと、私の頭をぽんぽんと撫で、耳元で囁いた。


「ありがとう」


うわっ!

急にドキドキと心臓が踊る。


頬が赤く染まり、先程とは種類の違う動揺が私の心を占める。

それを誤魔化すように話題を変えた。 


「ねぇユキちゃん。なんであなたに招杜羅の攻撃が効かなかったの?」


「ああ、深月。お前が防御の指示を出しただろう?」


「ん、出したね」


「私のスキルの一つ、鉄壁の防御。これは打撃、斬撃をほぼ無効化できる」


へぇ、鉄壁の防御か。


ユキちゃんがそんな技能を持ち合わせているなんて、全然知らなかった。


そういえば以前、ヤトとの戦いで、踏み潰されたことがあった。

その時も平気だったのは、このスキルのお陰だったんだ。


「ただし、相手が私のレベル以上だった場合、その攻撃は無効化出来ない」


「ええっ!それじゃあ、使い所に気を付けないと大変だ」


「そんな相手はそういないだろう。しかし、そんな強者と戦ってみたくもある」


うへぇ!

なんてこと言うんだろう、この人は!

心配するこっちの身にもなって欲しい。


はあっとため息を洩らしていると、霜月さんが暗い表情で現れた。


「雪村深月、俺の完敗だ。約束通り、コマケンの主の座を降りる。こいつらの後のこと、よろしく頼むな」


「ホントにいいの?」


「男に二言はない」


「分かった。コマケン、おいで」


私に呼ばれた二匹はしっぽをふり、私の胸に飛び込んできた。


「コマケン、···これでさよならだ」


霜月さんは二匹の頭を撫でた。

コマケンは「クーン」と一声鳴き、霜月さんは後ろ髪を引かれつつ、さみしげな様子で去っていった。

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