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転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜  作者: 万実


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大会7

レフリーの勝者宣言の後、ヤトは静かに舞台に降り立つと、身に纏った炎を消し去った。


「ヤト、お疲れ様」


私が声を掛けると、ヤトは首を横に振りながら舞台から降りてきた。


「まだ、暴れ足りないんだが··」


そうですか。

やっぱりね。

ヤトはこういう奴よ。


私は苦笑いしつつ「まだ試合は続くからね」と言うと、彼は口の端を上げ、私の頭をクシャっと撫でて、後ろに控えた。


さてさて、事務所のみんなの試合はどうなったんだろう?

様子を見に行ってみよう。


私はCブロックのエリアへと足を運んだ。


舞台上には式神たちが、しのぎを削っていた。

舞台の側にいる真尋は、式神に指示を飛ばしている。


「ヤタガラス、旋風を巻き起こせ」


ヤタガラス!

この式神は夢に出てきた千尋の式神と同じ三本足の烏だ。

懐かしさを覚え、私は視線を舞台へと移した。


舞台上にいる他の式神は、剣を構えた武将と、額に角をはやし、鉈を持った鬼だ。

上空から真尋の式神であるヤタガラスが、大きく翼を広げた。

激しくはばたいたかと思うと、その翼からは猛烈な風が生じ、刃となって武将と鬼の式神を襲う。


武将と鬼はそれぞれの武器で抗うけれど、ヤタガラスの鋭い刃には敵わない。

体に無数の傷が刻まれ、二人の式神はカードへと戻った。


「勝者、藤原選手」


レフリーはホイッスルを鳴らし、右手を上げた。


「ヤタガラス、戻れ」


よし、とガッツポーズをした真尋は、ヤタガラスを法具の宝玉に戻した。


あれ、あの法具は?

陰陽寮時代の千尋の法具は太刀だったけど、今、真尋が持っているものは趣がだいぶ違っている。


「真尋、おめでとう」


「あっ!深月。ありがとう」


真尋は嬉しそうに返事をしながら、こちらへやって来た。


「ところで、真尋の法具なんだけど、それはなに?」


「ああ、これか」


そう言って目の前に法具をかざした。

それは両先端が三又に分かれている不思議な形状をした金色の金属だ。

大きさは手のひらに乗るくらいで、細かい模様が描かれている。


「これは倶利伽羅剣(くりからけん)というんだ」


「これって剣なの?」


「そう。元の形状は独鈷と言うんだけど、真言でロックを解除する事で剣になる。予選を勝ち抜いて本戦に行けたら、こいつを使うことが出来る」


「それは楽しみだね」


「ああ」


真尋は法具を大事そうにしまい、不意に何かを思い出したように聞いてきた。


「ところで、深月はどんな法具を使ってる?」


そっか。

私はまだ真尋に法具を見せてなかった。


「私のはこれだよ」


そう言って、私はホルダーから月雅を取り出し、真尋の目の前に掲げた。


「深月、まさかそれは···」


信じられない物を見るように目を見開き、片手を私の持つ法具に近づけた。


「深月の持っているその法具は···月雅、なのか?」



「ああ、これ?そうだよ。月雅に間違い無いよ」


「今日は思いがけないことばかり起きる。なぜ祭雅の月雅がここにある?しかもあの時のままじゃないか」


そりゃ、驚くのも無理ないよね。

千年前の祭雅が使っていた扇が、そのままの形でここに存在するんだから。


「真尋と初めて出会った場所、覚えてる?」


「もちろん。須弥山だよな」


「そうよ。私、須弥山の泉に潜ったでしょ。あの泉の水底に月雅が沈んでいたのを見つけて、持ち帰ったんだ」


「なんだって?!一体何で月雅がそんな所にあるんだ?」


もしかして、あの場所に月雅があった理由を、真尋が知ってるんじゃないかと思ったけど、そう上手くは行かないようだ。


「その様子だと、真尋もどうして月雅が須弥山の泉にあったのか、知らないのよね」


「···知らないな。どういうことなんだろう?」


二人して頭をひねって考えるけど、答えは出るはずもなく。


そんな時、何かが私の足元でうごめいた。


うわっ!何なの?


驚いた私は後ずさって足元を確認すると、そこには二匹のもふもふが、つぶらな瞳でこちらを見上げていた。


「あっ!コマとケン」


そう。

そのもふもふは、狛犬のコマとケンだった。

二匹は私の声にクーンと鳴いて、ブンブンと尻尾を振ってすり寄ってきた。


か、可愛い。


しゃがんでワシャワシャと二匹を撫でていると、遠くから誰かが叫びながらこちらへ向かって来るのが見えた。


「こらー!コマケン。お前たちはまた勝手に···あっ!!」


この声は!


「コマとケンの飼い主の霜月さん」


「飼い主じゃない!雪村深月、またお前か!コマとケンを返せ」


「返せって言ったってねぇ」


二匹は霜月さんから見えない私の影に隠れて尚、すり寄ってくる。


どうするのよ、これ。


しょうがないな。


私はコマとケンを抱き上げ、霜月さんに渡そうとしたけれど、二匹は私にしがみついて離れなくなった。


霜月さんは二匹の首根っこを掴んで、引き離そうと試みるけど、二匹はまるで言うことを聞かず、私に必死になってしがみついている。


「霜月さん、少しの間、コマとケンをお預かりしていいかな」


はあっ、と盛大なため息をついた霜月さんはコマとケンに向かって言った。


「こんなに言うことを聞かないんじゃ、式神の意味がない。コマケン、次に雪村深月と戦って負けたら、俺はお前たちの主の座を降りる」


「ええっ?!そんな事していいの?私、勝っちゃうよ」


「勝負がどうなるかなんて、やってみなくちゃ分からないだろ?俺は本気だ!いいか、コマケン。俺が負けたらさよならだ。分かったな」


コマとケンは一瞬、クーンと静かに鳴いたけれど、その後は私の顔をしっかり見て何かを訴えている。


本気出しちゃっていいのかな?

知らないよ···。


「雪村深月!舞台に来い。予選準決勝で決着をつける」


「ええっ?次の対戦相手って霜月さんなの?」


「おい!!知らなかったのかよ」


「うん」


ガックリと項垂れて、霜月さんはふらつきながらDブロックの舞台へ向けて、歩いていった。


「なんだか面白いことになってきたな」


真尋が私の横でほくそ笑んだ。

傍から見たら面白いだろうけど、当事者の私はそうも笑っていられないんだよね。


「真尋、私行くね」


「頑張れよ」


「うん。真尋もね」


「ああ」


私は負けられない。


次の試合も全力で行くよ!


気合を入れて、私はDブロックの舞台へと向かった。


Dブロック受付で第三戦の詳細を聞く。

第三戦は予選の準決勝になる。

ルールは今までと同じで、今回から一対一の試合になるとのことだ。


そして、Dブロックの予選準決勝、戦闘準備のアナウンスがかかった。


「今回は私が出よう」


そう言ってユキちゃんが私の隣に来た。


対戦相手の霜月さんとは、対外試合で戦っているユキちゃんが妥当だろう。


「分かった。ユキちゃん、お願いね」


ユキちゃんは、私の頭をぽんぽんと撫でて、舞台へ上がっていった。

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