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転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜  作者: 万実


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大会6

舞台上には二人と一匹の式神が揃った。

ヤトは落ち着いていて、腕を組みながら他の式神を眺め、口角を上げている。


慌てたのは運営だ。

急遽、Dブロック受付からの呼び出しで、レフリーが走ってやって来た。

そして、バタバタと開始の合図がなされた。


『注目の試合が始まりました。メインモニターをご覧ください。こちらDブロック第二戦。月守の氏族四人を打ち破り駒を進めた大注目の新人、雪村選手を追いかけます』


うわっ!

またしても私が大きなメインモニターに映ってる。

なぜ私ばっかり映るのだろうか?

そして、この解説。

緊張するから止めてほしい。


『雪村選手、第二戦では式神を代えてきました。初戦で大きな力を発揮した男の子の式神に代わり、今度の式神はモデルのような二枚目。どんな能力を秘めた式神なのか、今から楽しみですね。対するは常連の山城選手と近年力を付けてきた根岸選手の二人。丑の刻参りが趣味だと言う山城選手に付き従うのは、式神·山姥。武器である出刃包丁の手入れに余念がなく、年ごとに包丁使いの技と精度を高めております。根岸選手の式神は旧鼠。大きなネズミの式神ですが、このネズミは大きくもあり、小さくもありと変幻自在。初戦同様、活躍してくれることを期待しましょう』


「ヤト、自由に動いて!」


ヤトに指示を飛ばすと、彼はニッと笑い走り出した。

先手を打って相手の出方を見よう。


『雪村選手の式神、動き始めました。旧鼠の懐に入り込み巨体を片手で掴みとったあ!そして軽々と持ち上げ山姥に向かい放り投げたー!』


「山姥、避けな」


山城さんの指示で山姥はさっと横へ飛んだ。

山姥のいた場所に窮鼠がドーンと落下すると、その場所には大きな穴が空いた。


「おのれ根岸!よくもやってくれたね」


「ちょっ!俺じゃねぇだろ」


「山姥、ネズミを切り刻んでおやり!」


「なっ!窮鼠、逃げろ」


『山姥の見事な包丁さばきです。速い!微塵切りです。窮鼠は刻まれる寸前に分身しました。一匹は犠牲になり細かく切り刻まれてしまいましたが、一匹は小さくなって逃げ切り、根岸選手はなんとか敗退を逃れました』


「ちっ!往生際が悪いネズミだね」


「クソババァ!ざけんな。窮鼠、ねずみ算!」


『出ましたー!窮鼠のねずみ算。ねずみ算とは、ネズミの数が倍に増殖する技です。時間が経つほどに増えていく為、手に追えなくなりますね。さあ、雪村選手の式神と、山姥はどう対応するのか!』


うわっ!

可愛くないネズミがどんどん増えて行く。

しかも、舞台上がネズミでいっぱいになってきた!


「ヤト、剣で攻撃」


「祭雅、任せろ」


『あっ!雪村選手の式神が三日月形の剣を取り出しました。片っ端からネズミを倒して行きます。美しい剣技です。そして速い。山姥の包丁さばきと同じスピードで対応します。しかし、両者の剣技を持ってしても、ネズミの増殖を抑えることは出来ないようです』


倍々で増えたネズミは舞台を埋め尽くした。

ネズミは小さいけれど、こんなに沢山いたんじゃ、身動きが取れなくなる。


これはまずい!


「ヤト、空へ退避」


「祭雅、分かった」


ヤトは素早く空へと飛翔した。


『飛んだぁー!雪村選手の式神は、空中へと駆け上がりました。そして腕を組み、優雅に見下ろしています。この式神はなに者なのか?しかも驚くべきことに、初戦同様、雪村選手と式神が会話をしております。これは雪村選手の陰陽師としての能力が非常に高いことを意味しています。末恐ろしい新人であります』


ヤトが空へと移動したのを見た山城さんは、焦りの表情を浮かべた。


「山姥、切って切って切りまくるんだよ」


『一方、山姥は先程にも増して冴え渡る包丁さばきを披露します。しかし、ああっ!!対応しきれない!』


「山姥!お逃げ、早く逃げるんだよ!」


山城さんの叫び声が響く。

しかし、逃げろと言ってもどこにも逃げる場所はない。


『ネズミたちは増え続けます。それらは舞台一面に蠢き、山姥にのしかかっていきます』


それはあっという間の出来事で、小さなネズミたちは山姥の足元から駆け上がったかと思うと、見る間に山姥を覆ってしまった。


『山姥、動けない!これでは息もできない!恐るべし窮鼠のねずみ算。山姥は力尽きカードに戻りました。山城選手、ここで敗退です!』


「根岸ー。この恨み、晴らさでおくべきか!」


震えが入った山城さんの叫びに、陰キャくんは小馬鹿にしたように言った。


「うるせぇ、山城のババァ。敗者はそこでほざいておけ」


「きーっ!口惜しや。お前、無事に帰れると思うんじゃないよ」


山城さんは、地団駄を踏んで悔しがっている。


「いつまでもババァの相手をしていられるか!窮鼠、空へ追撃だ」


ネズミは舞台上から溢れんばかりになっており、それらのネズミは全て空へと向かっている。


『おっと、ネズミの攻撃は止まりません。山姥を倒したネズミたちを起点に空中へとネズミの柱が伸びてゆきます。雪村選手の式神に、危機が迫っております』


もう間近まで、ネズミは迫っている。


「窮鼠たち、トドメだ。一気に行け!」


陰キャくんの指示にネズミたちは『キーっ』と鳴き、迫るスピードがアップした。


空中にも攻撃を仕掛けてくるなんて、驚きだ。やっぱり式神だけあって、ただのネズミじゃないんだ。

でも、黙ってやられてないんだからね!


「ヤト、狐火!最大出力」


「そうこなくては!」


ヤトが右手を天に掲げると、その身体は青白い炎で包まれた。

それはとても美しくて。

最大の力を発揮したヤトを見て、綺麗だなんて思ってしまった。


『雪村選手の式神の出した青白い色の炎は、彼を中心に激しく燃え上がっています。これは神々しい』


ヤトは赤い瞳でネズミたちを睨めつけると、右手を振り下ろす。

彼が纏った青白い炎は、その右手からネズミたちに襲いかかった。


『空中のネズミたちは、急停止しました。炎の出現で本能的に恐怖を感じたのか?!全く動けません。そこに雪村選手の式神の炎が襲いかかる。これは、火炎放射器のようだ!全てのネズミが瞬時に燃え上がったー、火の海です。なんということでしょうか。舞台上を埋め尽くしていたネズミたちは、炎に飲み込まれ最早どこにも見あたりません。舞台の上にあるのは、破れた式神カードのみ!あっけなく窮鼠は倒されてしまいました。根岸選手はここで敗退です。雪村選手、強い!圧勝です』


「まじか、あと少しで勝てると思ったのに···」


陰キャくんは、へなへなとその場にへたり込んだ。


「根岸、ざまあ無いね」


「ちっ!クソババァ、うるせぇ」


山城さんと陰キャくんの睨み合いは続くけど、付き合いきれないので放っておくことにした。

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