大会4
宮比羅、迷企羅、摩虎羅は消え失せ、そこにはバラバラになったカードが落ちていった。
「水琴、きたねーぞ」
「ひどーい」
「ずるい」
「う、うるさいわね、勝てばいいのよ!」
ああ、情けない。
言い争いは程々にしてほしいよ。
真剣勝負に汚いもずるいもないのだ。
さて、こちらもそろそろ始めますか。
「ハヤトくん、結界解除。その後は好きに戦っていいから」
「ミツキ、了解」
『おや、雪村選手の式神が喋ったような···?気のせいでしょうか。たった今、雪村選手の式神が結界を解除しました。次の動きに注目です』
私とハヤトくんの動きを見るやいなや、ベリーショートの髪の少女は叫んだ。
「チャンス到来!波夷羅、弓で攻撃だよ。連続攻撃いっけー!」
波夷羅は猛然と矢をつがえて放った。
弧を描き襲い来る矢を、ハヤトくんはじっと見ている。
そしておもむろに右手人差し指を出して、全ての矢の軌道を止めた。
「ねえ、そんな攻撃じゃ僕は倒せないよ」
「なっ?!」
『な、なんと?!喋った。式神が喋っています。いや、そんなことよりも、この式神、とんでもない能力の持ち主です。射掛けられた矢は全て、180度反転し、空中に浮いています。そして、これは水だあ!矢に水の属性が付与されていきます。式神が手を掲げたぞ。その手を振り下ろすと共に、矢は一斉に波夷羅へ襲いかかったー!』
「自らが放った矢で射抜かれろ」
「嘘っ?!」
『葉月選手、雪村選手の式神の攻撃に動揺して動けない!水を纏った矢は、一つの漏れもなく全てが波夷羅に命中したーー。波夷羅、破れたり』
そこにはバラバラのカードが舞い落ちる。
レフリーかホイッスルを鳴らし、右手を上げた。
「勝者、雪村選手」
客席から「わー」っと、大歓声と拍手が上がる。
『圧倒的!雪村選手の式神、強い。大番狂わせ!大金星です。誰がこの結末を予想したことでしょう!月守の氏族全員を破って勝ち上がったのは無名の新人、雪村選手でした。すごい新人が現れましたー』
いや、褒めすぎでしょ。
なんだか、照れてしまう。
舞台からはハヤトくんが、ご機嫌に口笛を吹きつつ駆け下りてきた。
「ミツキー、お待たせ」
「ハヤトくん、お疲れ様」
微笑むハヤトくんとハイタッチした。
「ボクの予想通りだったでしょ?」
「うん。余裕だったね!ありがとう」
ハヤトくんの頭をワシャワシャと撫でると、「へへっ!」と、得意げな顔で私の後方へ回って控えた。
「深月、やったな」
Cブロックの舞台から、真尋が手を上げながらやってきたんだけど、こちらも余裕の笑みを浮かべている。
ということは?
「真尋も勝ったの?」
「ああ、当然」
当然かぁ。やっぱり真尋は強いんだね。
「深月。そういえば、式神は戻さないのか?」
「戻さないよ。どうして?」
「いや、祭雅は力を温存すると言って、戦いのあとはすぐさま式神を宝玉に戻していたから」
えっ?!そうなの?
知らなかった。
「そういえば私、式神を宝玉に戻したことないな。式神が自ら宝玉へ戻るときは別として」
「嘘だろ?!深月、体は何ともないのか?」
真尋は瞠目してそう言うと、私の額や首に手を触れた。
「熱はないみたいだし、健康そうには見えるけど···」
「あの、ホントに何ともないよ。私はいたって元気だからね」
そんなに心配することなの?
この人は昔から心配性だったような気がするんだけど。
「深月、本当に大丈夫なんだな」
「もちろん」
真尋はため息を一つ吐き、言った。
「君はどんだけチートなんだ?!祭雅以上だよな」
「祭雅以上って。これってそんなに特殊なことなの?私としては普通のことだと思っているんだけど。それに真尋は心配し過ぎだと思うよ」
真尋は思いっきり首を横に振った。
「さっきの戦いを見たから言えるんだけどね。あれだけ強力な式神を常駐させるということは、相当な霊力を式神に流してるんだ。普通だったら倒れてる。それでも霊力に余裕がある君だから、チートだって言ったんだ」
「へ、へぇ」
私って普通じゃないの?
そんなこと無いと思うんだけどなぁ。
それに、強力な式神と言っても、今いる式神は三人だけだから、祭雅の時とは状況も違っているしね。
なんともないんだし、真尋の言う事はあまり気にせずにいよう。
「深月、少しばかり話がある」
珍しくユキちゃんが神妙な表情で話しかけてきた。
「ユキちゃん、どうしたの?」
そう言ってユキちゃんの傍に寄る。
ユキちゃんは絶えず視線を動かし、辺りを窺っているように見えた。
ユキちゃんの様子がいつもと違う。
これは、何かあったんだ。
「深月、お前はこの会場の中で、何か感じないか?」
何かとはなんだろう?
この広い会場の騒音の激しい中で、何かを感じとるのは容易ではないと思うけれど、やってみよう。
「ちょっと待ってね」
そう言うと私は目を瞑り、心を落ち着かせる。
そして辺りを探る為に、月雅を片手に持ち、胸の前に掲げた。
静かに深い呼吸を繰り返し、この会場一杯に私のセンサーを広げる。
一瞬の後。
ふわりと温かい風が私の頬を撫でたような気がした。
私はゆっくり目を開ける。
ユキちゃんを見ると南側の客席方面を気にしている。
私の感じ取った温かい風も、そちらの方角から流れてきたように思う。
「深月、私はとても懐かしい気配を感じる」
そういうユキちゃんは先程とは違い、何か嬉しそうに見える。
「懐かしい気配というのはわからないけど、私は温かい風を感じたんだ」
「温かい風、それは私が感じ取ったものと一致する。だが、その気配の出処を探ろうとすると、霞がかったようになり気配が霧散してしまう。何度試みても同じことの繰り返しだ。何か大事なことを見落としている気がしてならない。とても嫌な予感がする」
「そう···」
ユキちゃんは頷き、しかしその顔からは不安が覗く。
とても嫌な予感がするというユキちゃんの勘は、当たっていると思う。
こういう時の彼の勘は、頼りになるから。
「私も細心の注意を払うが、深月も十分に気を付けるんだ」
「うん、わかった。気を付けるね」
ユキちゃんは私に話したあとも、緊迫した表情で辺りの気配を窺っている。
ユキちゃんの言葉を、軽く受け流すことは出来ない。
きっと何かが起こっているのだろう。
みんながお祭り騒ぎで盛り上がっている今、私は浮かれすぎないように、落ち着いていなければならない。
気を付けるに越したことはないからね。
不安が胸をよぎるけれど、これ以上私にできることは何もない。
今はただ、試合に集中して勝ち進むのみだ。




