大会3
会場が熱気で包まれ、観客席からは歓声が上がっている。
Dブロックの舞台に到着した私は、舞台の近くにあるブロック受付へ並んだ。
ここで試合の説明を受けたんだけど、まずは初戦について。
初戦は五人一組で行う。
式神を一人ずつ舞台に送る。
陰陽師は舞台の外から式神に指示を出し、戦闘開始。
式神の途中交代はなし。
式神がカードに戻るか、宝玉に戻った時点で、その選手は負けとなる。
勝ち残った者が第二戦に進むということだ。
「ミツキ、次の試合は僕を出してくれないかな?」
へぇ、ハヤトくんが志願してくるとは珍しい。
「ハヤトくん、なにか理由があるのかな?」
ハヤトくんは「ほら、あれ見てよ」と言って目配せしてきた。
少し離れた所にいる四人の選手が、何やら円陣を組んで話し込んでいる。
『おい、アイツだろ?霜月と水無月を倒したって陰陽師』
『そうよ。その他の対外試合も無敗らしいわ』
『本当か?!それはマズイぞ』
『ねえ、私達で倒しちゃおうか』
『···そうだな。俺たちがまとめてかかれば瞬殺できるんじゃね』
四人はうんうんと頷き合っている。
そしてちらちらと、こちらを窺っては、こそこそと話している。
私の初戦の相手、葉月水琴、長月秀一、弥生浩介、睦月絵里。
この人達に間違い無いだろう。
今の話からいくと、私は四対一で戦うことになる。
ちょっと卑怯だよね。
「ハヤトくん、何か策があるの?」
「うん。ミツキ、ちょっと耳貸して」
「······」
ハヤトくんは私に小声で策を話し、ニッといたずらっぽく笑った。
「わかった!それじゃあ初戦はハヤトくん。君に決めた」
「任せといてよ」
そして、アナウンスの声が響いた。
『これよりDブロック一回戦を開始します。葉月さん、長月さん、弥生さん、睦月さん、雪村さん。各選手は式神を呼び出し、戦闘準備に入ってください』
わお!ついに始まった。
なんだか楽しくなってきた。
「ハヤトくん、頑張って!」
私の声にハヤトくんは頷いて舞台へと上がっていった。
一番に舞台へ上がったハヤトくんに、奇異な眼差しを向けた四人は、それぞれの式神を呼び出した。
「式神·宮比羅」
髪の長い少女がカードをひゅっと投げると、右手に太刀を持ち、甲冑を身に着けた武将の式神が現れた。
「式神·迷企羅」
筋肉質で大柄な男性がカードを投げる。
そこには、逆立った怒髪と宝棒を持ち、甲冑を身に着けた武将の式神が現れた。
「式神·波夷羅」
ベリーショートの髪の少女がひゅっとカードを投げる。
そこには、短剣を持ち、甲冑に身を包んだ武将の式神が現れた。
「式神·摩虎羅」
眼鏡をかけたインテリ風の少年がカードを投げる。
現れた式神は、斧を持ち甲冑を身に着けた武将だ。
現れた式神たちは、物々しく舞台へと上がっていく。
礼服を着た中年男性のレフリーが右手を高く掲げ言った。
「開始!」
『注目の試合が始まりました。メインモニターをご覧ください。こちらDブロック初戦。なんと十二神将を擁する月守の氏族のうち四名が、同組初戦で当たる大波乱。四名の内、勝ち上がるのは誰か!大注目の一戦です』
うわ!
何この解説は??
しかも、私達がでっかいモニターに映ってる。
なんだか、恥ずかしい。
···でも、今の解説って、私のこと全然無視してるよね。
まあ、いいんだけど。
『はい。この試合に一名、無名の新人の子が入っています。引きが悪くて残念ですねぇ。この戦いにどこまで喰らいついていけるのか、頑張ってほしいところです』
引きが悪いとか、喰らいつくとかって好き放題言ってくれるよね。
私、勝つ気満々なんですけど。
腕まくりして私はハヤトくんの近くに駆け寄った。
だけど、指示を出すのはまだ早いみたい。
『おっと、動いた!な、なんと月守の氏族の式神、宮比羅、迷企羅、波夷羅、摩虎羅が全て雪村選手の式神に向かっていきます。これは卑怯だ!いや、失礼。雪村選手の、可愛らしい男の子の式神は、ただいま四神将の洗礼を受けております』
来た!予想通り一斉にかかってきた。
ぎりぎりまで引き付けるよ。
よし!今だ。
「ハヤトくん!結界」
ハヤトくんは私の指示に軽く頷き、にっこり微笑むと最強の結界を展開した。
結界は幾何学模様が浮かび上がり美しく、何か芸術作品でも見ているような気分になる。
そして、ぎりぎりまで引き付けた効果が現れる。
『おおっ!これは!宮比羅、迷企羅、波夷羅、摩虎羅の四神将は、いきなり出現した結界に弾け飛ばされたぞ。この結界は雪村選手の式神によるものだー。こんなにも強力で美しい結界は見たことがありません!』
作戦は大成功。
ハヤトくんの策が見事にハマったようだ。
『なんということでしょうか!月守の氏族の四人は、唖然として動きを止めています。睦月選手がようやく指示を出す模様』
髪の長い少女がキッとこちらを睨み、式神に指示を出した。
「くっ宮比羅、太刀で攻撃よ!」
宮比羅は太刀で結界に攻撃を加える。
それを見た残りの選手も、遅れを取るなと一斉に指示を出した。
「迷企羅、宝棒で攻撃しろ!」
「波夷羅、短剣で攻撃だよ!」
「摩虎羅、斧で結界を攻撃!」
ガキンっガキンっと音は響く。
『神将の四人が、総掛かりで結界を攻撃しますが、全く歯が立ちません。何という強度の結界か!雪村選手の式神は結界の中で口笛を吹いています。余裕です!ああっ!なんと神将達の武器が結界の強度に耐えきれず、全て壊れてしまったー!こんなことがあっていいのか』
月守の氏族の四人は、驚き戸惑っている。
武器を失った神将達は、拳や足で結界に攻撃を加えるけれど、びくともしない。
よしよし。
今のところハヤトくんの策の通りに行っている。
私はことの成り行きを静かに見守るのみ。
「何よ、この強力な結界は?!」
「硬すぎて壊せる気がしない。こうなったら···」
「埒が明かないわ!しょうがないわね」
「残念だがこれしかない」
バチバチと四人の間に火花が散るのが見えた。
そして、それぞれが指示を出すべく動き出した。
「宮比羅、先制攻撃よ!」
「させるか!迷企羅、攻撃!」
「波夷羅、全力で殺っちゃって」
「摩虎羅、蹂躙だ」
『な、なんと!結界を破壊するのが無理と判断した四人は、その矛先を変えました!仲間割れです』
おお!始まった。
でもね、そもそもみんな戦わなきゃいけないんだから、仲間割れも何も無いわけで。
『四神将の力は拮抗しています。あ!波夷羅が走り出し、他の神将との距離を取ります。おっと!弓を取り出したぞ。波夷羅は武器を隠し持っておりました。次々に矢を射かけていきます。宮比羅、迷企羅、摩虎羅はなす術もなく倒れ、カードに戻りました!長月選手、弥生選手、睦月選手はここで敗退です』




