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転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜  作者: 万実


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番外編 祭雅と銀狐

夜空に響く、しの笛と鼓の音。

その音に合わせ舞い踊る一人の女性。


彼女は女性でありながら男性の白い狩衣と烏帽子姿で黒銀色に光る扇·月雅を持つ。


一心に舞うその姿は大変に美しく、一人の男性が酒を飲みながらそれを眺めている。




平安の都より少し離れたこの場所は、焼け落ちた家々の残骸のみが残る寂れた所だ。

このままにしておけば、迷える魂がいずれ妖魔か鬼に落ちてしまう。


女性は鎮魂の為にその舞いを踊る。

迷える魂を天へと送り届けるためだ。



「おい、そろそろ舞いは終わるんだろう?」



酒を旨そうに啜りながら、その男性は女性に声をかけるが、集中して踊る女性はその問いに答えることなく舞い続ける。


雅楽の音が途切れたときに、やっとその女性もトンと足を揃え閉じた扇を目の前で持ち、深々と礼をした。


拍手を送る男性は銀色の長髪で赤い目をしている。


身体は非常に大きく、目鼻立ちは整っているが、普通の人間であるとは思いがたい妖気を醸し出している。


「約束の時間だ。その舞いが済んだらお前は俺の物になる」


「そんな約束はしていない。お主は耳が悪いんじゃないのか?」


雪村祭雅(ゆきむらのさいが)!」


「なんだ」


「お前、俺を謀ったのか?」


「さあて、どうだったか?お主もそろそろ諦めたらどうなんだ。私を喰らった所で旨くもなんとも無いというのに」


「はは!お前を喰らったら格が上がる。お前は当代切っての天才陰陽師。霊格の高さからいったらお前程のものはいないと言うのにな。この国の帝も馬鹿だ。しきたりに縛られ男性ばかり重用するから宝を取り零す」


「ふん!別に構わんよ。私は国に仕える気もなければ、お前の物にもならん。私はやりたい様にするまでよ。じゃあな」



祭雅と呼ばれた女性は男性の前からすたすたと歩きだした。


男性は慌てて右手を出して彼女を掴もうとした。

しかし、掴んだのは白い狩衣のみで、それを脱ぎ捨てた祭雅は優雅に笑って駆け出した。



「ま、待て」


「嫌だね」



追う男性の足は速いが、祭雅の速さには敵わない。



「くっ、今度こそ捕まえられると思ったのに」


「銀狐よ、またな」




祭雅は軽やかに走りながら、左手に持つ月雅に右手を添えて「式神·白虎」と叫んだ。


月雅は白く光ると祭雅の声に答え、白く輝く巨大な虎が現れた。



「白虎よ。相手をしてやって」



その虎はふんと鼻で返事を返して祭雅と男性の間に立ちはだかった。



「ちっ、時間稼ぎか!」



祭雅はほくそ笑み、また左手に持つ月雅を触った。


それは青く輝き、祭雅の声に答える。




「式神·青龍」




現れたのは天空を舞う青い龍。


龍の目は笑ったようにも怒ったようにも見える。


祭雅はひらりと青い龍に跨がり、大空へ舞い上がった。


ぐんぐんと上昇する青龍は雲を突き抜ける。


銀狐の姿はもうほとんど見えなくなり、遠くで彼の雄叫びが聞こえたような気がした。


「あいつは本当に諦めが悪い。余程私を喰らいたいようだが、そんなものには付き合いきれん。青龍、よいか。あいつが諦めるまでの一時、空の散歩と決め込もう」


青龍はニヤっと笑い「あい分かった」と返事をし、加速し天を滑るように舞った。


その後、空の散歩を楽しんだ祭雅だったが、銀狐が千年もの時を超えて、諦めもせず執拗に彼女を追い続けるという事実を、知る由もなかった。


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