拓斗さんの法具
一目でいいから、伶さんに会いたいという女性陰陽師が多すぎる。
私も伶さんはカッコいいと思うから、会いたい気持ちはよくわかる。
だけど、サインが欲しいだとか、写メを一緒に撮りたいだとか、対外試合と関係のないことを頼むのはやめて欲しい。
うーん、人気がありすぎるのも考えものだよね。
私は迫ってくる彼女を手で押し戻しながら、ため息をついた。
「深月。お前一体何やってるの?」
呼ばれた私は振り返り、声のする方を見やる。
そこに現れたのは赤みがかった茶髪の男性。
彼は荷物を抱え、首を傾げてこちらを見ていた。
そう。
悠也さんが帰ってきたのだ。
「悠也さん!!伶さんファンの子なんだけど、しつこくて。どうにかならないかな?」
「ああ···」
悠也さんも、またか!っという目つきをして彼女を見る。
そして荷物を置き、リュックの中から一枚の呪符を取り出した。
「悪いんだけど、少しの間寝ていてくれ」
そう言って、呪符を彼女のおでこにベタっと貼り付けた。
その途端に彼女はへなりと大地に寝転がった。
うわぁ、呪符を貼ったら寝ちゃったよ。
凄くない?!これ。
「深月、呪符の効果は三十秒だ!すぐ立ち去るぞ」
「へっ?三十秒!うわ、急げ」
私達は荷物を抱え、スタコラサッサと逃げ出した。
なんとか無事に事務所へ帰ることができ、ほっと胸を撫で下ろした。
そういえば、悠也さんは荷物を抱えて帰ってきたよね。
これってもしかして。
「おーい、拓斗。帰ったぞ」
悠也さんが大声で呼ぶと、緊張した面持ちで拓斗さんは現れた。
「悠也、できたのか?」
「ああ」
「本当か?!」
悠也さんは荷物の包みを取り除き、拓斗さんに差し出した。
「おお!!」
それは美しい弓と矢筒だ。
繊細な紋様の入った和弓で黒光りしている。八個の宝玉が散りばめられ、とても美しい。
拓斗さんは感極まって涙目になりつつ、弓を受け取った。
「仕上げをするから準備してくれ」
「わかった!」
あれ?
これ、完成品じゃないの?
仕上げって、何をするんだろうか。
「拓斗。まっすぐ立って、光弓を出してくれ」
拓斗さんは頷き、目を閉じて左手を胸の前へだし、精神統一し始めた。
『オン・マリシエイ・ソワカ』
拓斗さんは真言を唱えると、左手は輝きだして金色の弓が現れた。
左手には光弓、右手には法具の弓を持つその姿は、いつもの拓斗さんらしくなくて、不思議と神々しく見える。
「拓斗、二つをゆっくり融合させる」
深く息を吸い込んだ拓斗さんは、左右の弓をゆっくり近付けて行く。
法具の弓に光弓が徐々に入り込み、法具全体に光が満ちたかと思うと、その弓は大きく輝き辺りを金色に照らした。
その輝きが落ち着いてきた。
光弓が法具に馴染んだようだ。
これが融合なのかな?
なんだか凄いものを見てしまった!!
神聖な儀式でも見ているような、そんな気分だ。
「拓斗、法具にロックを掛けるから、もう一度真言を唱えてくれ」
「了解」
拓斗さんが持つ法具の弓に悠也さんも手を掛けた。
『オン・マリシエイ・ソワカ』
拓斗さんの声が、弓に吸収されていくように感じる。
『臨·兵·闘·者·皆·陣·列·在·前』
九字を切った悠也さんの手は、赤く燃えているように見える。
そして、悠也さんの手から風が巻き起こり、法具を包み込んだ。
拓斗さんの法具は赤みを帯び、再び輝く。
一瞬、大きく光を放った法具は、なんと小さくなって、色彩も先程とは変わった。
弓は黄金に朱を混ぜ込んだような色をしており、八個の宝玉が燦然と輝いている。
あまりに美しくて、暫く見とれてしまった。
「完成だ」
「······凄い」
「拓斗、この法具の名前は考えてあるか?」
「ああ。暁というのはどうだろうか?」
「暁!この法具に相応しい、いい名前だ」
うわぁ。
この弓の輝きは正しく暁のよう。
こんなに美しい法具を作り上げる悠也さんって凄いな。
「拓斗。この法具の説明をしようか」
「よろしく頼む」
「先ずは矢について。矢筒に入っている矢は決して尽きることはない」
「本当か?!」
「ああ。須弥山からお前が持ち帰った不死鳥の羽根を使ったからな。使ってもすぐに再生する」
「それは凄いな!苦労して手に入れた甲斐があったってもんだ!」
へえ、あの虹色の羽根は不死鳥の羽根だったの!
矢が再生するなんて便利だよね。
拓斗さんは凄く嬉しそうだ。
「後は、まあ分かっているとは思うが、法具の使い方だ。法具を手に持ち、真言を唱えればロックが解除される。大きさも元に戻る」
「ああ、そうだな······」
拓斗さんは感無量という表情で、手に持つ法具見つめている。
その時、事務所の入口のドアが開いた。
外出中だった伶さんが戻ってきて、拓斗さんの法具を見るなり口を開いた。
「悠也、すぐに拓斗と共に陰陽師連盟総本部へ向かえ」
「えっ?!」
「拓斗は法具の鑑定と登録、悠也は法具師の登録を済ませて来い」
「伶さん!それは···」
「素晴らしい出来栄えの法具だ。これならAランクは間違いないだろう。悠也、拓斗、おめでとう」
「「ありがとうございます。行ってきます」」
拓斗さんと悠也さんはそう言って、満面の笑みを浮かべ颯爽と出かけていった。
悠也さんの作った法具が鑑定される。
結果がAランク以上なら、悠也さんは一人前の法具師と認められるのだけど、伶さんが太鼓判を押す位だから、きっと大丈夫だろう。
「深月、今日の予定は?」
「特に無いです」
今日の対外試合は全て終えたので、今は何もやることがないんだよね。
「それなら、少し付き合ってもらおうか」
「えっ?は、はい」
伶さんの後について事務所を出て、向かった先はいつもの事務所の裏にある公園だった。
公園の中ほどまで来ると、伶さんはサザンクロスを懐から取り出し、それを額の前に持っていくと、目を瞑った。
あっ!
結界を張ってる。
私達は綺麗な銀色の光に包み込まれた。
これから何が始まるんだろう?
「深月、これから模擬戦を行う。月雅を出して戦闘準備をしてくれ」
「模擬戦ですか?」
「ああ。いつもの対外試合は予選形式の式神戦だろう?そろそろ本選形式の練習をしよう。本戦は式神と共に自分自身も戦うから、少しでも経験を積んでおいた方がいいと思うんだ」
うわぁ!
伶さん自ら稽古をつけてくれるなんて!
凄く嬉しい。
でも、伶さんってめちゃ強いんだよね。
私、ついて行けるのかな?
「そう心配しなくても大丈夫だ。力を抜いて深呼吸して」
伶さんに促され、私は肩の力を抜いて大きく深呼吸をした。
よし!
落ち着いてきた。
伶さんは私の様子を確認し、頷いた。
「それでは、模擬戦を開始する!」




