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転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜  作者: 万実


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総長

私は首を傾げながら月雅をお姉さんへ差し出した。


「はい、開きましたよ」


お姉さんは月雅を受け取り、目を見開いて私をまじまじと見つめる。


「あなた、名前は?」


「私は深月。雪村深月と言います」


「雪村?へぇ、そう。私は火室京香。悠也の姉よ」


暫く私を見ていた京香さんだけど「じゃあ始めるわ」と言って、開いた月雅の鑑定に戻った。


そして、先程のように眼鏡をかけて隈なく観察をする。

ある一点を見た瞬間、京香さんは眼鏡を外し「嘘でしょ?!」と呟いた。


悠也さんと同じセリフを呟いている。


「な!驚くだろ?」


「ええ。にわかに信じがたいわ。こんな事ってあるのかしら?」


むむ、話の流れが全く見えない。

一体何がこの扇に刻まれているのだろうか?


「あの、何がわかったんですか?」


「この鑑定が正しければ、この扇はとんでもない物だと言うことがわかったわ」


更に言っている意味がわからない。

私は訝しみながら、京香さんを見る。


「とんでもない物?どういうことですか?」


「この扇のこの部分に製作者名が刻まれているの。でもそれが問題でね」


「製作者って誰なんですか?」


「火室景正(かげまさ)。火室家の創始者で法具師の神様みたいな人よ。でも彼の生きたのは千年も昔。彼の製作した法具は伝説になっていて誰も見たことがないの。まあ、当たり前よね。千年前の物だもの。だからこの法具が、この状態で現存していることがおかしいのよ」


なるほど。

確かに祭雅は千年前に生きていた。

この月雅が、どういう経緯で須弥山にあったのかはわからないけれど、私がそれを持ち帰ってきた。


「この月雅は、私が須弥山の泉にあるのを見つけて持ち帰ったんです」


「須弥山?!しかも、泉というと霊泉のことよね。それなら時の流れがこことは違うし、霊泉の効果で劣化も防げていたということかしらね」


京香さんは顎に手を当てて思案したあと、頷いた。


「これは総長に鑑定し直してもらいましょう」


そう言うと、返事も聞かずにスタスタと歩きだした。

悠也さんと、私、式神達も慌ててその後に続いた。


そして、ある部屋の前に来たらドアをノックしてバンと開いた。


「総長!入るわよ」


京香さんに続いて、私達も総長室に入る。

そこは白基調の広い部屋で、大きな執務机に、大きな書棚、豪華なテーブルと椅子が並び、部屋の奥には更に扉が見える。


しかし、部屋には誰もおらず、京香さんはチッと舌打ちをして奥の扉を開けた。


「総長、鑑定依頼よ。タバコは程々になさい」


「あー、お客か。今行く」


低い声が響き、大柄な男性が姿を現した。


四十代くらいだろうか?

長めの髪には少し白髪が混じり、後ろで括っている。

鷲鼻で少したれた眼は鋭い光をたたえている。

黒縁のメガネをかけており、一見穏やかそうに見えるが、本当の所は謎だ。


「総長の真田(さなだ)だ、よろしく」


「赤星事務所から参りました、火室と雪村です。よろしくお願いします」


私達は挨拶を済ませた。真田さんは私達をじっくりと見て、式神達に目を止めると言った。


「で、こっちの式神は誰の?」


「彼らは私の式神です」


私がそう言うと、「ほう、これはこれは···」と、値踏みするように見られた。


「嬢ちゃん、少し遊ばないか」


真田さんは笑顔で真っ直ぐ立ったままだ。

しかし、どこにも隙がなく、その目からは殺気が溢れ出す。 


これ、ヤバいんじゃない?!襲い来る威圧が物凄い。

額から嫌な汗が流れる。

私は身構え、ヤトとハヤトくんも私の両脇を固める。

そして、月雅からパシュッとユキちゃんが姿を現し、私の前に立つ。


「深月、気を付けろ。この男、底が知れない」


私は頷いた。

ユキちゃんの言うことはよくわかる。この殺気から十分に感じ取れる。

まともに相手をしちゃ駄目だ。


「また一人、式神が増えやがった。こりゃ俺の手に負えねえ」


真田さんがそう言うと、先程までの殺気を解き放ち、飄々とした態度でテーブルの椅子に腰掛け、足を組んだ。

そして、口の端を上げこちらを見やる。


はぁ、どうやら遊びは終わったらしい。

初対面なのに、一体何なんだろう···。肝が冷えたよ。

何かを試していたんだろうか?

でも、手に負えねえというセリフは嘘だろう。


私の直感だけど。


京香さんはつかつかと真田さんに歩み寄り、バシっと肩を叩いた。


「いてーな!おいコラ、上司に何をする!」


目尻に涙を浮かべながら、真田さんは京香さんを睨む。


「女の子をいじめてどうするの!馬鹿じゃないの?!」


京香さんは両手を腰に当てて、上から睨み据える。


「ただの遊びだろうが、いちいち突っかかんな!」


その言葉を聞いても、京香さんは無言でにらみ続けている。

真田さんは肩を落として言った。


「ホントお前さんには叶わねぇな。嬢ちゃん、悪かったな」


「いいえ」


ただの遊び?とは思えないけれど。

真田さんは、やれやれと肩をすくめた。

京香さんはため息をつくと、私の月雅を真田さんへ差し出した。


「総長、これを見て。滅多にお目にかかれない物よ」


「おう」


真田さんはそう言って受け取り、内ポケットからペンライトを取り出した。

月雅にライトを当てながら、観察するその眼は、次第に鋭さを増してゆく。


「こりゃ···」


そう言って言葉を失った。


真田さんは暫く月雅をあらゆる方向から眺め、頷いた。

そして、すっくと立ち上がり、月雅を私に渡しながら呟いた。


「嬢ちゃん、あんたはとんでもねぇと思っていたが、この業物もとんでもねぇな。どこで手に入れた?」


「これは須弥山です」


「は、須弥山に法具?聞いたことねぇな」


真田さんは顎に手を当て、「ふーん」と呟いてから暫く考え、指示を出した。


「よし、こいつはSランクで登録。製作者は火室景正で間違いない」


「Sランク!まさか」


「おう!法具師の神が作った法具だ。それに、宝玉の数は十二個だぞ。これに最高ランクを付けないでどうする?」


「···ああ、私の作ったサザンクロスが追い抜かされた」


「サザンクロス?」


私が首を傾げていると、悠也さんが私の腕を引っ張ってこそっと教えてくれた。


「サザンクロスというのは伶さんの法具だ。あれはランクAA。現存している法具で最高ランクを付けていたんだ。だが深月の月雅にあっさり抜かされたから、姉貴は製作者として悔しいんじゃないのか?」


へえ、伶さんのロザリオはサザンクロスという名称なのね。

それに、法具にランクがあるなんて、知らなかった。


ニヤリと笑う悠也さんの元へ、京香さんが歩み寄り胸ぐらを掴んだ。


「あんた!こそこそして聞こえないと思ってるんでしょうけど、筒抜けよ!」


「あわわ!わかったから!悪かったって、勘弁してくれー」


そんな姉弟のやり取りを眺めていた真田さんは、「おーい、ちゃんと登録しとけよ」と呟いて私の前に来た。


「嬢ちゃん、また遊びに来いよ」


「は、はい」


真田さんはそう言って、私の頭をがしがしと撫でて、片手を上げると部屋から出ていった。

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