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転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜  作者: 万実


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嘗めるな

執事に案内されて豪邸の応接室に入った。


そこは、ゴテゴテと飾られた成金趣味の部屋で、和風の邸宅には全く似合わず、落ち着かない。


大きな壺やいくつもの絵画が並んでいる。

一つ一つは価値のあるものなんだろうけど、いかんせん数が多すぎるため、見る気にもならない。



拓斗さんはソファーに座り、私と式神たちはその後ろに並び立つ。


程なくして応接室の扉が開いた。


中に入ってきたのは、六十代くらいの男性だ。

太っていて頭髪は薄く、脂ぎっている。

指にはギラギラとした大ぶりの金の指輪をはめ、派手なダブルのスーツを着ており、その出で立ちはこの部屋と同じ印象を受ける。

成金趣味ということだ。

余り良い感じはしない。


「おい、そこの女」


ネチッとした低い声が部屋に響いた。


挨拶も無しに、そこの女呼ばわりされた私。

拓斗さんには「口を挟むな」と、言われていたけど、直接話しかけられればどうしようもない。


「はい」


おずおずと返事をすると、成金親父は言った。


「お前、新しく入ったアシスタントか?」


返事をしようとすると、拓斗さんが立ち上がり言った。


「富成様、この子はアシスタントではなく陰陽師です」


「おい、お前になどは聞いておらん。女、答えろ」


うわっ!

女って!

高圧的な物言いの成金親父!やな感じしかしない。


「はい。私は陰陽師です」


黙っていようと思ったけど、そんなに言うなら喋らざるを得ない。


「ふん!女だてらに陰陽師とは?!おい、弓削」


「はい」


「報酬はいつもの半分だ」


拓斗さんの肩がピクっと上がった。


「富成様、それはどういう事でしょうか?」


成金親父は目を細め、鼻で笑った。


「いつもの赤星ならいざしらず、こんなどこの馬の骨ともわからん女を、陰陽師と認めるわけにはいかん」


成金親父の言葉にユキちゃんとヤト、ハヤトくんが反応していきり立っている。

ああ、式神達を完璧に怒らせた。


「あなた達、落ち着いて」


私は式神達を抑える方に忙しく、成金親父の言葉は気にしない事にした。


「彼女は優秀な陰陽師で、赤星に劣らぬ能力の持ち主です」


「なんと!嘘を言うな。とてもそうは見えん。女なんかを陰陽師として雇うとは、赤星事務所も地に落ちたな」


拓斗さんは頭の血管が切れそうな顔をしたけれど、なんとか落ち着きを取り戻して言った。


「彼女の能力を性別で判断され、それが理由で報酬が半分と言われれば、今回のご依頼を受諾することが出来なくなります。それで宜しいのなら、私共はこれで失礼致します」


ええっ?!

断っちゃうの?


まあ、それでもいいのか。


確かに依頼主がこの態度じゃ、私の出る幕は無さそうだし、拓斗さん一人じゃ危険だと思う。

これは早々に退散したほうがお互いの為だよね。


拓斗さんが立ち上がり歩き始めたので、私達もそれに続いた。


ま、待て。依頼を無下に断っていいのか?信用問題になるぞ」


「安い報酬で依頼を受けるほうが、信用に関わります。それでは」


「くっ!」


私達は命を張っている。

嘗めてもらっちゃ困る!ってことね。


後ろで成金親父が喚いているけど、それを無視して歩みを早める。


私達はほっと息をつき、豪邸から出た。


「深月、嫌な思いをさせて悪かったな」


「や、拓斗さんが悪いわけじゃないからね。でもよく断ったよね」


「ここの親父は性格最悪だろ?どケチだし。どの陰陽師も近寄ろうとしなかったんだ。うちも縁が切れて良かったよ」


「ふーん、そうなんだ。でもここにいると凄く気分が悪いよね。さっさと帰ろう」


「ああ、そうだな。それじゃあ結界を解除してくれ」


「はいな!」


私が月雅を手にした時、豪邸の中から「ギャーッ」という悲鳴と同時に、何かが壊れる音が聞こえた。


「何かあったな」


「うん。拓斗さん、今結界を解除するのはマズイかも」


私達は頷いて、踵を返した。


「拓斗さん、これって依頼を受けるってこと?」


「いや、あれは一度断ったからな。俺は見て見ぬふりができないからさ。無報酬になるけどいいか?」


「もちろん!降りかかる火の粉は払わねば」


再び豪邸の応接室へ向かったんだけど、部屋の手前には執事が腰を抜かしていた。

私は慌てて駆け寄り、様子を見る。


「大丈夫ですか?」


「助けてください、化け物です!私は大丈夫ですが、ご主人様が···」


この人は律儀な人だな。と、感心しながら私は応接室に踏み込んだ。


広い室内にあった高価な壺は粉々に砕け、絵画は散乱し見るも無惨な光景だ。


目の前には、背の高い痩せた男性が立っていた。

その手には日本刀が握られ、その切っ先は足元にうずくまる成金親父に向いている。


「ま、待て。話せばわかる」


脂汗をダラダラと流し、後ずさろうとする成金親父に、その男性は日本刀をブンと振り威嚇する。


「富成、お前の言葉を信じて···俺は破滅した。···今更何を話すことがあるというのか?」


そう言うと、その痩せた男性は、日本刀を振り上げた。

成金親父のスーツを巻き込んで、ザクっと床に突き刺して動きを封じると、ゆっくりと振り向いた。


目は落ち窪み、赤黒く光っている。

体全体から黒い霧が滲み出て、それが部屋の隅々に広がってゆく。

どう見ても人間ではない。

この妖気は、ここの敷地に入ったときに感じ取ったものと同じ。

元凶はこの男性だ。


成金親父はブルブルと震えだした。そして、私達に気付き、助けを求めてきた。


「おお、弓削よ。儂を助けよ。そこの女、お前でもいい。報酬は弾む」


うわ、なんて調子がいいの?

自分の都合でこうも態度を変えるなんて、驚きしかない。

拓斗さんは、開いた口が塞がらないようだ。


「私、あなたを助けに来たんじゃない」


「なんだと!女の分際で···」


この成金親父は、オンナオンナってホントにもう!


「うるさい黙れ!」


私は成金親父を一喝した。


そんなことを話す時間なんてない。

目の前にやばい奴がいるのに、そこに集中しないと、こちらが殺られる。


成金親父は「ひっ」と言い、それきり口を閉ざした。



相手がどんな妖魔なのか、全く情報がない。

こんな時は式神の力を借りよう。


ハヤトくんの水の攻撃は遠隔が可能だ。

これで様子を見て、こちらの出方を決める。


「ハヤトくん!水撃」


「ミツキ、了解」



ハヤトくんが手を掲げると、その周りには水の珠が輪になって現れた。


ハヤトくんが手を振り下ろすと同時に、水の珠は弾丸のように妖魔に襲いかかった。


パシュッパシュッと水の珠が妖魔に撃ち込まれると、避けきれずに頬や足から血が吹き出す。 


妖魔はギロリと赤い目を向けると、「ギ··ギギ」と声と言えぬ声を上げた。


全身が黒い霧で覆われ、その姿を変貌させてゆく。


部屋全体に影ができる。その影を追うように手脚が伸びた。そして驚くことに、手足の数が増えている。

見る間に痩せた男性は、大きな蜘蛛の姿になった。


「ギギ···富成、許すまじ」


「あれは土蜘蛛か」


ユキちゃんの声が響き、私達は身構えた。

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