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その子は十歳位だろうか?

ここからだと女の子にも見えるし、男の子にも見える。

肩まである黒髪は、サラサラのストレート。黒目がちな瞳は大きめで、大変可愛らしい。


ただ、磔にされているため、その瞳は虚ろで血色が悪く、このままだと危険だ。


美女軍団は戦いを止め、美女本体の後方にまわり控えた。

そして、私達も美女と伶さんの元へと集った。


「私を殺せばあの子も助からないわよ。私が死んだ途端にあの十字架は氷の棺になるから」


美女の言葉に、伶さんの手がぴくっと動き、それきり止まってしまった。


「何が望みだ」


伶さんの問に美女は目を細め、口の端をわずかに上げた。


「人質を変えましょうか」


伶さんは、眉をひそめたものの、また冷静になり続けた。


「それで、こちらの誰と交換するのか?」


「そんなの、決まってるじゃない。あなたよ」


伶さんは目を瞑り、深く呼吸をした。


「わかった」


「「「伶さん!」」」


まさか、承諾するとは思わなかったので、私達の間に動揺が渦を巻く。


伶さんは首を振り左手を上げて、私達に黙るよう促した。

そして、美女の喉元に突きつけていた剣を一旦納め、美女との距離を取ると言った。


「それで、人質交換の方法は?」


美女はニヤリとほくそ笑んだ。


「そこの小娘」


「えっ、私?!」


そう言って指をさされた私は、突然の指名に驚いた。

美女はポケットから何かを取り出し私に放り投げた。

受け取ってよくよく見ると、それは水色の氷のような丸い珠で、表面は幾何学模様が浮き上がっている。


「これは?」


「それは鍵だよ。それをあの坊やの口に含ませなさい。それで十字架は溶けるようになっている。ただし」


「?」


「小娘一人で行きなさい」


美女の言葉にユキちゃんとヤトは私の両脇で身構えた。


「我ら式神は、いつ何時たりとも主の傍を離れることはない」


「ふん、そんなことを言っていると、大切な命が失われるんだけど、いいのね?」


ダメよ、そんなの!

私は考えを巡らせて、式神二人を呼んだ。


「ユキちゃんにヤト、よく聞いて」


「待て、我らは他者の命よりも深月が大事なんだ。お前が何を言おうとそれは譲れない」


「ユキちゃん、ありがとう。でも、今回は私の意見を聞いて」


「······」


「私は一人で行く。ユキちゃんとヤトは伶さんの護りについて」


「「ダメだ」」


二人とも首を横に振る。

やっぱり反対すると思った。

でも、人の命がかかっているからには、私の意見に従ってもらうより他はない。


「あなた達の気持ちはよくわかる。でも、私だってやればできるんだよ。だからお願い、一人で行かせて」


「······深月、あの子供は死なない。それは私が保証しよう。それにお前の上司だってそんなにヤワではない。お前一人を行かせることがどんなに危険か、よく考えてくれ」


死なないとか、ヤワじゃないなんて、何でそんなことが言えるの?

あの二人にどんなに危険が差し迫っているか、何故わからないのだろう?


私、全然納得できない。

二人には悪いけど、もう決めてしまったから。


「二人とも、これは命令です。あなた達は伶さんの護衛につくこと。そして私は一人で行きます。変更はありません」


私はキッと二人を睨んで黙らせた。

少々、言い方がキツかったかもしれないけど、これくらい言わないと、私自身が流されてしまう。


「深月···、お前にそう言われたら従うしかない。十分注意して行くんだ」


「うん、わかった」


「祭雅、行くな」


「ヤト、大丈夫よ。すぐに戻るから」


二人の視線を感じながらも、私は歩き出した。


伶さんは私を見る。

何か考えがあるようで目で合図された。どうやら彼は大丈夫らしい。

それを見たら少し安心し、私は頷いた。


「深月、気をつけて行けよ」


拓斗さんの言葉に「はい」と返事をして、私は美女軍団の合間を縫って子供の元へと急いだ。


私が一人なのを確かめた美女は、歪な笑みを浮かべ伶さんを指さした。


「さて、あなたはこちらに来てもらいましょうか」


「······」


「変な気を起こしても無駄よ。私は何時でもあの子の十字架を棺に変えられる。鍵が小娘に渡ったからと言って、私に不利になることは何一つ無いのよ」


伶さんは凛とした眼差しのまま、美女の元へと歩む。

美女は伶さんの手を後ろ手にしばり上げた。


ただ、氷の十字架を新たに出して、磔にする様子はない。

美女になにか考えがあるのか、それとも能力の問題なのかは、わからない。

伶さんの無事を祈りながら、私はなるべく早くあの子を開放するように行動することだ。


一歩一歩慎重に、且つ急いで氷の十字架に向かい歩く。

神経を張り巡らせているので、寒いはずなのに熱く感じる。


一歩、ある地点に足を踏み入れたとき、違和感を感じ背筋がゾクリとした。


それはまるで水の膜を通り過ぎ、水の中に入ったような奇妙な感覚。


結界?

今までいた場所とは隔絶されたような気がして、私は振り返った。

みんなのいる方はぼやけて見える。


これは、おかしい。


凄く、嫌な予感がする。


そして、もう一度その膜に手を通すよう試みる。

通過するかと思ったその膜は、私の手を弾き返した。


戻れなくなっている?


その膜を何度も叩いてみるけど、その度にそれは私を拒絶するかのように跳ね返す。


「ユキちゃん!ヤト!」


叫んでみるけど、こちらの声は全く届いていないようだ。

ユキちゃんもヤトも、顔色一つ変えず、先程の場所から一歩たりとも動いていない。

この水の膜は、真実を映していない。そう感じてしまう。

私の姿はあちら側には違うふうに映っているのではないだろうか。


何てことだろう。

十分注意していたのに、まんまと敵の罠に落ちてしまった。

私は深いため息をついた。


でも、『私だってやればできる』なんて豪語した手前、不安になるのはおかしいよね。


今は帰れないかもしれないってことは考えず、私にできることをすればいい。


そう、あの子を助ける。


それだけを考えて動こう。


私は意を決して、氷の十字架に磔にされている子供の前に進み出た。


その子は、私を見た。

相変わらず目は虚ろに見える。しかし、少し力が戻ったのだろうか、なにか小さく呟いている。


よく聞き取れなかったけれど、先ずはこの珠をこの子の口に含ませよう。


「さあ、この珠を口に入れるわよ」


その子は口を開けたので、私は水色の珠を含ませると、コクリとその珠を飲み込んでしまった。


その直後、血色の悪かった頬が薔薇色に染まり、目に力が宿った。


氷の十字架は頭頂の部分からじわりと溶け出し、開放されたその子は前のめりに倒れ込み、慌てて腕を伸ばして抱きとめた。


「大丈夫?」


私の問にその子は私を見上げて微笑み、ゆっくりと口を開いた。


「綺麗なお姉さん。僕を助けに来てくれたの?」


ええっ?!

綺麗なお姉さん?

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