国家陰陽師資格試験16
結界内に天空の力が広がった。
かかっていた術が解け、式神全員の時が動き出したようだ。
「天空、一体これはどういう事?」
正直言って、式神を解放されたのはとても嬉しい。
だけど天空が何を考えて式神を解放したのかが、いまいち分からないんだよね。
「僕の気が変わっただけ」
「はあ?」
気が変わったって。
そんな事で簡単に術を解いてしまうなんて···。
天空はかなりの気分屋みたいだ。
「そうだ、君たち。今なら総掛かりで来てもいいよ」
「ええっ?!」
総掛かりって、私たちが一斉に天空に攻撃を仕掛けるの?!
こちらが有利に思える提案なんだけど、ここは冷静にならなければ。
天空は勝算があるから、あんな言葉が出るんだ。
無闇に攻撃をしかけたら、何が飛び出すか分からない。
私はひとまず結界を解除した。
式神たちはそれと同時に私の周りを固め、天空の攻撃に備えている。
「おい深月、ここは俺の力の見せどころだ。天空なんか俺の力でちょちょいとやっつけてやるぜ」
勾陳が勇んで言うけれど、私は首を横に振った。
「今は様子を見るよ。何か裏がある気がするから」
「···そうか」
勾陳は残念そうに私の後ろに控えた。
「なぜ攻撃してこないんだ?」
動きのない私たちに業を煮やした天空は、苛立ちを隠そうともしない。
「何か隠してるよね。その手には乗らないよ」
「···へえ」
天空は腕を組み、しばらく私たちを観察している。
「君を甘く見ていたようだ。正解だよ。君たちが一斉に攻撃しても、僕には傷一つ負わせることはできない。なぜなら···」
天空はそう言いかけて、土偶を指差し、その指をクイッと手前に引いた。
すると土偶は自分の意思に反して歩き出した。
「お、おい。勝手に身体が!?」
「土偶!!」
どうやら天空に操られているらしい。
「こういう事さ。特別に僕の用意した術を見せてあげよう」
天空はタクトを振るように土偶を操る。
土偶は天空のすぐ近くまで来ると腕を振り上げた。
「何だよっ!?腕が勝手に動く」
無防備に立つ天空に土偶が殴りかかった。
天空は薄ら笑っている。
土偶が天空の闇に触れた途端、そこから無数の闇の手が土偶に絡まった。
「うわああっ!」
宙吊りになった土偶は、力を吸い取られているようだ。
これはまずい!
土偶は身動きが取れず、闇の手から逃れる術が無い。
「土偶!今助ける」
私は天の美月の房飾りを一つ取り外し、天空に投げつけた。
それは闇の手を貫き天空に命中し、バーンと大きな音をたて爆発した。
「げほげほ···」
爆発の衝撃で土偶は闇の手から解放され、投げ出された。
天空は額から血を流し、忌々しげにこちらを睨んでいる。
「油断した···」
土偶はふらつきながらも、天空との距離をとっている。
天空は額の血を拭うと、その瞳に妖しい笑みを浮かべた。
「まさか僕に傷をつける者が存在するなんて、驚いたよ。君に敬意を表し、僕も全力で行かせてもらう」
「!!」
天空は右手を大地につけた。
そこからぶわっと風が巻き起こった。
これは先程の砂嵐と同じように見える。
天空はニヤリと笑った。
天空の全身からは闇が広がり、砂嵐と融合する。
天空を中心とした台風のようにそれは大きく広がった。
闇を纏った風は刃のよう。
辺りの木々はその風になぎ倒されて、切り刻まれる。
その風に押されるように、私たちはジリジリと後ずさった。
「この風、かまいたちのように全てを切り裂く。絶対に近寄ったらダメよ」
風の中心にいる天空は尚も不気味に笑う。
「君たち、そんな悠長に構えていてもいいの?この世界から出るのに時間制限があったはずだけど?」
「あっ!」
私は慌てて時間を確認する。
残り時間は、あと三十分弱だ。
まずい。
もたもたしてたら時間オーバーで失格になっちゃう。
どうする?
手をこまねいていても仕方がない。
できることはやってみなくては。
私は式神たちに遠隔攻撃の指示を出す。
「土偶、砂利落とし。天后、岩石投げ」
土偶の小砂利は天空の台風に落下したと思えば、全て何処かに弾き飛ばされた。
天后の岩石もまた、天空の台風に触れた瞬間にバラバラに粉砕されてしまった。
むむ、やっぱり効かないか。
私は天の美月の房飾りを一つ取り外して、台風に投げつけた。
バーンと大きな音を上げて、宝玉は爆発したけれど、台風に何のダメージも与えてはいなかった。
「···これも効果なしか」
近づいては切り裂かれ、遠隔攻撃も効果がない。
あっ!
天空がいる所は台風の目だよね。そこは無風状態なはず。
もしかして、上空からなら狙えるかもしれない!
「ソウシ、上空へ行くよ」
青龍刀を構えたソウシが私の前に立った。
「深月、いつでもいいぞ」
私は頷き叫んだ。
「真の姿を現せ、青龍!」
ソウシは青龍の姿に変化し、咆哮を上げる。
私はその背に跳び乗り、ソウシはグングンと上昇し台風の真上につけた。
「ソウシ、このまま落下して、天空を攻撃」
ソウシは急降下する。
天の美月を構えた私と、空を見上げた天空の目が合う。
なにっ!?
天空が笑ってる。
このまま突っ込んだらヤバい。
「ソウシ、急上昇!」
私の指示と同時に、天空の台風から闇の手がグワッと伸びて、私たちに迫りくる。
「ソウシ、急いで台風から離れて!」
グオーっと咆哮を上げ、ソウシの速さは増す。
何とか闇の手を振り切り、地上へ降り立ったけれど、万策尽きてしまった。
天空をどうやって攻略したものか途方に暮れていると、土偶が思い詰めた表情で歩き出した。
「ちょっと、土偶。何処へ行くの?」
土偶はちらっと私に視線を移し、少し淋しげな顔をした。
そしてふうっと息を吐き、キッと台風を睨みつけた。
「俺が何とかする」
ええっ!
この人何いってんの?
「な、何とかするってどうするつもり?」
「考えなんて無い。力ずくで奴をあそこから引きずり出す」
「無謀な事は止めて」
「俺にできることは、このくらいしかない。嫁の役に立つのなら、俺はなんだってする」
「土偶···」
ちょっ···。
どうしちゃったのこの人は。
いつもの土偶と違い過ぎて、呆気にとられた私は、ただ土偶を目で追うしかできなかった。
土偶は天空をしっかりと見据え、台風へと進み出した。
風が土偶に襲いかかる。
土偶の頬や身体に無数の傷ができ、そこから出血している。
「土偶、無茶よ!」
土偶は私の言葉に耳を貸さず歩き続ける。
こんなのダメよ。
土偶が死んじゃう。
何か、方法はないの?
チリチリと、天の美月が訴えかけてくる。
見ると、薄茶色の勾玉が光り輝いている。
この勾玉から力が湧きいでて、光が溢れてくる。
これは、土偶の勾玉だ。
勾玉の光に同調すれば、私の力も勾玉へと流れてゆく。
暖かな光が彼を包み込み、いつしか土偶の傷は癒えていた。
今の土偶なら行ける!
「土偶、力を解放するよ!」
土偶は力強く頷いた。




