国家陰陽師資格試験15
大陰と天后に、それぞれ力を与え、無事に調伏も済んだ。
でも、秘密の多い二人だ。何か隠している気がしてならない。
「二人とも、私に言っておくことは無い?」
大陰と天后はお互いに目配せをし、天后が一歩前に出た。
「深月、あなたに伝えるべき事は確かにありますが、今はまだその時ではないのです。時が満ちるまで、しばらくお待ち下さい」
天后の隣で、大陰も頷き頭を垂れた。
「そう、分かった」
『忠誠を誓う』か···。
その心に偽りは無さそうだ。
天后は大事な人を助けたい、と言っていた。
それが誰なのか気になる所だけど、彼女たちを信じて、待ってみることにする。
「大陰、次に向かうのはあの大木の所よね」
「そうだよ。準備ができたらすぐに移動するから」
少女の姿に戻った大陰は、懐から清めの玉石を取り出した。
「大陰、いつでも行けるよ」
「分かった!」
大陰は清めの玉石を掲げると、それは大きな光を放ち、私たちを包みこんだ。
目の前が真っ白になる。
光が落ち着いてくると、ようやく視界がはっきりしだした。
私たちは大きな樹を取り囲むようにして立っていた。
その樹は樹齢千年位ありそうな、太く大きな幹の広葉樹で、しめ縄で囲われている。
「それじゃあ、式神を解放するよ」
「うん。お願いね」
大陰は清めの玉石をしめ縄に充てがった。
しめ縄は輝き、清めの玉石はその光を吸収しているように見える。
清めの玉石が力を吸収するにつれ、ポロポロと崩れて行くしめ縄。
その後に、式神が一人姿を現した。
線の細い男性だ。
肩で揃えた髪はさらさらな茶髪で、山伏のような白い衣装を纏っている。
闇に染まっている為か色素の薄い切れ長の瞳は焦点が定まっていない。
その男性は、口の端を少し上げ右手を前に突き出した。
すると、私たちの周りにうっすらと霧が立ち込めてきたではないか。
うわっ!
この式神って、天候を操れたりするの?
「ねぇ大陰、あの式神の情報って教えて貰えるのかな?」
大陰は少し考え込んでいる。
「私はお姉ちゃんの式神になったから、詳しい情報をあげたいのは山々なんだけど···。この仮想空間は制約がとても多いんだ。なぜならここは国家陰陽師資格試験の舞台だからね。あんまりえこひいきすると、お姉ちゃんが失格になっちゃう。だから公開できる情報は一部になるよ。それでもいい?」
「もちろんいいよ」
大陰はホッとして私の近くに来た。
「分かった。あの式神の名は天空。私たちと同じ、十二天将の一人だよ。霧や黄砂を操ることができる。私が言えるのはここまで。後は戦って、自分の肌で感じてみて」
「大陰、ありがとう」
あの式神は天空と言うのか。
大陰からの情報と私の見立てでは、術を主に使う式神のようだ。
私たちの周りには霧が深く立ち込め、見通しが悪くなってきた。
「お姉ちゃん、天空が動くよ。気をつけて」
大陰が身構えた。
目を凝らして見ないと、霧が深くて天空が霞んでしまう。
そして、天空が完全に見えなくなると、式神のみんなも見えなくなった。
「誰かいる?」
私は叫んでみたけれど、何処からも返事がない。
おかしい。
いくら視界が悪いといっても、声は聞こえるはずだ。
なのに返事が無いところを見ると、天空の術にかかっている可能性が高い。
近くにいたはずの大陰を探してみる。
その姿は確認できず、息遣いも感じられない。
手を伸ばしても触れるものはない。
そこには何も存在していないようだ。
この霧が怪しいように思う。
どうやら、私たちを孤立させ、力を削ぐのが目的なんじゃないかな。
じっとしていても術に嵌まるだけだ。
それならすぐさま行動して、現状を打開しなければなるまい。
私は天の美月を胸の前に掲げた。
力を通すと、ぱらりぱらりと扇は開き、美しい姿を現した。
私は力を調節し、天の美月を振るった。
疾風が、濃霧を吹き飛ばす。
霧は足元から上空へと運ばれ、見通しが利くようになった。
「あっ!」
思わず私は叫んだ。
なぜなら、式神たちは全員、石像のように固まったままだったから。
「へえ。君だけが僕の術を見破った」
顎に手を当てた天空は、クスッと笑った。
「みんなを解放して」
「いいよ」
「ええっ!?」
素直にいいよって言うなんて思いもしなかった!
私が訝しげに天空の顔を見ていると、彼はゲラゲラと笑い出した。
「なに、ダメだって言ってほしかったの?」
「えっ?いや、意外な返答だったから、ちょっと面食らっただけよ」
「そう。やっぱ解放するのは止めにする」
「はああっ?!」
なにこの人?
なんでこんなにコロコロと意思を変えるわけ?
むむ!
なんだかやりにくいな。
天空は、何が面白いのかひとしきり笑った後、真面目な顔をした。
「君の百面相はかなり楽しめるね。そうだな、一人だけなら解放してやってもいいよ」
この人、全くもって信用ならない。
言ってる事をそのまま信じる事はできない。
私が睨んでいると、天空は土偶の前まで歩いて来た。
そして彼をまじまじと観察している。
「この式神、かなり闇が濃いな。君の式神なのに、繋がりが希薄だ。君、こいつの事どう思ってる?」
どう思ってるって、土偶は私の大事な式神だ。
だけど、土偶の性格は問題大有りなんだよね。
「君のその顔を見ると、この式神に不満を持っているようだな」
「えっ?!」
ぎくっとして天空を見ると、彼は意味ありげに笑った。
「こいつに決めた」
なんなの?!
絶対に何か企んでるよね。
天空の周りには砂煙が舞い上がる。
「天空、一体何をするつもり?」
「何って、君の不満を解消するのに協力するんだよ。この式神は必要なさそうだから、この僕が君から解放してやる」
「はあっ?!」
解放してやるって、意味が違うよ。
天空の術に囚われてる式神を解放して欲しいと頼んだのに、何でこうなった?
私から解放したら、土偶は私の式神じゃなくなっちゃう。
天空の周りに浮かび上がった砂煙は次第に勢いを増し、砂嵐の様相になった。
無防備な土偶や他の式神たちにこの攻撃が当たったら、ただでは済まない。
私は天空と土偶の間に割って入り、両手を広げた。
「確かにこの式神は闇が強いかもしれない。でも、今彼は成長している途中なの。彼は彼なりに努力しているの。私の大事な式神を傷つける事は許さない」
式神たち全員を守らなきゃ!
私は胸の前で天の美月を水平に持ち、霊力を放出した。
大きくなった私の力は、式神全員を覆い、更に拡大し続ける。
森を覆ってしまうほど、大きくて強力な結界を作り上げた。
真珠色にキラリと輝く私の結界。
どんな攻撃が来ようが防いでみせるし、大切な人たちを絶対に傷つけさせない。
「へえ!凄い物を見せてくれるね」
天空は瞠目して術を消し去り、しばらく考え込んでいた。
そして、フッと笑いパチンと指を鳴らした。




