国家陰陽師資格試験14
勾陳の中に流れ込んでいく私の力。
眉間から光が全身に行き渡り、次第に勾陳は落ち着きを取り戻し身体の震えも治まり、恍惚とした表情で私を見上げている。
全ての力を流しきり、細胞の隅々まで光は行き渡った。
瞠目しながら勾陳は立ち上がった。
「これがお前の力なのか?」
「そうよ」
「凄いな。体中に満ちた光によって、数倍は強くなったみたいに感じる···。所で···」
勾陳はキョロキョロと辺りを見回し、何か探しているようだ。
「勾陳、どうかしたの?」
私の問いを片手で止めて、二人の前に立った。
二人とは、木陰に隠れていただいちゃんとてんこちゃんの事だ。
立ちふさがる勾陳を見た二人は慌てふためいて、ジェスチャーで何かを訴えている。
「おい、大陰に天后。お前たち、一体何をやってるんだ?」
ん?
大陰に天后?
だいちゃんとてんこちゃんに向かってそう呼んだよね?
だいちゃんが大陰で、てんこちゃんが天后?
それが、彼女たちの本当の名前なの?
「あわわわっ!勾陳のおしゃべり!」
「今ここで言う?あなたは、空気を読むことを覚えなさいね」
大陰は頭を抱え、天后は「ああっ」と嘆いて肩を落としている。
「は?なんで隠してるわけ?別にいいだろ、ホントのことを言ったって。お前たちも、深月の式神にしてもらえよ」
「うわああっ、勾陳のバカ!あんたのおかげで計画が台無しだよ」
なんだか、三人の間で話しが進んでしまい、私は蚊帳の外って感じなんだけど。
ていうか今の会話、聞き捨てならないよね。
「ちょっと待って!あの、どういう事なのかな?だいちゃんが大陰で、てんこちゃんが天后?それでもって、三人とも知り合いの式神ってことなの?」
大陰は盛大にため息をついた。
「そうだよ。私は十二天将の一人、大陰。てんこちゃんは天后。二人とも式神なの」
「うわっ!」
なんてこと!
あの二人は何か秘密があるに違いないとは思っていたけど、まさか式神だったとは!
大陰はイラッとしながら勾陳を睨んだ。
「こんなにも早く、私たちの正体を明かすつもりはなかったんだけど。本当は、最後の瞬間にババーンと打ち明ける予定だったんだ。もう!勾陳のバカのお陰でさ、全て台無しじゃん」
「おい!さっきからバカバカ言うな!この、腐れババアがっ!」
勾陳ったら、こんな幼気な子供に向かって、腐れババアとか汚い言葉を使うなんて酷い!
「勾陳、あなた子供に向かってなんてこと言うの?」
「はあ?どこが子供だよ?ババアにババアつって何が悪いんだ」
勾陳ったら悪びれもせずにまたも汚い言葉で罵るし。
これは本気で注意しなくちゃいけないと、一歩踏み出そうとした時、大陰は「お姉ちゃん、大丈夫だから」と言い、首を横に振った。
大陰は物凄く悪い笑みを浮かべ、勾陳を指差した。
「勾陳、言って良いことと悪い事があるって、じっくり教えてあげた方がいいみたいだねぇ」
「あぁ?」
なんだか大陰の雰囲気が変わってきたような?
おさげにした白髪はするするとほどけ、それは蛇が蠢くように伸びて広がった。
そして、白髪は勾陳に絡みついたかと思うと、身体ごと持ち上げ、宙吊りにした。
「うげっ!離せこの腐れババア!」
「まだ言うか」
そう言い放つと、大陰の表情はガラリと変わった。
眉間にシワが入ったかと思うと、次々に顔にシワが刻まれていく。
見る間に大陰は老女の顔になった。
ええっ!!
どういう事?!
子供だと思っていた大陰がおばあちゃんになっちゃった!
うそー。
勾陳がババアと呼んでいたのは、間違いじゃなかったって事なの?!
辺りのざわめきをよそに、大陰は至って冷静で、指をパチンと鳴らした。
すると、白髪は勾陳の足首に絡みつき、逆さ吊りにするとブンブン振り回した。
「ぐあああーっ!止めてくれー」
「ふん、うるさいね。何を言ってるんだか分からないねぇ」
フフフっと大陰は不気味に笑った。
「ねえ、大陰。その辺にしてあげて」
天后が助け舟を出した。
私もそろそろ許してあげたらどうかなって思ってたから、ちょうど良かった。
「ちっ!分かったよ。勾陳、天后に感謝するんだね」
大陰はまた、パチンと指を鳴らすと勾陳に絡みついていた白髪は、勾陳を大地へと降ろした。
そしてゆっくりと短くなり勾陳から離れて行った。
「うっ···目が回る」
勾陳はやっと解放されると、ふらふらになってしゃがみ込んだ。
天后は近寄ると、微笑んで諭した。
「勾陳、大陰にちゃんと謝りなさいね」
勾陳は上目遣いで彼女を見上げると、ふいっと横を向いた。
「やなこった。なんで俺が謝らなきゃならない?天后、余計なお節介は止めろ」
「勾陳···」
天后は引きつった笑みを浮かべたまま、大地に拳をダンと突いた。
ぐらっと大地は大きく揺れた。
天后の拳から大地は裂け、大きな溝ができた。
うわっ!
なんという怪力!?
あまりの凄まじさに、開いた口がふさがらない。
天后って、エレガントで品のある人だと思っていたけど、全然違った。
凄まじい力の持ち主だ。
すぐ前に出来た大きな裂け目に落ちそうになった勾陳は、真っ青になって後ずさった。
「おい天后!お前何するんだよ、危ないだろ?」
「あら、そうかしら?」
天后は相変わらず引きつった笑顔で、今度は大岩を持ち上げた。
「げ!?」
「プレゼントよ。受け取りなさい」
そう言うと、天后は大岩をポイっと投げ、勾陳の真後ろにダンと落とした。
「あわわわっ!」
勾陳は思わず尻餅をついた。
「はいはいっ!ストップ」
勾陳の側に躍り出た私は、大陰と天后に向き合った。
勾陳は意地を張った手前、素直に謝れないでいる。
このまま放っておいたら、ズタズタになるまで二人の式神にいたぶられ、収拾がつかなくなるだろう。
ここは私が何とかしないとね。
「ねぇみんな。あなた達三人がが強いという事はよく分かった」
式神三人はウンウンと頷いている。
「でも、こんな何も無い所で実力を披露したってつまらないでしょう。まだこの先には敵が待ってるんだからさ、そこであなた達の力を見せてよ」
式神三人は顔を見合わせ頷いた。
「し、しょうがないな。深月がそこまで言うんなら、俺の実力を見せてやってもいいぜ」
勾陳はようやく笑顔を見せた。
意地を張って仲違いするよりも、みんなが仲良く笑いあっていた方がずっと良いよね。
大陰と天后は、そんな勾陳を見てため息をついた。
そして真面目な顔になり、私の前に並んで跪いた。
「深月の心遣い、感服いたしました。我ら大陰、天后の二人は、深月に永遠の忠誠を誓います」
そう言うと、二人は深く頭を垂れた。




