国家陰陽師資格試験13
うわぁっ!
凄い。
瞬間移動しちゃったよ。
仮想空間ならではの技なのかな。
目の前には光を放つ大きな岩が、でんと鎮座しており、そこには呪符がベタベタと貼り付けられていた。
闇に染まった式神が居るはずなんだけど、その姿は見えない。
「お姉ちゃん、この岩の中に式神が封じられているんだ。今から式神を解放するよ」
「分かった」
そうか。
式神の姿が見えなかったのは、あの呪符で式神を封じているからなのだろう。
だいちゃんは清めの石で呪符に軽く触れると、呪符は破れ崩れ去った。
全ての呪符が取り払われ、だいちゃんは一歩下がると身構えた。
バキっと大きな音がして、岩の上部から亀裂が入ると、見る間に亀裂は大きくなり、岩の中から闇が溢れ出る。
そして、そこから影が現れた。
「げほげほ···やっと出られた」
影の正体は筋骨隆々としたイケメンだ。
黒髪を三つ編みにしている。
彼は辺りをぐるっと見回し、私と目が合うとつかつかと歩み寄った。
「お前だな。よくも俺をこんな窮屈な所に閉じ込めやがって!」
「はっ?いやいや、私知らないよ」
この人一体何いってんの?
今初めて会ったのに、閉じ込めようがないでしょう。
言いがかりをつけられても困るんだよね。
三つ編みのイケメンは眉間にしわを寄せ、私をまじまじと見た。
「この中でお前ほど強大な力を持つものはいない。よって、俺を閉じ込めるのが可能なのはお前しかいない。分かったか?」
はあ?
何その勝手な理屈は?
全然意味が分からない。
「あのね、私貴方に会うのは今が初めてよ。なのに、どうしたらあなたを封じることができるの?よく考えたらおかしいって分かるでしょ?」
三つ編みのイケメンは益々険しい表情になった。
「そんなの知るか!会ったのが初めてとか、そんな事はどうだっていいんだよ。お前が強いということを認めろ。そして俺と戦え」
「はあ?」
うわっ!
この人、めっちゃ好戦的だよ。
そして、こちらの話しが全く通じないし、噛み合わない。
きっと、纏わりついている闇のせいだ。
目も座ってきているし、思考が正常に働かないんじゃないかな?
本能のままに行動している気がする。
戦えとか言われたら、本当は「いやよ!」と言っているところだけど、闇に染まった式神を元に戻すのが目的だし、逆に戦わなければ話しは進まない。
だから、このまま戦っても何の問題もないわけで。
式神たちは、殺気立った雰囲気を感じて、私を守るために取り囲んだ。
私の前に立ち、三つ編みのイケメンに対峙しているのはソウシだ。
「深月、お前は後ろに控えていろ。俺たちが戦う」
それを聞いた三つ編みのイケメンは、むっとして詰め寄った。
「お前じゃ相手にならん。後ろの女を出せ」
ソウシは青龍刀を構えた。
「やってみなければ、分からないだろう」
三つ編みのイケメンとソウシの間に火花が散った。
あわわっ!
なんかまずい雰囲気になって来たよ。
先にソウシを出してもいいかも、とも思ったけれど、三つ編みのイケメンがやたらと私に執着してるんだよね。
私と戦わないと、彼は納得しないと思う。
時間も限られていることだし、最初から私が出よう。
「ソウシ、ありがとう。あなたは下がっていいよ」
「深月、だが···」
私は心配そうなソウシの肩に手を置いた。
「私は大丈夫よ。もし危なくなったら、その時は助けてね」
ソウシは表情を曇らせたものの、瞬時に切り替え一礼し、後ろに控えた。
私は三つ編みのイケメンに向き直った。
「いいよ!戦おうか」
私がそう言うと、彼は「ほう」と呟き、不敵な笑みを浮かべた。
「その目、気に入った。俺の名は勾陳。お前、名は?」
「私は雪村深月よ」
「深月か、覚悟しろよ」
勾陳は右手を前に突き出したかと思うと、その手には長い槍が握られていた。
頭上でくるくると槍を回し、疾風のようなスピードで突きを繰り出す。
槍先は私の頭を掠めた。
うっわ!危ない。
私は天の美月を構える間もなかった。
なんとか避けることができたけれど、速すぎる。
ヒヤッとして、焦りが出ていることに気がついた私は、ふうっと息を吐く。
こういう時は落ち着かなければ、必ず失敗する。
「おい深月、本気を出せよ」
むむ。
言ってくれるよね。
勾陳は凄いスピードだけど、私だって負けてないよ。
伊達に、今まで戦いを重ねて来たわけじゃないんだ。
私は勾陳との間を取り、天の美月を構えた。
胸の奥から力が湧き出でて、全身を包む。
それは大きく広がり、勾陳や式神たちをも包みこんだ。
相手の呼吸を感じる。
そして同調するんだ。
一つも取りこぼすことなく、感覚を研ぎ澄ませよう。
よし。
行くよ!
私は駆け出した。
次々に繰り出される槍を避けながら、走る。
槍と扇ではリーチに差があるので、なかなかこちらの攻撃は届かない。
攻めあぐねて、防戦一方になる。
「ちょこまかと、避けるばかりじゃ、面白くない」
勾陳は力まかせに槍を振り下ろすと、大地にザンと突き刺さった。
勾陳の攻撃パターンもよく見れたし、こちらもそろそろ反撃開始と行きますか。
私は天の美月の形状を扇からムチに変化させた。
月の光を受けて、オレンジ色に輝く天の美月はとても美しい。
「なっ?!武器が変化した···」
勾陳はムチになった天の美月を目の当たりにして驚愕し、一瞬の隙ができた。
今だ!
私はそれを見逃さず、攻撃を繰り出した。
左肩に攻撃がヒットし、勾陳は後退り、槍を構え直した。
「深月、その武器はどうなってるんだ?」
私はその問いに答えることなく、連続して攻撃を加えた。
先程とは攻守が逆転し、私が優勢だ。
「お、おい、質問に答えろ!」
「問答無用よ!」
私のムチが勾陳の槍を絡め取り、その勢いのまま、遠くに放り投げた。
「くっ、なんだよ、そのムチは!」
勾陳は槍を取り戻すために、私に背を向けると、猛スピードで駆け出した。
その間、私は神器の形状をムチから扇に戻し、胸の前で扇を水平に持ち、力を解放する。
パラリパラリと扇は開き、美しい姿を現した。
これから舞うのは愛の舞だ。
勾陳が武器を手に取り、こちらを振り向いた時、既に私は舞い始めていた。
勾陳の目は私の動きに釘付けになっており、一歩も動くことができない。
舞の効果で勾陳の全身から、闇が立ち上っている。
闇は上空でキラキラと輝きながら光に還ってゆく。
舞い終えた私は、扇をパチリと閉じた。
全ての闇が光に還った。
闇が祓われた勾陳の瞳には、確かに輝きが戻っている。
ただ、その急激な変化を受け入れられないのか、勾陳は呆然とし、片膝をついた。
この流れから行くと、この人もやっぱり調伏だよね。
私は扇を勾陳の眉間に充てがい、叫んだ。
「調伏、勾陳!」
天の美月から、ぶわっと力が溢れ出した。




