国家陰陽師資格試験12
騰蛇はひとしきり飛び回ると私の前に来て、パタパタと羽ばたき、小声で「これあげる」と言い何かを手渡してきた。
「騰蛇、ありがとう。これは何?」
「僕の大事な物さ」
それは小さな鍵だった。
これってもしかして、この仮想空間から出るための鍵なんじゃないの?
少し離れた所から、トコトコとベアが歩いて来た。
「ベア、これが手に入ったんだけど見てくれる?」
そう言ってベアに鍵を手渡した。
ベアは神妙な顔で鍵を眺め、頷いた。
「はい、確かにこれは鍵ですね。これでお題はクリアですが、今すぐこの世界から出ますか?」
やった!
敵も倒して仲間にしたし、思ったよりも早くここから脱出できるよ。
「もちろん!でも、ちょっと待ってね。帰る前にみんなにお礼を言ってくるから」
今回の戦闘で色々とアドバイスをくれた、だいちゃんとてんこちゃんにお礼を言わないとね。
彼女たちのお陰で勝利できたわけだし。
このまま別れるのも、なんだかさみしいからね。
「だいちゃんにてんこちゃん。あなたたちのお陰で、この鍵が手に入ったよ!本当にありがとう」
「そんな、私たちは知ってることを話しただけだよ。騰蛇に勝てたのはお姉ちゃんの実力。ホントに強かった」
おめでとう、と二人は言うけれど、なぜか表情は晴れない。
問題は解決したはずなのに、おかしいよね。
「あの、二人ともどうしたの?元気がないみたいだけど?」
私の言葉にてんこちゃんが必死な顔で近寄ってきた。
「お姉ちゃん···いえ、深月さん。お願いです、その鍵を私に下さい」
「ええっ?!」
この鍵はこの仮想空間から出るための大事なアイテムだ。
それが欲しいって、どういう事?
だけど、てんこちゃんはあまりに鬼気迫る表情をしている。
これは何か事情があるのかも。
「てんこちゃん、どうしてこの鍵が必要なのか、教えてくれる?」
コクリと頷いて、てんこちゃんは話し始めた。
「私の大切な人が囚われています。その人を助けるのに、その鍵が···騰蛇の鍵が必要なんです。わがままなのは分かっていますが、どうか私の願いを叶えてくださいませんか?」
どうしよう。
この鍵がなければ帰れない。
でも、こんなに表情を曇らせているてんこちゃんを見捨てて、私だけ帰る事を選んでは、絶対に駄目だと思う。
確か陰陽師連盟の三鷹さんも言っていた。
国家陰陽師として行動することって。
もし私が国家陰陽師だったら、困っている人を放っておいて、自分の事を優先したりはしないはず。
良し!
時間もあることだし、ここはてんこちゃんとだいちゃんに協力していこう。
「分かった。この鍵を使って」
そう言って、てんこちゃんに鍵を手渡すと、彼女はポカンという顔をした。
「えっ!本当にいいんですか?これはあなたが帰るのに必要なものなんじゃ···って、お願いしたのにこんな事を言ったらおかしいのですが、まさかホントに鍵を頂けるなんて思わなくて···」
「これが必要なんでしょ?まだ時間もあることだし、私にできる事があるなら協力するよ」
「っ!」
てんこちゃんは感極まって泣きだした。
「もう、また泣いてる」
だいちゃんはこめかみを押さえため息をついた。
「お姉ちゃん。騰蛇の鍵をありがとう。それじゃ、早速行こうか。私についてきて」
返事も聞かずに歩き出しただいちゃんの後に続いて、私たちも歩き出した。
向かった先は騰蛇の塔の中。
騰蛇の張った結界は、先ほどの調伏後に消えていた。
私たちは塔の入り口から入って中を見渡した。
大きな広場から螺旋状に階段が続く。
上階へと続く階段と地下へと続く階段がある。
「こっちだよ」
初めから場所を知っていたように、迷いなく地下へと進むだいちゃんは早足で、付いていくのもやっとだ。
「ここで合ってるはずだけど···」
地下へ到着し、眼前に現れた扉を開けるとそこは小さな部屋だった。
小部屋の中央には大理石でできた台座があり、その上には宝箱が乗っている。
だいちゃんは宝箱の前に立ち、騰蛇の鍵を宝箱の鍵穴に差し込んだ。
その途端、ガシャンと音を立て宝箱が開いた。
なになに?
宝箱の中には何が入ってるの?
興味津々な私は、だいちゃんのすぐ横から顔を出し、宝箱の中を見た。
箱の中には玉虫色に輝く玉石があり、それはうっすらと光を放っていた。
「だいちゃん、これは何かな?」
だいちゃんは宝箱の中からその玉石をそっと取り出した。
「これは清めの玉石と言って、騰蛇を倒さないと手に入らない貴重なアイテムなんだ」
「へえ」
清めの玉石か。
とても綺麗なその玉石は手のひらに乗るくらいの大きさで、この輝きで辺りを照らす。
清めって名の通り、その場を浄化してくれそうな玉石だ。
「これは、みんなを助けるための玉石。騰蛇みたいに闇に染まった式神がまだいるんだ。この玉石はその式神たちの所へと導いてくれる」
「ええっ?闇に染まった式神がまだいるの?」
「うん、そうなんだ。お姉ちゃん、時間がないからよく聞いて。これからある式神と戦わなくちゃいけない。式神たちの闇を祓って彼らを助けて欲しいんだ。連戦になるけど大丈夫?」
うわっ!
戦いは避けては通れないと思っていたけど、やっぱりか。
しかも、《《彼ら》》という事は、式神は複数いるらしい。
でも、時間も体力も霊力も、十分あるからね。
「うん、大丈夫。いつでも行けるよ」
「流石だね。それなら私についてきて。細かい事は現場で説明するから」
そう言うと、だいちゃんはまた歩き出した。
階段を上がり塔の一階部分から、今度は塔の上階へ向けて階段を上っていく。
塔の最上階に出た。
「ここから見渡して、何か気づくことはある?」
だいちゃんに問われ、辺りを見渡す。
満月の光がこの広い仮想空間を照らしている。
その中にニカ所、強い光を放っている場所があった。
「あそこの岩場と少し離れた森の大木の所、光ってる。あそこに何かあるんでしょ?」
だいちゃんは手に持った玉石を空に掲げながら頷いた。
「そう。あそこに式神がいるんだ。これから私たちはあの場所へと向かうよ。準備はいい?」
これからすぐに戦闘が始まる。
私は式神たちに目配せをして頷いた。
「準備はOKだよ」
「分かった。じゃあ、行くよ」
だいちゃんの手の中で清めの玉石が大きく輝いた。
塔から空へと光の柱が立ち昇る。
その光に包まれた私たち。
気がつけば、私たちは塔から大きな岩場の前に移動していた。




