国家陰陽師資格試験11
上空からこちらを見下ろす騰蛇は、未だ動きを見せない。
よくよく見ると、騰蛇の周りには闇が漂い、瞳は暗く濁り焦点が合っていないようだ。
この症状は、シュリが闇の法具で操られていた時と酷似している。
まさか、騰蛇は操られているとか?
ここからだと闇の法具を着けているようには見えないんだけどね。
効果があるかどうか分からないけれど、私も騰蛇に攻撃を加え、様子を見ることにした。
先ずは扇からと思ったけど、上空までの距離があり過ぎて、こちらの攻撃が届かないんだよね。
すぐさま、扇を鞭に切り替えて、私は走り出した。
「ええい!」
鞭は私の思うままに伸び、騰蛇へ到達した。
バシュッと確かに攻撃は当たった。
でも、騰蛇は平然としており、全くダメージを与えていないように見える。
騰蛇は大空を舞い、炎を撒き散らす。
炎は闇を纏って大きくなり、私たちに襲いかかる。必死に炎をかい潜り、なんとか攻撃を避けきった。
なんだかさっきよりも攻撃が強くなってない?
それに、騰蛇の闇が大きく濃くなったような気がする。
なんだろう。
嫌な予感がする。
気のせいで済ませたらダメだよ、きっと。
「だいちゃん!聞いてもいい?」
「お姉ちゃん、何?」
物陰に隠れていただいちゃんが、ひょっこり顔を出した。
「騰蛇に直接攻撃すると、取り巻く闇が濃くなったように感じるの。攻撃を続けたら騰蛇は物凄く強くなるんじゃないの?」
だいちゃんは思いっきり頷いた。
「その通りだよ。普通の攻撃じゃ絶対に勝てない。みんなあの闇に飲み込まれてしまうんだ。それで今まで誰一人騰蛇を倒せなかった。だからといって、どうすれば騰蛇を倒せるのかも分からない。その方法は戦いながら考えるしかないよ」
「そうなんだ。だいちゃん、ありがとう」
通常攻撃を加えると、闇が強くなる。
という事は、無駄に攻撃を加えるとそれだけ相手を強化してしまうのだ。
これは本格的に、戦法を変えないといけない。
有効な攻撃方法も分からない今、私一人で戦うには限界がある。
こうなったら、ソウシと共に戦うのが勝利への近道だと感じる。
「ソウシ、あなたの力を貸して」
「深月、よろこんで。共に戦おう」
私はソウシに向けて天の美月を掲げた。
「真の姿を現せ!青龍」
私の叫びに咆哮を上げ、ソウシが青龍の姿へと変化した。
私は迷わず青龍の背に跳び乗った。
「ソウシ、騰蛇を倒す方法を見つけないといけないの。色々試してみるから協力してね」
ソウシは怒ったような笑ったような顔をした。
「お前の要求には全て応える。さあ、何から始める?」
ん、いい感じだね。
意思疎通のできる式神と共に戦うのは、本当にわくわくする。
無謀な戦いに挑戦しているようだけど、心の底ではきっとなんとかなるって思えるんだよね。
それでは行ってみよう。
「ソウシ、上昇して騰蛇の前につけて」
「深月、承知した」
ソウシは上昇し、騰蛇の前に来ると静止した。
「ソウシ、あなたの得意な術を見せて」
「分かった」
ソウシはフーっと大きく息を吸い込み、精神を統一しているようだ。
「大地の緑よ、我が意に応えよ」
ソウシの濃紺の身体が銀色に輝きだした。
大地から多くのツタが出現し、それは見る間に大きく太くなる。
そして騰蛇へと絡みつき、見事に動きを封じた。
「ギ···ギギィ」
騰蛇はツタに締め付けられ、苦しみもがいている。
騰蛇の周りにバッと炎が燃え上がった。
それは闇の力と合わさり、巻き付いたツタをあっという間に焼き払った。
そして、闇がいくつもの手のように蠢き、こちらに向かってきた。
あの手に捕まってはマズい!
「青龍、上昇してあの闇の手を振り切るのよ!」
「分かった。深月、振り落とされないように、しっかりつかまれ」
「うん!分かった」
グングンと上昇し、次から次へと襲い来る闇の手から逃れる。
風を切り空を舞うソウシに振り落とされないよう、私は必死に掴まる。
闇の手は、諦めることを知らず、その触手は四方へと広がった。
ジリジリと間合いを詰められ、すぐそこまで闇が迫ってきた。
ソウシは「ならば、これを喰らえ」と、叫んだ。
ソウシの手に持っていた龍の宝珠が強い光を発して、そこから幾筋もの光が走り、闇を捉える。
光の矢が突き刺さるが如く、闇を貫き、闇は徐々に後退してゆく。
凄い!
光が闇を圧倒している。
「あっ!?」
「ギィー!」
もう少しで闇が払われると思った瞬間、騰蛇が甲高い声を上げた。
強すぎる光には、必ず闇が生まれるものだ。
騰蛇の影から、闇が爆発したように、一気に増殖した。
「なんでこんな事になるの?!」
直接攻撃を加えたわけでもないのに、騰蛇の闇は濃く、大きくなってしまった。
一体どうしたら良いの?
直接攻撃もダメだし、術を使っても結局騰蛇の闇は濃くなってしまうんじゃ、打つ手無しじゃない!
急上昇し、なんとか騰蛇からは離れたものの、万策尽きてしまった。
あっ!
ちょっと待って。
もう一つ、方法があった。
「ソウシ、あの技を試してみたいんだ」
ソウシはにぃっと笑って頷いた。
「準備は出来ている。何時でも行けるぞ」
この技なら、騰蛇の闇を浄化できるはずだ。
私は天の美月を鞭から扇に戻すと、霊力を流す。
それは循環しまた私へと戻って来る。
その力は、ソウシへと流れ、大きな流れとなって光り輝く。
私とソウシは同調し、掲げ持つ神器から聖なる青い光が大地へと降り注いだ。
「聖花乱舞」
私の声に応えキラキラと輝いた大地から、緑が芽吹く。
それは見る間に大きく太くなり、天空へと昇るように急成長した。
聖樹は黄金色の蕾をつけた。
蕾はゆっくりと花開き、風とともに一斉に舞い始めた。
それは優しく大地を覆い、空中に静止していた騰蛇も包み込んだ。
「ギ···ギィ···キュウ···」
騰蛇の闇を吸い取るように、黄金色の花弁は次から次へと騰蛇を覆う。
騰蛇の闇は急速に小さくなってゆく。
それと同時に、騰蛇自身も小さく縮んでしまった。
聖花の舞が終わる頃、私の目の前には、手のひらに乗るくらいの大きさになった騰蛇が、少し不安そうに小さな声で鳴いていた。
「キュ、キューイ」
うわっ!
な、なんて可愛いの?!
これがあの騰蛇なの?
私は大地に降り立ち、騰蛇に相対した。
騰蛇って蛇なんだけど、小さい爬虫類なので、全く気持ち悪くない。
瞳がくりっとしてキラッと輝いて、天使みたいな羽根で飛んている姿は、可愛すぎて思わず肩に乗せたくなるほどだ。
小さくて可愛いものに弱い私は、騰蛇の愛くるしい姿にすっかりやられてしまった。
ねえ。
これって、調伏してもいいのかなぁ?
いいよね。
誰もダメって言わないよね。
良し。
調伏しちゃうからね。
私はほくそ笑みながら、天の美月を騰蛇の眉間へと充てがった。
「調伏、騰蛇!」
私の力が騰蛇へと流れ込む。
「キュ、キュ!」
騰蛇は光り輝き、嬉しそうに鳴き始めた。
私の力を全て受け入れると、騰蛇は色艶が良くなり、はしゃいで私の周りを飛び回った。




