表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/120

国家陰陽師資格試験8

二次審査は先程の事務棟で行われるそうだ。


 試験官の案内で事務棟へ入ると、小会議室の並ぶ部屋の前まで来た。

 小会議室は101号室から108号室まであった。


「弓削拓斗さん、101号室へお入りください」


 試験官に呼ばれた拓斗さんは、引き締まった表情で頷くと、試験会場へと入室をした。


 そして次々に合格者の名前が呼ばれ、107号室は真尋が呼ばれた。


「真尋、頑張って」


「ああ。深月もな」


 互いにエールを送り、108号室に呼ばれた私は、深呼吸をして入室した。


 部屋には会議用のテーブルと椅子が数脚。それに大きなモニターと、何かの機械が設置されている。


 あれ、二次審査って実技試験よね。

 この小さな会議室で、何ができるというのだろう?


 訝しげに周りを見回していると、部屋をノックする音が聞こえた。


「はい」


 返事をすると部屋の扉が開き、試験官が入室してきた。


「あっ!」


 驚いて声を上げてしまった。


 なぜなら、入ってきた試験官は、黒装束で仮面をつけた試験官だったから。


 黒装束の試験官は手に持った書類をテーブルに置くと、私に向き合った。


「試験官の三鷹八雲(みたかやくも)です」


 そう自己紹介して、頭を下げた。


 あの人の名前は、三鷹八雲さんと言うのか。


 名前に何かヒントでもあるのかな、と、いくら頭を捻っても、何も引っかからない。

 やはり初めて聞く名前だ。


 だけど。


 彼の声を聞いただけなのに、涙がでそうになるのはなんでなの?!


 なんだか、おかしくなった自分に動揺しつつ、落ち着かなければと胸に手を当てた。


「よ、よろしくお願いします」


 やっとのことでそう答え、相手に動揺が伝わらなければいいなと思った。


「それでは雪村さん。これより、二次審査の概略を説明いたします」


「は、はい」


 ああ。


 試験が始まっちゃう。


 落ち着け、落ち着け。


 それにしても、ホントにこの人なんなの?


 って、三鷹さんが何か私にしているわけじゃないんだから、色々思うほうがおかしいんだろうけど、気になるんだもん。


 はああ。


 やめやめ。


 切り替えなきゃ、試験も上手くいかないよ。


 私はスーハーと静かに深呼吸を繰り返した。


 私の百面相に気を取られていた三鷹さんは、コホンと咳払いをして話しを続けた。


「これからあなたには、仮想空間へ行ってもらいます」


「仮想空間ですか?」


 仮想空間ってなんだろう?

 この部屋の機械類と何か関係があるのかな?


 三鷹さんはテーブルの上にある機械の中から、金色に光る輪を取り出した。


「これを頭につけて下さい」


 手渡された金の輪を頭に嵌めると、テーブル上の機械が動き出し、モニターがほのかに光り帯びた。


「あなたがこれから訪れる仮想空間で体験する事は、このモニター画面に映し出されます。私は現実世界からあなたの体験を観察し、国家陰陽師に相応しいか判断します。あなたは仮想空間で国家陰陽師として行動し、無事に帰還して下さい」


「はい」


 ふむふむ。


 なんだか、面白そう。

 違う世界へ冒険に出るみたいで、なんだかわくわくするね。


「仮想空間へ行くのに際し、式神二人の同行を許可します。ただし、式神はこちらでランダムに決めさせていただきます」


 三鷹さんはそう言うと、机上のパソコンのキーボードを打ち始めた。


 すると、モニターに文字が表示された。


「式神・青龍、式神・酒呑童子」


 ええっ!?


 よりにもよって、この二人とは。


 土偶がソウシを霊酒にするという、因縁深い相手なのだ。


 土偶はどんな思いでいるのか不明だけど、ソウシにしてみれば、決して相手の事を良くは思っていないはず。


 むむ。


 不安だ。

 一波乱ありそうな気がしてならない。


「制限時間は三時間。達成条件は、仮想空間で敵を倒し鍵を手に入れる事。この鍵を使えば、現実世界へと戻ることができます」


 やっぱり敵がいるんだよね。


 不安はあるけど、やるしかないよね!


「わかりました!」


「鍵についてですが、どんな形をしているのか分かりません。あなたが見て、どう思い、どう行動するのか。全てはあなたの判断に委ねられています。質問はありますか?」


「いえ。大丈夫です」


 よし。

 頑張るよ!


 私は土偶とソウシを呼び出した。


 あ、二人の間に不穏な空気が流れてる。


 なんだか、にらみ合ってるし。


 これ、まずいんじゃない?!


 二人には、釘を刺しておいたほうが良さそうだ。


「土偶にソウシ、よく聞いて。これから二人を連れて旅に出るの。いい?決して仲違いしてはダメよ。二人仲良く、とまでは言わないけれど、せめて協力体制で居てくれる?」


 こうでも言わないと、事が上手く運ばないような気がするんだよね。


「深月、分かった。俺は深月の意志に従う」


 ソウシはそう言うと、深く頭を下げた。


「嫁よ。お前がそう言うのなら、仕方がないな。だが、こんな奴より俺の方が役に立つってところを、見せてやる。しっかり見ておけよ」


 うわっ!

 言ってるそばからこれだよ。


「ちょっと、土偶。二人で競い合ってる場合じゃないのよ。お互いに協力していかないと、目的を遂げられないの。分かる?」


 土偶は首を傾げた。


「分かっているさ。大丈夫だから、そんなに気にするな。大船に乗った気でいてくれ」


 うう、不安だ。

 もう、ため息しか出ない。


 いや、私がこんな気持ちでいちゃダメだよね。


 しっかり指示を出していけば、二人は従ってくれるはず。


 気を引き締めて行けば、きっと大丈夫だ。


 そう言い聞かせ、三鷹さんに向き直った。


「それでは雪村さん、こちらの腕時計を嵌め、椅子に座って下さい」


 三鷹さんに手渡された腕時計を嵌める。

 戻る時間をしっかり確認しておかなきゃね。


 指定された椅子に腰掛けると、三鷹さんはパソコンを操作し始めた。


「式神の二人は雪村さんの肩にに触れていて下さい」


 私の左肩に土偶が、右肩にソウシがそっと手を添えた。


「二次審査、開始します。気をつけて行ってきて下さい」


「はい!」


 返事をした途端、眩い光が世界に溢れ、目の前が真っ白になった。


 しばらくすると、霧が晴れるように、目の前がはっきり見えだした。


 ここは、白い部屋の中。


 部屋の中央には豪華な椅子があり、そこに何かが座っている。


 この広い部屋の中に、ぽつんと椅子が置かれているのは、あまりに不自然だ。


 私は警戒しながら、椅子の前まで歩いた。


「何これ?」


 椅子に座っているのは、クマのぬいぐるみ、テディベアだった。


 かわいい。


 茶色のもふもふで、くりっとしたつぶらな瞳に釘付けになってしまった。


 あまりの可愛さに、思わず私はそのぬいぐるみに手を伸ばした。


「勝手に触らないで!」


「うわっ!!」


 伸ばした私の手は、テディベアによって叩き落とされた。


 しゃ、しゃべって動いてるよ!

 何このテディベア、生きてるの?


 凄い!


 テディベアは「よいしょっ」と呟きながら椅子の上に立ち、腰に手を当てた。


 なにげに、偉そうである。


「ようこそ、いらっしゃいました。ここは、仮想空間ルナ。私は管理人の···そうですね、ベアとでもお呼びください」


 ベアって。

 そのまんまだね。


「あの、ベア。ここはどんな世界なの?」


「私が説明するよりも、実際にご自身の目で見た方が良いでしょう。私は道案内役として、あなたの旅に同行させていただきます」


 ベアはそう言うと、ある方向を指差した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ